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新たな戦いの予感

「シグルズ、あなたが倒したルーズベルトは、まだ死んではいません。いえ、そもそもルーズベルトに、死という概念は通用しないのです」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。君はルーズベルトのことを知っているのか?」


 大天使の一人、ルーズベルト。あらゆる世界、時に存在し、人類に災禍をもたらす存在。悪魔のようなこの存在は、シグルズが討ち滅ぼした筈であった。


「はい。何故なら私も、大天使の一人なのですから」

「……なるほど。確かに、君は色々と妙な存在だった。そういうことなら合点がいく」

「すぐに分かってもらって助かるのです。私はガブリエルという名を授かっていますが、その名で呼ぶ必要はないのです」

「これまで通りリリーと呼ぶことにするよ。で、ルーズベルトは滅んでいないとは、どういうことだ?」


 この世で最も不愉快な存在を排除した筈だったのに、まだ生きているという。シグルズは当然ながら不愉快である。


「あなたが出会ったルーズベルトは、仮初の体。本体は遠く離れたところにあります。あなたがいくらルーズベルトを殺しても、それは何の意味もないのです」

「じゃあその本体とやらは、どこにあるんだ?」

「ごめんなさい。私にはルーズベルトの専権事項は分からないのです」

「そう、か。仕方ない。で、どうして今頃それを? 僕がルーズベルトを殺した直後に言ってくれてもよかったんじゃないのか?」

「今、世界に平和が訪れようとしています。ルーズベルトはそれを許さないでしょう。人類に攻撃を目論む可能性が高いのです」

「なるほど。それで、僕に何をせよと?」

「出来る限り早く、ルーズベルトの介入の余地なき平和を作るのです。お願いします」

「分かった。どの道そうするつもりだったんだ。忠告ありがとう」

「ええ。あなたを信じていますよ、シグルズ」


 軍部と敵対したのは平和をもたらす為。シグルズの進む道には些かの変更もなく、少々予定より加速するだけである。


 ○


「さて、ザイス=インクヴァルト大将、何か申し開きはあるかな?」


 ヒンケル総統は僅かな護衛だけを伴い、ザイス=インクヴァルト大将と対面していた。大将には手錠も付けず、その軍服も従前通りである。


「申し開き? 私から申し上げることは、もう全て申し上げました。これまで散っていった全ての命に報いる為に、ガラティアを殲滅し、世界に永遠平和をもたらすこと。ただその一存の為に、私は蜂起に及びました」

「それだけか。しかし、君は負けた。自分に大義がなかった為だとは思わないのか?」

「卑劣な裏切りにより、計画は頓挫してしまっただけです。大義は我らにあります。今どんな犠牲を出そうとも、最終的に最大多数の最大幸福を実現することこそ、国家の取るべき最も合理的な選択肢です」

「国家は必ずしも論理だけでは動かぬのだよ。国とは人の集まりに過ぎん。その意思に人の感情が介在するのは当たり前のことだ」

「おやおや。我が国の制度はそんなに原始的だったのですか?」

「確かにヴェステンラントや大八州などの専制国家と比べれば、一応は選挙を行っている我が国の政治に、人の心は関与しにくい。とは言え、政策を決定する者は依然として人間だ」


 人の支配を堂々と掲げているこれらの国の政治が心を持っていることは、法の支配を掲げているゲルマニアもまた感情に影響される。人が人を支配する限り、それは免れ得ない。


「それが本心ですか。……あなたが政党政治を破壊し一党独裁を打ち立てた時、あなたこそがゲルマニアを正しき方向に導く真の指導者だと期待しましたが、やはりそれは間違いだったようです。あなたは所詮、ただの人に過ぎなかった」

「ああ、そうだ。私はただの人だ。私は超人でもなんでもないよ。一人では何も出来ない。ただ少しばかり、人の調和を保つのが上手だっただけだ」

「それで独裁者とは、聞いて呆れますな」

「何でも鶴の一声で叶うのが独裁者だとでも思っているのかね? それは単なる暴君に過ぎない。人の声に耳を傾け、人の心で決断する。それこそが独裁者というものだ」

「そうですか。まあ、あなたがどのような存在であれ、これからもゲルマニアを率い なければならないことに変わりはありません。いずれ来る次の世界大戦を戦う覚悟は、あなたにあるのですか?」

「戦争はなくならない。永遠の平和などあり得ない。私が生きている内に再び戦争が起こるのであれば……その時は、出来るだけ犠牲を少なくすることに尽力しよう」

「それを永遠に繰り返すと?」

「君と決定的に分かり合えないのはそこだな。戦争は必ず起こる。人類がいくら手を尽くしたとしても。永遠の平和を目指す努力は、無意味だ」


 ザイス=インクヴァルト大将とヒンケル総統が唯一、決定的に理解し合えないのは、その点についてだ。ヒンケル総統もまた、永遠平和を否定する。


「それで、本当にいいのですか?」

「本当に永遠の平和が実現出来るのなら、私だってそんな世界に住みたいよ。だが、それは不可能だ。そしてこの国の総統である私に、空想を追い求めることは許されない」

「やはり、あなたとは分かり合えない。最早私の役割は終わりました。好きに処刑でもされればいいでしょう」

「それは裁判所が決めることだ」


 ザイス=インクヴァルト大将の罪状は反逆罪。その唯一の法定刑は死刑である。

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