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作戦の破綻

「騎馬隊、突撃せよ!! ゲルマニアの侵略者を蹴散らせ!!」

「「おう!!」」


 スカーレット隊長率いる5千の騎馬隊は、長蛇の列をなして進軍するゲルマニア軍の側面に突撃した。


「斬り込め!」

「「おう!!」」

「な、何だっ!?」

「反撃しろ! 撃て!!」


 物陰から突如として現れた騎馬隊。細く伸びたゲルマニア軍ではこれをマトモに迎撃することも出来ず、たちまちその陣形の間に入り込んだ。ゲルマニア兵は個々が小銃や機関短銃で反撃を試みたが、組織的ではない攻撃は魔導兵に対してほぼ無意味である。


「敵を殺す必要はない! とにかく奥に突っ込め!!」


 騎馬隊はゲルマニア軍の長蛇の列を遡上するように進撃。戦車や装甲車を重点的に破壊し、歩兵は死なない程度に斬りつけて放置し、混乱を瞬く間に拡大させていく。


「このままゲルマニア軍を貫く! 進め進め!!」

「「「おう!!!」」」


 兵力は僅かに20分の1の騎馬隊であるが、ゲルマニア軍は長い列になっており、局地的に圧倒的な優位を得ることが出来た。スカーレット隊長はゲルマニア軍を圧倒し、混沌の極致に陥れる。だが、騎馬隊はヴェステンラント軍の一部に過ぎない。


「そろそろ潮時か。歩兵隊、突撃せよ! 敵を殲滅するのだ!!」


 ゲルマニア軍の車列に沿うように隠れ潜んでいた歩兵隊。騎馬隊が敵の統制を完全に破壊したところで、歩兵隊が一気に突撃する。ゲルマニア軍全体が追い討ちを喰らい、兵士達はついに武器を捨てて投降し出した。


「隊長! ゲルマニア軍から通信が入っております!」

「何? 珍しいな。何と言っている?」

「我らに降伏するとのことです!」

「こうも簡単に降るとは。よかろう。直ちに全軍の戦闘行動を停止させよ! 全軍、ゲルマニア兵に手を出すことは許さん!」

「はっ!」


 ゲルマニア軍15万の別働隊は、2時間程度の戦闘で降伏してしまった。スカーレット隊長の敵を混乱させることを優先する作戦によって、死傷者は数百人で済んだ。生き残った者は尽く、連合国軍の捕虜になったのであった。


 ○


「大将閣下、ご報告が。先程、カエサレア攻略軍集団、北部軍団が、壊滅しました……」

「な、何を言っているんだね、君は。一度頭を冷やしてこい!」


 北部軍団が連合軍の奇襲を受けたとの報から数時間。全く音沙汰がないと思ったら、次は軍団が降伏したと言う。ザイス=インクヴァルト大将はそんな馬鹿げた報告を信じることなど出来なかった。


「閣下、その言いにくいのですが、北部軍団が降伏したのは事実です。報告に間違いはあり得ませんかと……」

「またそれかね。そんな戯言を言うために、参謀本部はあるのかね?」

「そ、それはその……」

「下がれ。マトモな報告が出来る人間を呼んでこい」


 二度も伝令を追い返したザイス=インクヴァルト大将。だが、数分で次の伝令が、顔を青くしながら彼の執務室を訪ねた。


「そ、その、閣下、北部軍団についてなのですが……」

「やっと正しい報告を持って来たのかね?」

「は、はい。軍団長のヨードル中将閣下より、通信が入っております」

「おお、中将から勝利の報告か。すぐに繋ぎたまえ」

「はい……」


 魔道通信機を手に取るザイス=インクヴァルト大将。しかしそこから聞こえて来たのは震えた声であった。


「大将閣下、申し訳もございません! 我が軍は、ヴェステンラント軍に敗北しました! 閣下に置かれましてはどうか、この敗北を覆す作戦を、同僚達にお与え下さい!」

「君まで暑さで頭がおかしくなってしまったのかね?」

「閣下! 私は正気です! 嘘など申しません! お気を確かにお持ち下さい!」

「…………はあ。分かった。北部軍団は消滅したのだな」

「え、ええ。その通りです。私も、この命を以て償う覚悟――」

「そういうのはいいんだ。君達は連合国軍の捕虜として大人しくしていろ。無駄に死ぬことはない」

「はっ……!」


 通信は敗北を認めさせるだけに許可されたようで、早々に切断された。ザイス=インクヴァルト大将は思わず新しい葉巻に手を伸ばした。


「か、閣下、その……」

「どうやら、私が間違っていたようだな。我が軍の翼が一本折れた。我が総統との約定に従えば、これで作戦は凍結だ」

「そ、そうですね」

「どうにか総統を誤魔化せないだろうか」 「我が総統は現地部隊から直接の報告を受けています。それは無理かと……」

「ただの戯言だ。真面目に取り合うな」

「は、はあ……」


 カエサレア攻略作戦は、ゲルマニア軍が磐石の布陣を整えられた時という条件で許可された。それが破綻した今、理論上ザイス=インクヴァルト大将は和平交渉の開始に応じるしかない。


「総統官邸に行きましょう。我が総統と今後の対応を協議しなければなりません」

「我が総統、か。総統は今や、目先の利に囚われ、帝国千年の計を全く見失っている。私がこの国を、正さねばならない」


 うわ言のような呟く大将。伝令の兵士はとんでもないことを言い放つ彼に恐れおののく。


「か、閣下? 一体何を……」

「いいや、何でもない。騎士道物語の読み過ぎかな。総統官邸に向かうとしよう」

「はっ!」


 ザイス=インクヴァルト大将は敗北を認めたかのように見えた。

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