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講和の機運

 ACU2314 8/5 ガラティア君侯国 臨時首都カエサレア


「ふむ。ゲルマニアから講和の申し出か。そちらから言ってくるとはな」


 アリスカンダルの許にゲルマニアからの使者が訪れた。使者が伝えたのは、ゲルマニアが講和を望んでいるとの意思であった。


「はっ。これは我が総統と皇帝陛下の意志にございます」

「そうか。追って返事をしよう。君達はここに残ってもらって構わない」

「はっ。格別のご配慮、痛み入ります」


 という訳で、アリスカンダルはゲルマニア皇帝の名を借りた親書について議論することとした。ヴェステンラント側にも隠すことはなく、彼らと話し合うつもりだ。


「なるほど。現在の占領地をワラキア公国を除いて返還する代わりに、即時講和と枢軸国への加盟を求める、ですか。要求は実に分かりやすい」


 オーギュスタンは皮肉るように。


「ヴェステンラントとしては、どう思うかな?」

「無論、我々は受け入れることは出来ません。第二戦線の消滅は我が国にとって重大な問題です」


 簡単なことだ。ここでガラティアが講和に応じれば、それはヴェステンラントを見捨てるも同じである。ヴェステンラントがそれを認める訳がない。


「ふっ、聞くまでもなかったな。私も貴殿らを見捨てて講和に応じなどせん。ヴェステンラント、ガラティア、ゲルマニアの三国で講和条約を結ぶのは前提だ」

「ありがとうございます。では、我々のことは一旦気にしないとすれば、陛下は講和を結ぶ気はあるのですか?」


 ガラティアとしては戦争を終わらせたいのか否か、オーギュスタンは問う。


「戦争は血が滾るが、私は戦争がしたい訳ではない。適当な条件が整えば、講和に応じるのは当然だ」

「ゲルマニアの出した条件は適正であると?」

「そうではない。まずワラキア公国を独立させることについては、緩衝地帯を作り出すことで、我が国にとっても利益になる。これは悪い話ではない」


 ゲルマニアとガラティアの国境線は非常に長大である。ちょうどそれに沿うように存在するワラキア公国が緩衝国となるのは、戦後の緊張緩和に多少は役立つだろう。


「だが、枢軸国への加盟は認められない。これは君達と同じ理屈だ」

「なるほど。我々は概ね共通の目的を有しているということですか」


 ゲルマニアを中心とする巨大軍事同盟である枢軸国。これに参加することは、ゲルマニアに行動を掣肘されることに等しい。ヴェステンラントとガラティアは、枢軸国の理念など信用出来る訳もなく、この要求だけは拒絶し続けてきた。


「では、少なくともこのままの条件で講和を受け入れるこのはない、ということでよろしいですか?」

「ああ、そうだ。この条件はゲルマニアにとって余りにも有利過ぎる。条件の修正を要求するつもりだ」

「そうしましょう」


 案の定ゲルマニアは足下を見られるのであった。アリスカンダルはゲルマニアからの使者を呼び出し、連合国の要求をヒンケル総統と皇帝に伝えさせた。


 ○


「枢軸国への加盟は拒否する、か……」


 ヒンケル総統は溜息を吐いた。予想はしていたが、その通りになってしまった。


「我が総統、それだけは妥協出来ません。枢軸国に最低でもガラティアが参加しなければ、話になりません」


 ザイス=インクヴァルト大将は言った。次の戦争を防ぐ為、この戦争に意味を見出す為、それだけは妥協することは出来ない。


「……確かに、それは一理ある。だが、前にも言っただろう。損切りは重要だ。これ以上の犠牲を出すことに、我が国は耐えられない」

「お言葉ですが、ガラティアの枢軸国への参加が叶わなければ、近いうちにまた次の戦争が起こるでしょう。そうなれば、今より遥かに大きな犠牲が出ることは明白。その犠牲を防ぐことこそ、優先すべきではありませんか?」

「そう言われるとな……うむ…………」


 平和を確立出来なければ次の戦争がすぐに起こる。恐らくヒンケル総統がまだ現役である内に。それは総統も認めるところである。それを防ぐ為に今の若者を犠牲にすることが正しいのかは分からないが。


「リッベントロップ外務大臣、君はどう思う?」


 ヒンケル総統は苦し紛れに外務大臣に意見を求めた。


「そうですね……ザイス=インクヴァルト大将閣下の仰る通り、何らかの策を講じなければ、いずれ次なる世界大戦が起こるでしょう。既にガラティア帝国と我が国の利害は衝突してしまっています」


 例え一時的な講和を結んだとしても、両国の間にはレモラ王国という火種がある。いずれ致命的な利害の衝突が起こり、戦争に発展するだろうと、リッベントロップ外務大臣は考えている。


「他には何かないのか?」

「他、と言いますと、そうですね……私としては、ガラティア帝国を枢軸国に加盟させる為ならば、戦争の継続もやむなしかと。ガラティア帝国に優位な講和は、破滅的な犠牲を先延ばしにするに過ぎません。二世代が消滅するよりは、一世代だけが消滅した方がよろしいかと」

「それは、外務省としての見解か?」

「はい。外務大臣としての発言です」

「まったく、大したことを言ってくれるじゃないか」


 領土問題など些細なこと。枢軸国の拡大こそがゲルマニアの最大の戦争目的なのである。

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