攻撃開始
「五番隊、爆弾を全て落とし終えました!」
「これで全部か。総員、鳳翔に戻って来い」
「はっ!」
鳳翔は搭載する20機ほどの爆撃機を全て出撃させ、ありったけの爆弾を落とし終えた。バンダレ・ラディンの港は焼夷弾によって火の海になっており、また榴弾によって建物や船着場はことごとく瓦礫と化した。港としての機能はほぼ全て失われた訳だが、それでも晴政は油断していなかった。
「一先ず、奴らをそれなりに削ることは出来た。シャルンホルストに動くよう伝えよ」
「はっ」
爆撃機に出来ることはここまでだ。次はもっと直接的な攻撃を行う。
○
「提督、晴政様より出撃の要請が届きました!」
「爆撃は完了したか。シャルンホルスト、前進! 港に更なる攻撃を行う!」
「はっ!」
主砲の射程の遥か外から爆撃の様子を眺めていたシャルンホルスト。爆撃が一段落すると、バンダレ・ラディンを自ら攻撃する為、前進を開始した。シャルンホルストだけでなく、ゲルマニアと大八洲の艦隊、鳳翔も、その後ろに続く。バンダレ・ラディンの有様は、次第に明瞭になってきた。
「バンダレ・ラディン、主砲の射程に入りました!」
「ああ。これを攻撃する意味があるのかは疑問だが」
炎に包まれた港。人の姿などどこにも見えず、残骸がそこら中に転がっているだけであった。
「ど、どうされますか?」
「敵が潜んでいないとは限らん。全主砲、砲撃を開始せよ! 跡形も残さず港を破壊するんだ!」
「はっ!」
地中に潜んだ敵を見つけ出すのは不可能だ。ならば、大地を抉り取る勢いで、港を徹底的に破壊するしかない。完全に一方的な虐殺であったが、友軍の被害を減らす為、ネルソン提督はこれを命じた。
シャルンホルストの9門の主砲から放たれる砲弾は、あらゆる建造物を破壊した。地面に当たれば、地中に爆弾を仕掛けたかのように土を吹き飛ばす。徹底した艦砲射撃により、ここが港であったことすら分からないほど、バンダレ・ラディンは破壊され尽くした。残ったのは元が何だったとか分からない瓦礫の山と、ボコボコになった海岸である。
「本当に、敵がいるのでしょうか……」
「それは分からない。だが、いずれにせよ、敵はほとんど残っていないだろう」
「そ、それはそうですね」
「伊達殿に伝えよ。これより上陸を開始されたしと」
「はっ!」
これ以上脅威を排除することは不可能であろう。十分に港を焼き払ったと判断したネルソン提督は、晴政率いる本隊に上陸開始を要請した。
○
「――よし来た。皆の者、港に乗り込むぞ! 進め!」
晴政は木造船の艦隊に上陸の開始を命じた。と同時に、彼自身も鳳翔から飛び出そうとする。
「晴政様、まさか自ら陣頭に立とうなどとはされていないですね?」
「その通りだが、何が悪いか、源十郎?」
「……先程も申し上げましたが、今や晴政様は総大将であるのみならず、関白にあらせられるのです。軽率な行動は却って家臣達に侮られましょう」
「さっきはそうだが、今は違うだろう。俺は総大将なのだ。己が軍勢を指揮せずして何とする」
「晴政様はこの鳳翔に腰を据え、じっくりと軍配を振られればよいのです。上陸隊のことは毛利殿に任せましょう」
「…………分かった分かった。本陣はここから動かさぬ」
「はっ。ありがとうございます」
毛利周防守は水軍の扱いに長け、もちろん野戦の指揮も一流である。晴政がわざわざ出張らなくとも問題はないだろう。本人は戦に出たくてうずうずしているようだが。
「毛利殿、陸揚げを始めたとのこと!」
「ああ。続けさせよ」
不愉快そうな様子を隠せない晴政。このまま毛利周防守が作戦を成功させるのを眺めているだけ――と思われていた。
「殿下、ネルソン殿より急ぎの通信です!」
「繋げ」
ネルソン提督から何やらただならぬ様子の通信が入った。晴政は少しの期待を胸に、魔導通信機を取る。
『伊達陸奥守殿ですか?』
「ああ、俺だ。どうした?」
『南方より多数の魔導反応を確認しました。敵が迫ってきています!』
「敵は船に乗っているのか?」
『恐らくはそうかと』
「分かった。源十郎、南だ。南から敵が来るぞ」
「な、何と!?」
すぐに兵らは南方に望遠鏡を向ける。
「晴政様、南より敵の船団が五十ほど、こちらに近づいてきております」
「鳳翔を孤立させ狙うか。いい度胸だ」
どうやら連合国軍の罠だったらしい。上陸作戦となれば必ず後方で孤立する鳳翔を攻撃し、奪い取るつもりのようだ。
「ネルソン、戻って来られるか?」
『急ぎ戻りますが……鳳翔が敵に取りつかれた場合、シャルンホルストではどうにも出来ません』
「そうか。なれば、待ちに待った斬り合いの時のようだな。成政、戦支度をせよ!」
「おうよ!」
「ネルソン、お前は何もせんでいい。俺達で返り討ちにするからな」
『一応は、そちらに向かわせて頂きます』
「好きにしろ。では、皆の者、鳳翔に乗り込んだ敵は尽く、根切りにせよ!」
「「おう!!」」
鳳翔には自身を守る武器がまるでない。晴政は鳳翔に乗り込んで来た敵を迎え撃つことしか出来ないのである。しかしそれは、彼にとっては喜ばしいことである。