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帝国軍最高司令部

 ACU2315 11/21 神聖ゲルマニア帝国 グンテルブルク王国 帝都ブルグンテン 総統官邸


 ザイス=インクヴァルト大将は逮捕され、裁判と死刑を待つばかりである。また彼の行動を黙認していたとして、カイテル参謀総長はその役目を解任され、参謀本部は大黒柱を失ってしまった。そんな折、シグルズはとある提案を行う。


「我が総統、ここは参謀本部を廃し、軍の全てを総統が直接指揮する体制を構築するべきです」

「私に将軍になれと言うのかね?」

「名目上はそうなりますが――いえ、そもそも名目上は既にそうですね。つまるところ、参謀本部という中間組織を廃止し、軍は総統の命令をただ実行する為の機関になるべきということです」


 ヒンケル総統は既にゲルマニア軍国家元帥であり、軍の最高司令官である。今のところ名目上のものに過ぎなこれに、実際的な職権を与える。軍の自立性を撤廃し、参謀達は総統の要求を叶える為のみに行動するのである。


「なるほど。軍部と政府の指揮系統を一元化するということか」

「はい。我が総統に、我が国の全ての権限を集中させるのです」

「……シグルズ、私にはそんな重荷は背負えんよ」


 ヒンケル総統には、ゲルマニアのあらゆる事項を決定せよと言っているように聞こえた。


「もちろん、一人で全てを決めなければならないなどということはありません。内閣に自立性はなく総統の諮問機関かつ行政機関な訳ですが、軍もそのようにするべきということです」

「そういうことか。それならば、無理な話ではないな」

「どうでしょうか、我が総統」

「今回の件で、私も軍部を統制する必要は理解している。大枠ではそのようにしよう」

「はっ。名前は帝国軍最高司令部などとし、我が総統は帝国軍最高司令官などと名乗るのがよいかと」


 階級と役職は別の話である。ザイス=インクヴァルト大将が西部方面軍総司令官であったように、ヒンケル国家元帥が帝国軍最高司令官に就任するのである。


「気に入った。そのように調整しよう。しかしそうなると、国内の引き締めが忙しくなる。連合国との交渉に私が関わっている暇がないな……」


 自らの足元を固めなければ隣人と殴り合うことなど出来ない。ヒンケル総統は国内問題を優先させるつもりである。


「であれば、大まかな方針を示して頂き、外務省で事を進めるのがよいとも思います」


 リッベントロップ外務大臣は言った。要するに外務省が全て勝手にやるから任せろということである。


「ある程度はそうしてもらうが、大八洲では未だに大規模な戦闘が継続している。外交だけでどうにかすることもまた、現実的ではない」

「はっ。確かに軍の役割はまだ残っているでしょう。一先ずは、ガラティアとの休戦協定をまとめて参ります」

「あくまで非公式な休戦だけだ。ガラティアは今も大八洲と戦っている。ここで単独講和を結ぶのは、大八洲に対する裏切りだ」

「心得ています。今はまず、休戦だけを。また上手くいけば、ガラティアに講和の仲立ちとなってもらいましょう。ガラティアは元々それを望んでいたのですから」

「分かった。細かいことは任せる」


 ゲルマニア軍の戦闘行為は事実上終息しているが、大八洲はガラティア・ヴェステンラントと十万以上の規模で戦闘を継続している。この微妙な状態からゲルマニアは全面講和を取りまとめねばならない。


 ヒンケル総統が国内の体制再編に忙しい中、リッベントロップ外務大臣はガラティア帝国の臨時首都カエサレアに向かった。また護衛の為にシグルズも連れていかれることとなった。


 ○


 専用列車と装甲車を乗り継いで、大急ぎで南下すること2日。魔法を使わないにしては理論値とも言っていい早さで、ゲルマニアの使節団はカエサレアに到着した。


「外務大臣閣下、まもなくカエサレアです」

「もう着いたのか。思ったより早いな」

「考ええる限り最速の手段を休みなく乗り継いで来ましたからな」

「後は、殺されないことを祈るばかりだ。まあ、いざとなったらシグルズ君がいるから大丈夫か」

「人を殺すのは得意ですが、人を守る経験はないので、あまり期待しないでください」

「そうか……。それは残念だ」


 ともかく、カエサレアの城壁の傍に装甲車を止めた一行。城門は既に開かれており、番兵が彼らを案内しに来た。


「ゲルマニアのリッベントロップ外務大臣殿ですね?」

「ええ。リッベントロップです。この度は我々を受け入れて頂きありがとうございます」

「外交官を拒絶するのは野蛮国の行為です。ともかく、アリスカンダル陛下がお待ちです。馬車を用意してありますので、皆様お乗り下さい」

「丁寧な対応に感謝します」


 数両の馬車に乗り、カエサレア中心部の宮殿を目指す。ビュザンティオンの王宮には及ばないが、スルタンの居城としては申し分のない城であった。


「ここが宮殿となります。陛下はこの先の応接間にお待ちです。どうぞこちらに」

「護衛の者は伴って構いませんかな?」

「極力少なくして頂けると助かります」

「承知しました。では一人だけ連れていきます。シグルズ、来てくれ」

「あ、はい」


 シグルズがいれば護衛としては十分過ぎる。そしてついに、リッベントロップ外務大臣とシグルズはアリスカンダルに謁見する。

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