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黄昏

「まったく……私が自ら走り回る羽目になるとはな」

「か、閣下、休みましょうか……?」

「いや、いい。すっかり老いたとはいえ、私も兵士の一人だ」


 城壁が突破されたことで、ザイス=インクヴァルト大将はブルークゼーレ基地からの脱出を余儀なくされた。僅か十数名の護衛を連れて自ら走る羽目になっていた。


「我々は、一体どこまで走ればいいのでしょうか?」

「北に西部方面軍の駐屯地がある。そこまで走る羽目になるだろうな」

「は、はい……」


 基地から早々に脱出し、友軍のいる駐屯地を目指すザイス=インクヴァルト大将一行。が、その時であった。


「何だっ!?」

「銃撃です!!」

「クッ。敵を見つけ出せ!」


 周辺には茂みが広がる。銃弾がどこからか彼らを襲い、兵士を一人一人撃ち抜いていく。何者かが草木の中に潜んで狙撃してきているのは明らかであった。兵士達は咄嗟にザイス=インクヴァルト大将を守るように円陣を組んだが、敵の姿を見つけることは出来ず、一人ずつその数を減らしていく。


 やがて、大将を守る者で立っている者は一人もいなくなった。


「……狩りをしているつもりかね。誰だ、私を狙う者は!」

「お久しぶりです、大将閣下」

「君は……ヴェロニカか。やはりシグルズは裏切っていたのだな」


 姿を現わしたのはヴェロニカであった。その手には硝煙を噴く拳銃が握られている。


「はい。裏切ったことについては、申し訳なく思っています。しかし、この戦争をこれ以上続けるのは認められません」

「それがシグルズの考えか?」

「はい、その通りです」

「愚かな……。次の戦争は必ず訪れる。その時、何百万の命が失われると思っているのだ!」

「私に言われましても……。私はシグルズ様からの命令を実行するだけですので」

「命令に従うだけの機械と化すか。ならば残念だが、君の姉上を殺すしかあるまい」

「ハーケンブルク城に潜ませていた兵士、ですか」

「把握していたのかね。しかし、対処出来るかな? 君が私を見逃してくれたら、この命令を撤回出来るが?」


 ヴェロニカに揺さぶりをかける。小悪党のような真似だが、そうでもしないとヴェロニカから逃れることは出来ないだろう。


「大丈夫です。私は姉を信じています」

「……本当かね? 君は姉を見捨てることを選ぶのか?」

「ハーケンブルク城は、あなたが思っているより防備を固めているんですよ」

「なるほど。面白い。君が姉の命を危険に晒してもいいというのなら、勝手にするといい」

「はい。拘束させて頂きます」


 ヴェロニカが一人の戦士として非常に優秀なのを、ザイス=インクヴァルト大将はよく知っている。凡人に過ぎない自分が抵抗しても意味はないと。大将は武装解除に応じることにした。すぐに親衛隊が彼を確保しに来るだろう。しかし彼が下した命令が撤回されることはない。


 ○


 一方その頃。ハーケンブルク城下町の一角にある宿場にて。


「もし、お尋ねしたいのですが、あなた方はザイス=インクヴァルト大将閣下に従う方々ですかな?」


 こんな場所には不自然な完全武装で廊下に集まる兵士達。単身で突入したナウマン医長は、全く敵意を感じさせない声音で彼らに尋ねる。


「な、何だ、お前は」

「質問したのは私なのですがな。では質問を変えましょう。あなた方は何をするおつもりですかな?」

「わ、我々は、任務場所に移動しようとしているだけだ」

「国内で移動するだけなのに弾を込める理由が分かりませんな。もしかして、ここで何か騒ぎを起こそうとしているのでは?」

「……お前、何者だ?」

「申し遅れました。私は第88機甲旅団のナウマン医長を申します」

「機甲旅団……裏切り者か。なら、お前は殺させてもらう。運がなかったな」

「それは残念ですな。あなた方を殺さなければなりません」

「なっ……!」


 ナウマン医長は荷物を下ろすかのように、背負っていた機関銃を兵士達に向けて構えた。


「ば、馬鹿め! そんなものを人が扱えると思ってるのか?」

「さて、どうですかな。試してみましょうか?」

「……う、撃て! 殺せ!!」


 兵士達は拳銃を素早く構え、ナウマン医長を容赦なく撃った。が、銃弾はナウマン医長の体に当たると簡単に叩き落されてしまった。まるで戦車を撃っているようである。


「き、効かない!?」

「さて、次はこちらの番です」

「や、やめ――」


 ナウマン医長は機関銃の引き金を引いた。秒間数十発の銃弾を放つ機関銃は、視界に入る兵士をたちまち殲滅した。その巨大な反動を受けても、ナウマン医長の体はほとんど揺らいでいなかった。


 目の前にいた10名ばかりの兵士を殲滅し、その後に飛び出して来た者も皆殺しにし、引き金から指を離すと、静寂と血の匂いだけが残っていた。


「ふう。終わりましたか」


 血の池を踏み荒らしながらナウマン医長は死体の数を数えた。が、その時になって初めて、彼の表情に焦りが浮かんだ。


「数が足りない? まさか、もう先手を打たれているのか!」


 事前に把握していた兵士の数より死体の数が少ない。既にエリーゼを殺しに向かった兵士がいるかもしれないということだ。


「どうかご無事でいてくだされ……」


 ナウマン医長はハーケンブルク城に走った。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 機関銃は一番最初に登場したMG08から更新されてないですかね? [一言] エリーゼが殺されたりしないことを祈ってます… とうとう大将が失脚してしまう… 内戦が始まらなかった(まだわから…
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