鳳翔の戦い
「敵船、体当たりして来ます!!」
「ふん。芸のない」
突如として現れたヴェステンラント船の船団は鳳翔に急速に接近し、次々と体当たりを仕掛けた。圧倒的に巨大かつ重量のある鳳翔は全く動じなかったが、魔導兵が次々と繰り出して来た。
「敵勢、上甲板及び第二中甲板に侵入しております!」
「二方面から攻撃か。成政、上を任せる。源十郎、中甲板を任せる」
「兄者は行かねえのか?」
「俺はここで指揮を執る」
晴政も自ら剣を持つことは多々あるが、自ら戦場に飛び込むほどの戦闘狂ではない。あくまで現実的な前線指揮をすることを望んでいる、ということらしい。
「そ、そうか。なら、任せてくれ!」
「晴政様にお手間は取らせません」
「ああ。任せたぞ」
成政と源十郎は素早く最前線に向かった。そして鳳翔を舞台とした熾烈な戦闘が幕を開けるのであった。
○
「我こそは天下人が弟、伊達兵部成政! この首を獲りたい者はかかってこい!!」
成政は飛行甲板に出て、次々と押し寄せるヴェステンラント兵とガラティア兵に名乗りを上げた。
「何? 関白の弟だ! 殺せ!!」
「「「おう!!!」」」
「そう来ねえとな」
単なる一軍の将ではない。大八州の最高指導者の最も近い肉親である。成政を殺せば褒美は山のように与えられるだろうし、連合軍としても大八州の体制にヒビを入れる為に絶好の相手で会った。兵卒と将校の意思が合致し、ヴェステンラント勢は彼を討取るべく一気に突撃してきた。
「こんな狭いところでそんな大軍、動かすもんじゃねえよ」
「成政様! て、敵が突っ込んで来ます!」
「ああ。我らは決して退かん。皆の者、突っ込め! 奴らの陣形をぶち抜いてやれ!!」
「「おう!!」」
甲板の上には連合軍が三千ほど。対して成政の手勢は五百程であり、更に連合軍は続々と援軍が到着している。だが成政は迷わず、突っ込んでくる敵軍に真正面から突撃を仕掛けた。
「怯むな! ヴェステンラントの雑魚共など蹴散らしてやれ!!」
「「おう!!」」
「く、来るなっ!!」
後ろから味方に押されて止まることもままならないヴェステンラント兵。大八州の武士達の気迫に気圧されている間に斬り伏せられた。成政は自ら陣頭に立って剣を振るい、並み居る敵を次々と斬り伏せる。
「下がれ! 下がれ!!」
「味方が邪魔で下がれない!!」
「何なんだこいつら!?」
後ろから次々と兵士が送り込まれてくるのは、連合軍にとっては逆効果だったようだ。巨大な軍艦とは言え地上の戦場と比べれば遥かに狭い鳳翔に大軍を展開してしまった結果、彼らはまるで身動きが取れなくなってしまった。
いきなり混乱状態に陥って、味方同士で押し合いへし合いする連合兵の真ん中に、成政はなおも深く斬り込む。
「成政様! 敵が船から落ちております!」
「よし来た。これが狙いよ。こんなところで統制を失えば、海に叩き落されるに決まってる」
四方八方に逃げようとするヴェステンラント兵は周囲の兵士を押し、それが波及して、ついに端にいた兵士達が海に転落した。
「この調子だ! こいつら纏めて海に叩き落してやれ!!」
「「「おう!!!」」」
勢いに乗ってヴェステンラント兵を蹴散らす成政。甲板の戦闘は大八州勢が圧倒している。
○
「片倉殿、敵が迫っております!」
「そうか。皆の者、弓を構えよ」
大八州の戦艦と同じように、鳳翔の艦内は狭い通路がほとんどである。但し、敵の進攻を食い止める構造にはなっておらず、基本的には直線が続く。ゲルマニア軍から見ると守りにくい船だが、大八州軍からすると逆に守りやすい。
「来たか。放て!」
敵兵が姿を現わした瞬間、廊下に構える数人の武士が一斉に矢を放った。地面と平行に放てば射程は当然短くなるが、鳳翔艦内であればそれで十分である。放たれた矢は一撃で魔導兵を貫き、更にはその奥の壁に突き刺さった。
「こ、これならば、敵がいくら来ようとも、恐れることはありますまい!」
「今回は、敵が僅かであったからだ。敵が一気に押し寄せれば、矢では抑えきれなくなるだろう。ん……?」
「片倉殿、足音です! それも沢山!」
「やはりか」
敵は源十郎の防御を数の暴力で押し潰すことにしたようだ。曲がり角から次々と数十の兵士が現れ、我武者羅に突っ込んで来た。
「うぐっ――」
「奴らにも弓矢くらいはあるか」
ヴェステンラント兵は走りながら魔導弩を乱射する。大抵は明後日の方向に飛んで壁や天井に突き刺さるが、一部は武士を撃ち抜いた。
「怯むな! 間断なく矢を射かけ続けよ!!」
「「おう!!」」
連射力と命中力で圧倒する大八州勢の弓。先頭から次々にヴェステンラント兵の体を貫き、転倒させていく。だが、その後ろの兵士達は、味方の体を踏み越えて突撃勢いを緩めない。
「や、奴ら止まりません!」
「このままだ! 射撃の勢いを緩めるな!」
一人一人敵兵を倒していく大八州勢。全てを殺し切るのは到底無理なように思えたが、敵の勢いが何故か衰えて来た。
「最早、友軍の死体か負傷兵が邪魔で動けまい」
「こ、これは……」
いつも間にか倒れた魔導兵で埋め尽くされていた廊下。魔導兵達も足を取られ、突撃は自然消滅していたのだ。
「奴らに矢を浴びせよ!」
逃げるのか進むのかと戸惑う魔導兵を、無慈悲な矢が襲う。魔導兵はたちまち一掃され、彼らの死体は良い障害物となった。