ネルソン提督の援軍
「大八洲軍、艦橋に立て籠って抗戦しているとのこと!」
「我々の援軍は不要と言った癖に、随分と押せれているじゃないか……」
鳳翔の救援に向かうシャルンホルストは、鳳翔の状況を概ね把握していた。多数の連合兵が侵入し、晴政が追い詰められていると。
「だが、どうするんだい、提督? 私達では全く手を出せないと思うけど」
隻眼の魔女ベアトリクスは言う。ヴェステンラント船は鳳翔にぴったり張り付いており、シャルンホルストは手を出せなかった。シャルンホルストの火力は副砲も含めて高過ぎるのである。
「砲撃が役に立たないのなら、我々が直接乗り込むまでだ」
「やっぱりね。そういうことなら、私が先陣を切るよ」
「任せる。鳳翔を救ってくれ」
ネルソン提督はシャルンホルストから鳳翔に援軍を送り込むつもりである。提督はシャルンホルストを全速前進させ、救援に急がせる。
「提督、鳳翔の甲板には、多数の敵兵が確認出来ます」
シャルンホルストは鳳翔に横付けした。
「飛行甲板は落ちた、か。報告の通りだ。だが、これは好都合だ」
「友軍がいないのなら、好きにやれるね」
「そうだ。甲板機関砲、射撃用意!」
敵艦の甲板を掃討する為に設けられた機関砲。今回も使えそうである。
「撃ち方始め! ヴェステンラント兵を一掃するんだ!」
シャルンホルストの甲板から鳳翔の甲板に向け、無数の砲弾が放たれる。飛行甲板は隠れられるところがほぼ存在しない真っ平らであり、ヴェステンラント兵はいい的であった。どこに隠れることも出来ず、甲板にいた魔導兵達は瞬く間に粉砕された。
「敵兵、壁を作って隠れているようです!」
「魔法か」
甲板にいた魔女達は、それぞれが魔法で壁を作り、周囲の兵士達を隠れさせた。壁に隠れられなかった魔導兵や魔女はあっという間に全滅し、残っているのは壁の後ろに隠れた者だけである。壁の強度は十分なもので、機関砲で破壊することは不可能であった。
「どうするんだい、提督? 敵は十分減った。ここで乗り込むことも出来るけれど」
「いいや、甲板の敵は徹底的に殲滅する。機関砲、壁を撃ち続けよ! 魔法を使い果たさせるんだ!」
防壁は魔法によって支えられている。魔女達の手持ちのエスペラニウムでは、長くは持たないだろう。ネルソン提督は兵士を送り込む前に、甲板上の敵を完全に一掃することとしたのである。
「提督、壁が破れました!」
「よし。このまま、全ての魔女を掃討せよ」
魔女達は魔法が切れ、魔法による修復を受けられなくなった防壁は機関砲の砲火の前にたちまち粉砕され、その後ろにあった連合兵もまた粉砕された。次々と壁は破られ、甲板の敵兵はみるみる数を減らして行った。
「敵兵、全滅しました……」
「ああ。では鳳翔に救援部隊を送り込む。ベアトリクス、向こうのことは任せた」
「了解」
シャルンホルストは敵艦に乗り移る為の橋を鳳翔に架け、3千程度の兵力を鳳翔に送り込んだ。
「これではまるで虐殺だね」
「そ、そうですね……」
乗り移った飛行甲板には無数の死体が転がっている。それはマトモな戦いではなく、一方的な殺戮でしかなかった。
「まあ、これも恐らくは敵の一部に過ぎない。艦内には敵が沢山いるだろう」
「ええ……」
「総員気を引き締めて、艦内に突入する」
「はっ!」
鳳翔に乗り移るまでは安全だったが、鳳翔の中には多数の敵兵がいると予想される。ベアトリクスは飛行甲板から艦内に入る扉に手をかけ、ゆっくりと引いた。
「っ!?」
「危ない!」
扉を開けた瞬間、数本の矢が飛んできて、ベアトリクスの目の前を掠めて行った。奥にはヴェステンラント兵が待ち伏せしているようだ。
「なるほど。鋼鉄船の中に籠られるというのは、なかなか厄介なようだね」
「そ、そうですね……これではとても……」
狭い階段の先に待ち構える魔導兵。ここに突っ込めばたちまち矢に撃ち抜かれてしまうだろう。魔導弩の矢は一本で数人を貫くことが出来、数で押すのもままならない。
「ど、どうしましょうか? 敵は少数のようです。数で押し潰すことも出来そうですが……」
「最終的な手段はそれしかないだろうね。とは言え、もう少し賢くやる方法はあるよ」
「と、言いますと?」
「手榴弾を用意して。ありったけ」
「ああ、なるほど」
狭く密閉された空間では、爆弾が最大の威力を発揮する。鳳翔の艦内はその条件をほぼ完璧に満たす空間であった。
「準備出来ました!」
「じゃあ、一斉に投げつけよ!」
手榴弾を10個ほど、階段の下に一気に投げ込む。手榴弾はほぼ同時に爆発し、地鳴りのような振動が来ると同時に、爆煙が煙突のように吹き出した。
「視界が悪いが……突っ込むよ! 総員突撃!!」
「「おう!!」」
煙に満たされた廊下を、ベアトリクスが先頭に駆け下る。
「クソッ! 来るなっ!」
「悪いね」
剣を抜いて応戦しようとする魔導兵に、ベアトリクスは水の剣を突き刺した。鎧を無視して直接相手の体に突き刺さる、魔導兵殺しの剣である。
後続の兵士達も突撃銃で魔導装甲を打ち破り、戦いは枢軸勢の一方的な勝利に終わった。とは言え、まだ鳳翔の艦内に足を踏み入れたに過ぎない。