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ピュロスの勝利

「装甲車の搬入が完了しました。全軍、いつでも動けます」

「よし。進軍を再開する。全軍、アンキューラを制圧せよ!」


 堀に橋をかけ、城門を破壊し、アンキューラ市内に機甲戦力を投入することに成功したシグルズ。準備は整い、総攻撃を再開した。


「さて、では第88機甲旅団も出撃するとしよう」

「わ、私達も出るのですか?」

「やっぱり僕は最前線で戦う方が合っているからね。それに機甲旅団の打撃力は、全軍の助けになる」

「それでいい思うぞ、師団長殿」


 かくしてシグルズは総司令官としての役目を半ば放棄し、自らも前線に加わった。


「絶対に、民間人には手を出すなよ。そんなことをしでかしたら、速やかに処刑する」

「しょ、処刑ですか……? ですが、民間人を一人も殺さずに戦争するなんて、無理なのでは……?」


 ヴェロニカは言った。


「ああ。巻き添えでどうしても、市民は死ぬだろうね。それは仕方ない。だが、周囲に敵もいないのに民間人を殺すようなことは、あってはならない」

「な、なるほど……」

「まあ、そんな奴はいないと信じているけどね。さて、周囲を警戒しつつ、前進せよ」

「はい!」


 市街地に入る。道は狭く、戦車は一列に並んで進むのでやっとであった。その周囲を歩兵が警戒しつつ、ゆっくり進む。左右の家屋から敵兵が襲いかかって来る危険は常にあり、兵士達は常に緊張していた。


「シグルズ様、左に魔導反応です!」

「来たか。総員警戒せよ!」


 兵士達は戦車やそこら辺の家屋の影に隠れ、かがんで被弾面積を可能な限り少なくする。


「かかれっ!!」

「「おう!!」」


 それから数秒と間を開けず、数人の魔導兵が家屋の屋上から飛び降りてきた。魔導兵は戦車の上に飛び乗り、その中に無理やり侵入しようとする。


「新手の攻撃だな」


 少し感心するシグルズ。


「ど、どうするのですか!?」

「撃つしかない。歩兵隊、敵を排除せよ!」

「命令するまでもないようだぞ、師団長殿」

「――ああ、そうみたいだな」


 戦車に直接降り立つということは、歩兵達に完全に囲まれるということだ。地上の兵士達は突撃銃を一斉射し、数百の弾丸に四方八方から撃たれた魔導兵は一瞬にして鎧を砕かれた。


「戦車は大丈夫か?」

「若干上部を剣に貫かれたりしたようですが、平気なようです」

「それはよかった。では進軍を続けよう」


 その後もガラティア軍は散発的な襲撃を繰り返したが、第88機甲旅団はほぼ損害なしに前進した。


「敵の抵抗が少ないな……。どうなってるんだ?」


 シグルズは当然、ガラティア帝国にとって最後の砦である筈のここで抵抗が少ないことに疑念を持った。


「アンキューラも捨て、更に後退する気なのかもしれんな」

「ここを捨てるのか? そんなことをしたら帝国が崩壊すると思うが」

「アリスカンダルはそれでも戦えると確信しているのだろう。それに、アンキューラの陥落は最早避けられない」

「これほどの犠牲を払って、無駄骨になりかねないってことか?」

「無駄ではない。確実にガラティアを追い詰められている」

「ならいいが……」


 どうやらアリスカンダルはアンキューラを守りきる気はないらしい。大方、ここでの抗戦は脱出までの時間稼ぎと言ったところだろう。


「だったら、もう急ぐ必要はない。全軍にゆっくり進めと伝えてくれ」

「はっ」


 どうせ敵が勝手にいなくなってくれるのならば、これ以上損害を出す必要はない。


「しかし、アンキューラは僕達が完全に包囲している。どうやって脱出するつもりなんだ?」

「地下坑道でも掘っているのではないか?」

「地下からか。何万人もそれで脱出させられるとは思えないが」

「地下道がヴェステンラントの王都並に広ければ、不可能ではないのではないか?」

「確かに、考えられなくはないな」


 アンキューラに地下街のようなものが存在するのなら、地下から大軍を脱出させることも可能かもしれない。


「どうする、師団長殿。地下から逃げるのならば、出口はそう遠くにはない筈だ。こちらから探し出すことも出来ると思うが」

「いいや、いい。見つけたところでどうしようもない」

「分かった。ならばここで傍観しているとしよう」


 仮に数万人の魔導兵が脱出したのならば、その大軍との不意遭遇戦になり、危険が大き過ぎる。シグルズは何もしないことを選んだ。


「シグルズ様、この後はどうするんですか?」

「何もしない。この場で敵が逃げ去るのを待つ。敵にその様子が見られないようなら、また作戦を変えるけど」


 そしてシグルズは、戦闘行為を停止させた。連合国軍はゲルマニア軍が動きを止めるとそれ以上仕掛けてくることはなく、アンキューラからは銃声がほぼ途絶えた。


 そして、2日が経った。


「すっかりもぬけの殻になっているな……」

「本当に地下から脱出したようだな」


 シグルズとオーレンドルフ幕僚長が空から偵察しに行くと、アンキューラの中心部は静寂に包まれていた。連合国軍は跡形もなく消え去ったのである。


「この場は僕達の勝利か」

「そのようだな。しかし、我が国の勝利になるのかは、まだ分からん」

「アリスカンダルが動いてくれればいいんだがな」


 第二の帝都も失ったことでアリスカンダルが降伏することを、シグルズは期待している。

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