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ガラティア帝国との交渉Ⅱ

「枢軸国への加盟以外の条件はあるかね?」

「我が国としては、まずワラキア公国の独立を要求します」


 まずは簡単な条件から。ヴラド公の下でゲルマニアに果敢な抵抗を見せたワラキア公国であるが、その本来の目的は武勲を立ててガラティア帝国から平和裏に独立することであった。ワラキア公国にとって、帝国からの独立は長年の悲願である。


「ほう。何故それを、ゲルマニアが要求するのかね? ワラキアは、貴国からして最大の敵ではないか」

「皇帝陛下のご意向です。皇帝陛下は、ワラキア公国の奮戦に感激し、彼らの望みが極力叶うことをお望みなのです」

「皇帝陛下か。都合のいい時だけ皇帝の名を持ち出すのだな、君達は」


 実際のところ皇帝の言葉など内閣がいくらでも操れるし、皇帝の意志となれば合理性は要求されず、方々に便利である。今回の皇帝の意志もまた、内閣がそのような勅語を出すよう皇帝に要請してのものである。


「都合のいい時など、滅相もない。ただ皇帝陛下はあまり自らの大御心をお示しにならないだけのことです」

「リッベントロップ外務大臣、我々の間に建前は必要ない。そう面倒なことはしないでくれたまえ」

「建前など。私はいつも本音で話していますよ」

「まあよい。ワラキア公国の領土は、我が国とゲルマニアの国境に沿うように、細長く広がっている。これを独立させることは、両国の長大に過ぎる国境線を短縮することに繋がる。これは双方にとって利益となる。悪くはない話だ」

「ワラキア公国という領土を失うことは、ガラティアにとって明確な不利益の筈。それについては許容されるのですか?」

「言ったであろう。ワラキアは細長く、面積は大して広くはない。それよりも、国境警備の手間が省ける利の方が大きいだろう」

「なるほど。では、ワラキア公国の独立は承認して頂けるということで、よろしいですか?」

「よかろう。私としても、我が国によく尽くしてくれたワラキア公国には、それ相応の褒美を与えたい。そして彼らが独立したがっていることも知っていた。ならば、やることは一つであろう」

「はっ。承知致しました」


 今日の交渉は調子がいい。立て続けにゲルマニアの要求そのままの内定を得ることが出来ている。しかし、次の議題はそう簡単にはいかなさそうだ。


「次は……レモラ王国についてです」

「やはり、それが我らの間のわだかまりであるな」


 ゲルマニアとガラティアが戦争をしている直接的な原因は、ガラティアから独立したレモラ王国の立場を巡る対立である。レモラ問題の解決なくしては、完全な講和が結ばれることはあり得ない。


「ではまず、我が国からの要求と提案を伝えさせて頂きます。我が国としては、レモラ王国の非軍事化、中立化を保証することで、和平の証にしたいと考えております」

「ふむ。もう少し詳しく」

「はっ。レモラ王国、ゲルマニア、ガラティアの三国で、レモラ王国が固有の軍事力を有しないこと、いかなる勢力とも同盟を結ばないことを取り決めた条約を結び、相互に保証します」


 レモラ王国、ビタリ半島の非武装中立化。それがゲルマニアの提案である。レモラ王国がガリヴァルディらの反乱によって転覆される前の状態に戻すということだ。が、アリスカンダルは不快そうな表情を隠さなかった。


「レモラ王国の行いは、裏切りである。裏切り者にはそれ相応の罰が必要だ。罪を犯した者が何の罰も受けないのは、論外である」

「非武装中立では、満足頂けませんか」

「無論。それは言わば、被害を補填したに過ぎない。刑は何も下されていないではないか」


 レモラ王国に現状復帰以上の罰を求める。それがアリスカンダルの譲り難い条件であった。


「恐れながら陛下、罰を求めることは国家の意思でありますか? それとも陛下の意思でありますか?」

「私の意思は国家の意思だ」

「……そうですか。分かりました。では非武装中立の完成以外に、何が必要なのでしょうか?」

「まず必要なのは、我が軍をレモラ王国に駐屯させることだ」

「それは何故でしょうか?」

「レモラ王国が、そしてゲルマニアが裏切らないと、私は信用出来ない。非武装化も中立化も、我が忠実なる軍団によって監視されなければならない」


 条約監視団を入れることについては、ゲルマニアがかつてガラティアに、ダキアへの派兵を要請したこともある。但しその時はゲルマニア軍とガラティア軍が同時に監視を行っていたが。


「我が軍からも監視団を常駐させてもよろしいのであれば、断る理由がありません」

「それは構わん。我が軍による監視が第一の条件だ。承諾してくれるな?」

「はい。しかし第一の、ということは、まだ条件が?」

「無論だ。これは貴国の不誠実のせいでしかないのだから。そして第二の条件は、シケリア島の割譲である」

「シケリア島、ですか」


 一般に長靴の形をしていると言われるビタリ半島。その爪先、地中海に突き刺さる楔のような島がシケリア島である。アリスカンダルはそれを割譲するよう要求したのだ。

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