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ヒンケル総統の決断

 それから数十分。ザイス=インクヴァルト大将はついに戻って来なかった。


「…………誰か、ザイス=インクヴァルトのを呼び戻してきてくれ」


 ヒンケル総統は人を遣ってザイス=インクヴァルト大将を呼び戻させた。大将は嫌々ながらといった様子で会議室に戻ってきた。


「大将、君は何がしたいんだ? 子供っぽいことはしないでくれ」

「……我が総統に失礼を致しました。申し訳ありません。しかし、私の要望は単純明快です。何度でも申し上げますが、カエサレア攻略の許可を。カエサレアを落とすことこそ、この戦争を終わらせる唯一の手段です」

「……まだ結論を出すつもりはないが、カエサレアを落とすのにはどれほどの損害が出ると予想される?」

「三方から同時に攻撃すれば、10万程の死傷者で済むかと」

「済む、じゃないだろ、その数字は」

「次の世界大戦が起これば、犠牲は恐らく1,000万を超えるでしょう。それを防げるのならば、些細なものです」

「ううむ……」


 確かに、この戦争の犠牲者はゲルマニアだけで150万ほど。次の戦争となれば、両陣営共に技術を高め、遥かに多くの犠牲が出ることは想像に難くない。ザイス=インクヴァルト大将の出した数字は現実味のあるものであった。


「布石は全て整っております。あと少し駒を進めれば、敵に止めを刺すことが出来るのです!」

「君の主張はよく分かった。だが……ザウケル労働大臣、どう思う?」


 帝国の国内問題の元締め、白衣の大臣に、総統は尋ねる。


「どう思う、と言われましても、何について答えればいいんですか?」

「カエサレアを落とすのに、武器弾薬は足りるのか?」

「まあ、そのくらいなら足りると思いますよ。補給の面では特に問題ありません」

「では、人の面ではどうだ?」

「まあとっくにゲルマニアの人口構成は歪み切っているので、今更死者が10万人追加されようと、大して変わらないかと」

「そう、か……」

「我が総統、どうかご決断を」


 ザイス=インクヴァルト大将はヒンケル総統に決断を迫る。


「…………分かった。それだけは認めよう。但し作戦が破綻すれば、それで終わりだ。我々はガラティア帝国と和議を結ぶ。成功しても失敗しても、これがこの戦争で最後の作戦となる」

「はっ。ありがとうございます。我が軍は必ずや勝利します」

「頼んだぞ……」


 なし崩し的に始まっていたカエサレア攻略作戦が正式に承認された。これがザイス=インクヴァルト大将最後の大作戦となるだろう。


 ○


「ゲルマニア軍の動きに特に変化はなし、か」


 アリスカンダルは呟いた。ヴェステンラント軍が大八洲本土に奇襲をかけても、ゲルマニア軍は特に変わらずカエサレア攻略作戦を続けているようだ。


「彼らは元々、バンダレ・ラディンを確保しているか否かは関係なく、カエサレアを落とすつもりでした。トリツとの接続が復活したところで、変わることはないでしょう」


 オーギュスタンは応えた。


「なるほどな。では、我らもやることは変わらない。いや、エスペラニウムの供給が復活した以上、やれることは増えるか。さて、どうしたものか」

「我らの兵力はおよそ10万。正面に構える敵軍30万を撃破するのも悪くはありませんが、敵は守りを固めており、我が方にも多くの損害が出ることは避けえないでしょう」

「敵の主力部隊と正面からぶつかるのは愚策だな。ここは、南北から接近する敵勢を各個撃破するべきだろう」

「同意します」


 分進合撃を試みるゲルマニア軍。それが合流しないうちに撃破するのが最善の策であろう。今の連合軍には城を打って出る余裕がある。


「しかし、そうさせない為に、敵軍がそこにいるのでは?」


 クロエは言う。カエサレアの正面に布陣する部隊は、カエサレアの中に戦力を封じ込めておく為にあるのではないかと。


「ああ、その通りだろう。だから隠密に兵を動かす必要があるな」


 アリスカンダルは答えた。


「隠密、ですか」

「幸いにして、君はその手段を知っているのではないか?」

「確かにそうですね。陛下に地図を提供してもらって、魔法を封鎖しての出撃ならば、ゲルマニア軍は気付かないでしょう」

「その通りだ。では、そちらは任せたぞ、白公殿」

「あ、もう決定なんですか」


 かくしてクロエはカエサレアから密かに部隊を脱出させ、ゲルマニア軍の別働隊を撃破しに向かった。ゲルマニア軍は死角を魔法なしで通り去るヴェステンラント軍の存在に気付くことはなかった。


 ○


 2日後。カエサレアの北方にて。クロエと少数の供回りは大挙して進軍するゲルマニア軍の偵察に出ていた。


「敵の兵力は報告通り、およそ15万と言ったところですね。私達の5倍、勝機は十分です」

「ええ、クロエ様。とっとと総攻撃をかけ、奴らを殲滅しましょう!」

「そうですね。待っている理由もありません。スカーレット隊長、部隊の指揮は任せます」

「はっ! 必ずや敵勢を滅ぼしてみせましょう!」


 密かに北上したヴェステンラント軍は、ガラティアの地理に慣れないゲルマニア軍の側面に密かに展開。そしてスカーレット隊長の指揮の下、総攻撃を開始した。

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