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マシッソス砦前哨戦

 ガラティアにとって三度目の首都、カエサレアを落とすべく進軍を開始したゲルマニア軍。それを指揮するのはシグルズであった。アンキューラでは多大な損害を出したものの、陥落させることに成功した功績の方が評価され、引き続き軍団の司令官を任されていた。


 シグルズは長蛇の列の中央で指揮装甲車に乗り、総大将らしく悠々と部隊を動かしている。が、マシッソス砦が視界に入ってきた頃のことであった。


「シグルズ様! 前方の部隊が攻撃を受けています!」


 ヴェロニカに突然の報告が入った。それはシグルズにとって驚くべき報告であった。


「ヴェロニカ、魔導反応は確認されていないよね?」

「は、はい。今でも確認出来ません」


 ヴェステンラント軍だろうがガラティア軍だろうが、戦闘に突入すれば必ず発生する筈の魔導反応。それを全く探知出来ないのである。


「魔導探知機の故障か?」

「それはないと思います。他の方の魔導探知機にも、何の反応もありません」

「そう、か……。なら、敵は魔法を使ってすらいない、ということか」


 信じ難いが、敵は魔法を使わずに攻撃して来ているようだ。


「師団長殿、どうする?」


 オーレンドルフ幕僚長は問う。


「取り敢えず、前線部隊に詳細の報告をさせる。それと、全軍一時停止だ」

「師団長殿は出なくていいのか?」

「報告の感じからして、僕がわざわざ出るほどのことではない筈だ」


 敵の襲撃が大きな脅威であるのならば、真っ先に救援要請が飛んでくる筈だ。それがないのは、想定外の攻撃ではあるものの、規模は大きくないということだろう。


「シグルズ様、報告です。敵軍は街道の左右に隠れ潜み、銃で攻撃してきているとのことです。敵の数は多く見積もっても200ほどで、援軍は必要ないとのことです」

「銃で攻撃、か。敵はどんな銃を使っているんだ?」

「射速と弾丸から見て、元込め式の銃とのことです」

「損害は?」

「100人ほどが死傷とのことです。但し、負傷した者は傷が深く、とても戦闘を続行出来る状態ではないとのことです」

「分かった。確かに援軍の必要はないだろう。先鋒に対処させる」


 連合軍の戦術は、火縄銃を持った兵士を街道の周囲に隠し、ゲルマニア軍が通りかかったところで銃撃を行うというものであった。兵士の生還は考えていない自爆戦術のようなものであり、必ず一定の成果を上げることは出来る。


 機甲旅団を除けば今でもゲルマニアの兵士の大半は徒歩で移動しており、どんなに性能の低い銃でも出血を強要することが可能である。それに性能が低いと言っても、火縄銃の弾丸はゲルマニアの銃弾と比べて口径が大きく、人体に対する破壊力は寧ろ凌駕している。


 とは言え、射程や射速など戦闘能力は著しく劣る。ゲルマニア軍は敵が隠れているであろうところに戦車の主砲や迫撃砲で榴弾の雨を降らせ、地面ごと抉る勢いで敵を木っ端微塵にした。


「敵軍、殲滅しました!」

「よかった。だけど、これで終わるとは思えない。今後もこういう攻撃があると見るべきだろうね」

「でしたら、私達が先頭に進みましょうか? 火縄銃の攻撃ならば、全て無力化出来ます」

「それは意味ないだろうね。僕達が先頭にいたところで、後ろの部隊が狙われるだけだ」

「そ、そうですね……」


 ここはあくまで帝国の領土。襲撃の場所、時刻は敵が選ぶことが出来る。ゲルマニア軍は精々警戒しながら前進することしか出来ないのである。


「警戒しながら、と言って出来ることは少ないが、作戦に変更はない。前進する」

「はい!」


 敵が魔法を使ってくれないと、未然に見つけ出すのは非常に困難である。シグルズは受け身になるしかなかった。そして予想通り、進軍するゲルマニア軍の各所が次々と攻撃を受けた。


「第125師団に、また襲撃です!」

「…………撃退させろ」


 30分に1回程度の頻度でどこかが襲撃を受ける。その度に確実に犠牲が出て、ゲルマニア軍の神経をすり減らせていた。


「シグルズ様、今回は規模が大きいようです! 敵の数は千を超えているとのことです!」

「ついに本腰を入れて来たか。とは言え、援軍が必要なことはないだろうし、下手に隊列を乱すのは危険だ。ぶつかった師団に対処させる」


 多いように思えるが、ゲルマニア軍は1個師団だけでおよそ1万5千の人員を抱えている。援軍を送る必要はない。


「いいのか? 敵が全滅覚悟ならば、それなりの損害が出ると思うが」

「兵士を増やしたところで特に状況は改善しないだろう。特別の対処をする必要はない」

「そうか」


 敵の戦法は、自身の全滅と引き換えにおよそ同数の損害をゲルマニア軍に確実に与えるというものである。こちらが兵力を増やしたところで意味はない。


「……敵軍は殲滅しました。しかし、死傷者は1,500名ほどとのことです」

「それなりの損害が出たな。だが、戦闘に支障はない。全軍、前進せよ」

「は、はい……」


 師団単位で見れば10人に1人が失われた大損害だ。しかし40万の全軍から見れば損害は軽微。この程度で怖気付くシグルズではなかった。

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