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ソレイユ・ロワイヤルの処分Ⅱ

 シャルンホルストの出撃が確認されてより僅か2日後。


「殿下! シャルンホルストを発見しました!」

「もう見つかったのか……。索敵能力はやはり向こうの方が上のよう」


 クラウディアは呟いた。ヴェステンラントの船は魔導戦闘艦であっても全高が低く、索敵能力にはやや難がある。シャルンホルストは既にソレイユ・ロワイヤルを発見していると見た方がいいだろう。


「いかがされましょうか」

「全艦、戦闘配置。そして全速力でシャルンホルストに突撃」

「はっ!」


 どの道逃げ場はない。主砲の射程でシャルンホルストに大きく後れを取っている以上、ソレイユ・ロワイヤルに残された選択肢は至近距離まで突撃することしかなかった。


「敵艦、発砲!」

「衝撃に備えて」


 真正面から向かう合うシャルンホルストが戦端を開いた。その巨大な主砲から放たれる規格外の砲弾は、たった一発で船を変形させるほどの威力だ。しかし魔女達は手慣れた動きで素早く、抉り取られた部分を修復した。


 両艦はそのまま距離を詰め、やがてソレイユ・ロワイヤルの魔導対艦砲がシャルンホルストを射程に収める。


「ここで針路を変えれば敵艦に砲撃を行えますが、いかがしますか?」

「……いや、しなくていい。対艦砲は無意味。白兵戦で決着をつける」

「はっ!」


 ソレイユ・ロワイヤルは砲撃を行わず、シャルンホルストからの砲撃に耐えながら全速前進する。やがて両艦が至近距離に迫ると、ほとんど同時に90度回頭し、同航戦の構えを見せる。お互いの甲板上の兵士の姿を肉眼で認識出来るほどの距離だ。


 と、その時、クラウディアはあることに気付いた。


「シャルンホルストの甲板、煙突のようなものが増えている。あれは……」


 シャルンホルスト甲板の端に、煙突のような黒く高い構造物がいくらか並んでいる。明らかに前回の戦いではなかったものだ。


「殿下?」

「考えても仕方ない。全艦、白兵戦用意!」


 クラウディアは乾坤一擲の勝負を仕掛けるつもりだ。シャルンホルストが艦上の機関砲で掃射する中、魔導兵達は甲板上に集まり、強襲の用意を整える。


 が、その時であった。


「殿下! あの黒い奴が落ちてきます!!」

「何!?」


 煙突のように見えたものが、ソレイユ・ロワイヤルに向かって倒れた。決して魔導対艦砲が破壊したのではない。ゲルマニア軍がその意思で倒したのだ。であれば、それが何なのか、クラウディアはすぐに理解した。


「あれは橋だ! 敵が攻めてくる!!」

「な、何と!?」

「殿下、敵襲です!!」


 それはゲルマニアが用意した橋であった。シャルンホルストとソレイユ・ロワイヤルを結ぶ橋を無理やり架け、その上を無数のゲルマニア兵が突撃する。前回クラウディアがやったことの意趣返しとも言えるだろう。


「迎え撃て! 敵の侵入を許すな! 魔女隊は全て投入せよ!」

「はっ!!」


 余裕の全くない声でクラウディアは命令する。兵士達は果敢に立ち向かうが、ゲルマニア兵は突撃銃で武装し魔導兵すら簡単に屠り、シャルンホルスト甲板からの射撃も延々止まらず、自身の船の上ですら、ヴェステンラント軍は思うように行動出来なかった。


「敵兵がソレイユ・ロワイヤルに侵入!!」

「我が方、極めて劣勢です!!」

「……一度侵入を許した時点で詰み、か」


 ゲルマニア軍はヴェステンラント軍が甲板に用意した諸々の盾に隠れ、銃撃戦に持ち込む。お互いに身を隠しながらの攻防は、取り回しのよい銃を使うゲルマニア軍に利があった。


「最早、耐えられません!」

「殿下、ご命令を!」

「…………最悪だけど、前回の策を使うしかない。全艦、シャルンホルストから逃げよ!」


 クラウディアは全速力で逃げるように命じた。或いは逃げずとも、距離を取ってシャルンホルストからの移乗攻撃を断ち切ることが出来れば、まだ望みはある。


 が、それも上手くはいかない。


「殿下! 船が動きません! 何かに押さえつけられているようです!」

「あの橋か……。私達の手の内は全て読まれていたようだね」


 どうやらシャルンホルストが叩きつけてきた橋には、ソレイユ・ロワイヤルの動きを拘束する意味もあるようだ。ソレイユ・ロワイヤルに逃げ出すことは許されなかった。


「私が全力を出すか……いや、敵はそれも読んでいる筈。よくない。もう、打てる手は、ない」

「で、殿下…………」

「皆、ソレイユ・ロワイヤルはもうお終いだね。直ちに自沈を」

「……はっ!!」


 ほんの半刻ほどの戦いで、クラウディアは敗北を悟った。最悪の事態を想定していつでも自沈出来るようにしてある。これを今、発動させた。すぐにソレイユ・ロワイヤル全体を大きな衝撃が襲い、同時にゆっくりと水面が近づいてきた。


「兵士達は鎧と剣を捨て、降伏を。自力で逃げられる者は早く逃げて」

「はっ!」


 コホルス級の魔女達は翼をはためかせ、ソレイユ・ロワイヤルから離脱していく。


「最後に、一度だけ魔法を使おう」


 沈みゆくソレイユ・ロワイヤルの中で、クラウディアは魔法の杖を構えた。すると次の瞬間、ソレイユ・ロワイヤルの周囲に人間大の氷の塊が無数に現れた。


「兵士達はこれに掴まって。私は……船を捨てさせてもらう」

「殿下、お急ぎ下さい」


 かくしてソレイユ・ロワイヤルは、シャルンホルストの猛攻の前にロクな抵抗も出来ずに敗北したのであった。

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