表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
962/1122

ネルソン提督の援軍Ⅱ

「敵がこの先に待ち構えています!」

「敵は遠く、手榴弾は届きません!」

「なるほどね」


 鳳翔の廊下は長い直線状になっているものが多い。これは設計を単純化して可能な限り早く建造する為であるが、魔導兵がここに立て籠ると厄介なことになる。長い廊下に足を踏み入れた瞬間に魔導弩の矢が飛んで来るし、敵は遠く手榴弾はとても届かない。先程のような戦術で突破するのは困難だ。


「途中途中の曲がり角に隠れながら近付くことも出来るけど」

「それでは、多大な損害が出ることは間違いないかと」

「そうだね。面倒なことになったなあ」


 ベアトリクスは溜息を吐いた。肉弾攻撃以外でここを突破する手段が思い付かないのである。


「実質的にこちらが攻め手である以上は仕方ないとも言えるけど」

「ベアトリクス様、我々はいざとなれば、覚悟は出来ています」

「……ちょっと待ってくれ」


 この廊下を突破するだけで一体どれほどの犠牲が出るか分からない。それに、目的地の艦橋に辿り着くまで、廊下はまだ何本もある。ベアトリクスは物量に任せたゴリ押しなどしたくはない。


「皆、小銃を持て。敵をここから撃つ」

「はっ」


 兵士達を匍匐させ、小銃で射撃を行う。しかし、魔導兵は一発当てただけでは傷も付かず、すぐに遮蔽物に隠れて鎧を修復されてしまう。いくら射撃を行っても意味があるとは思えなかった。


「ベアトリクス様、これに意味があるとは……」

「クッ……。そうだね。こんなことをしていても弾の無駄だ」

「やはり、損害を顧みない総攻撃しかないのでは?」

「君達の方からそう言われると、断りにくいんだよ……」


 ベアトリクスは決断を迫られる。勇敢なゲルマニア人とブリタンニア人は、友邦を救援する為ならは命も投げ出す覚悟らしい。


「その覚悟、無下にすることは出来ない。手榴弾で煙幕を張り、全力で突撃する。行くよ」


 可能な限り遠くまで手榴弾を投げつけ、爆煙は廊下に充満した。敵の姿が全く見えなくなったところで、ベアトリクスと彼女の兵士達は突撃を開始する。すぐ隣の味方の姿すら朧気な闇の中、ただひたすらに走ることしか出来なかった。味方が次々と脱落するのを感じながらも、ベアトリクスはただただ駆けた。


「君達の負けだよ!」

「クソッ……!」


 ベアトリクスは魔導兵に斬りかかり、兵士達も至近距離で突撃銃の引き金を引く。かくしてヴェステンラント軍の防衛線の一角が崩壊したのであった。


「しかし……これは酷いことになってしまったね…………」


 煙が晴れてきて見えたのは、廊下に転がる死体と負傷兵達。百を超える兵士がこの一瞬で死傷してしまったのだ。


「ベアトリクス殿、我が方の兵力はおよそ3千あります。この程度は許容範囲かと思われますが……」

「……そうだね。これも織り込み済みの損害だ」


 軍としての形を保つのには、何の障害もない。ベアトリクスは進軍を続行する。


 ○


 一方その頃。


 鳳翔を襲撃した艦隊の総司令官は黒公クラウディアであり、鳳翔に攻め込んだ部隊の指揮も船の中から執っていた。


「敵増援部隊、第一防衛線を突破。艦橋に迫りつつあります!」

「ゲルマニア軍……犠牲を顧みなくなってきたのか」


 ゲルマニア軍は全体的な傾向として過度な損害を嫌い、ある程度の損害を与えると撤退すると思っていたが、最近のゲルマニア軍は犠牲より作戦の成功を優先するようになってきていた。


「我が軍は鳳翔の艦内で挟撃を受けているようなものです。劣勢は覆せないかと……」

「どれもこれも、艦橋が全く落とせないのが原因。いい加減に落とせないの?」


 クラウディアは珍しく、不愉快そうな、焦ったような様子を見せながら言った。


「階段は狭く、そこにとんでもない強さの魔女がいます。こう言うのはあれですが、雑兵をいくらぶつけても勝ち目はないかと……」

「ならば、私が出れば解決する」

「それは……敵もレギオー級の魔女を出してくる可能性が……」

「今のところ、戦場にシグルズの姿は確認されていない。彼はガラティアの主戦線にいると推測される」

「それは賭けだと思われますが……」

「賭けでも構わない。ここで負ければ、私達はお終い」


 シグルズがいないことに賭けて、クラウディアは自ら出陣することにした。彼女の予想通り、シグルズは遥か西にいる。


 ○


「提督! レギオー級の魔導反応を確認しました!」

「何!? シグルズ君がいないところを狙ったというのか……。で、レギオー級の誰だ?」

「これは……黒の魔女クラウディアと思われます!」

「黒の魔女か。ならば、何とかなるか。彼女には失礼だが」


 クラウディアは自他共に認める、戦いにはあまり向いていない魔女である。故に、ネルソン提督は勝機を十分に見出すことが出来た。


「ベアトリクスを急ぎ向かわせろ。彼女に食い止めてもらう」

「はっ!」


 魔女の格としては一段劣るベアトリクスだが、戦闘に特化した彼女ならレギオー級の魔女ともやり合えるだろう。ネルソン提督はクラウディアへの対処をベアトリクスに一任することにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=959872833&size=300
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ