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ガラティア帝国との交渉

「リッベントロップ外務大臣殿、会うのが何度目かは覚えていないが、敵として会うのは初めてだな」

「はい、陛下。しかし私は陛下を敵だなどとは思っておりません。ただ戦争状態にある国家の主に過ぎないのですから」

「面白い見解だ。それと、シグルズ君も来たのか。久しいな」

「はっ。僕はただの護衛に過ぎませんが」

「まあ座れ、二人とも。ゆっくりしていってくれたまえ」


 見るからに高級そうな椅子と長机。椅子は10脚ほど並べられていたが、シグルズとリッベントロップ外務大臣しか使わない。反対側に同じ数並んでいた椅子も、アリスカンダルと2人の護衛しか使わないようであった。


「椅子はこんなに要らなかったな。無駄な手間をかけさせてしまった」

「シグルズ君さえいれば他に護衛は必要ありませんから。それに、私はヒンケル総統より全権を委任されております」


 外交における全権を持つ男と、一人で数千人分の力を持つ男。ゲルマニアにはこれで十分である。


「さて本題に入ろう。君達は何を目的に来たのかね?」

「まずは、ゲルマニアとガラティアの間に休戦を結びたく。我が国は最早、貴国と戦うつもりはありません。双方に無意味な犠牲を出さない為に、まずは休戦をお受け願いたいのです」

「なるほど。ゲルマニアでは何やら一騒動あったようだな。それが君達の外交方針を転換させたのか?」


 アリスカンダルはゲルマニアで起きたクーデター未遂について、クロエの諜報活動を通じてよく把握している。そしてゲルマニア軍の行動に明らかな変化を感じ取っていた。


「確かに先日、我が国では少々の騒乱が起こりましたが、大したことは起こっておりません。最初から我が総統のご意志通りの外交を行っているだけです」

「語る気はなし、か。まあよい。我々としても、そちらが攻撃してこない限り、これ以上戦うつもりはない。休戦は認めよう」

「はっ。ありがとうございます」


 連合国軍としても、移動中のゲルマニア軍別働隊を奇襲することは出来ても、守りを固めた主力部隊とやり合う戦力はなかった。この後いかなる講和条約が結ばれるのかは分からないが、今のところは人が死ぬ理由がない。


「さて、それでは和議を結ぶことになるのかな?」

「はい。まずはガラティアと我が国の間で、講和条約の条件を確定させたいかと思います。しかし同時に、両国の間で単独講和を結ぶことは出来ません」

「それはどういうことかな?」

「単独講和は枢軸国への裏切りであり、断じて受け入れられません。ですので、ガラティアには、大八洲との講和を結んで頂くと同時に、ヴェステンラントと大八洲の講和を斡旋して頂きたい」

「講和が成るか決まってもいないのに、随分な要求をするものだ」


 ゲルマニアが目指すのは全面講和。その為には全ての列強の間で講和への同意が成らなくてはならない。ヒンケル総統とリッベントロップ外務大臣は、ガラティア帝国に大八洲と連合国の講和を任せようとしているのである。


「過大な要求であることは理解しています。しかし、世界平和の斡旋者となるとは、ガラティアとしても悪い話ではないのでは?」

「確かに、我々はこの大戦争が始まってすぐの頃から、それを目指していた。悪くない話だな。やってやろう」

「ありがとうございます。とは言え、まずは我が国と貴国の間で和平が成らなければ、何も始まりません。こちらから始めましょう」

「構わん」


 大八洲と連合国の講和が成立してもゲルマニアが戦争状態では意味がない。まずは足元を固めるところからだ。


「とは言え、どうする気かね? 君達が散々要求してきた枢軸国への加盟は、今でも受け入れる気はないぞ?」

「ええ、承知しております。しかし、少々形を変えたのならば、どうでしょうか?」

「ほう? どういうことかな?」

「枢軸国では今のところ、全ての参加国が平等です。この原則を壊し、ガラティアやヴェステンラントを有利にしようかと。具体的にはシグルズから」

「はっ。やることは簡単です。一部の大国に無条件の拒否権を与えます」

「拒否権か。なるほど。拒否権を持つ国は事実上、何をしても許されると」

「はい。身も蓋もない言い方をすれば、そうなります」


 シグルズが嫌々ながら提案したこの制度。つまるところは常任理事国制度である。これがある組織がマトモに機能しないことは承知の上だが、だからこそ、この条件があればガラティアやヴェステンラントは枢軸国に加盟してくれる可能性が高い。


「我々には得しかないようだが、それでは枢軸国本来の要旨から甚だ外れるのではないか?」


 アリスカンダルはリッベントロップ外務大臣に問う。


「確かに、我が総統の望まれる枢軸国の形とは異なるものになってしまいます。しかし、枢軸国に実行力がなくとも、万国で話し合う機会が生まれる。それは無用な戦争に対する十分な抑止力になると、我が総統はお考えです」

「話し合い、か。いずれにせよ、我が国が戦争を決意すれば、枢軸国など無視させてもらうがな」

「それで構いません」

「……ならば、枢軸国に加盟してやってもよいぞ」

「ありがたき幸せです」


 アリスカンダルの同意を得ることが出来た。そうなれば、枢軸国への加盟は時間の問題である。

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