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攻城戦Ⅱ

「我が方の被害は、およそ5千。甚大な被害です……」

「ご苦労。あんな単純な仕掛けが、こんなに強固だとはな」


 先程の攻撃は、参加した兵士の10分の1が失われるという凄惨な被害を出し、何の結果も出せなかった。大失敗と言ってもいい。


「やっぱり僕は師団長くらいがちょうどいいんだがなあ……」

「そもそも我が軍が列国に攻め込むのが、近年では初めてなのだ。仕方あるまい」


 オーレンドルフ幕僚長は素っ気なく言った。


「ダキアやヴェステンラントに攻め込んでるじゃないか」

「ダキアは列強には入らんし、ヴェステンラント本土も、本土決戦への備えは大してされていなかった。諸列強と国境を接し、本土決戦が前提の国に攻め込むのは、勝手が全く違うだろう」


 地上戦に国家的に備えている列強に攻め込むのは、確かに初めてだ。ヴェステンラントとの長きに渡る戦いは領土の奪還戦であったし、ダキア大公国には強力な要塞を建設する国力はなく、厳しい冬が主な敵であった。ゲルマニアは要塞を建てることは出来ても、要塞を落としたことはない。


 つまるところゲルマニア軍には、侵略の経験値が全くないのである。ゲルマニア軍を片っ端から探し回っても攻城戦に慣れた将軍はおらず、シグルズが苦戦するのも当然と言える。


「それは、励ましてくれてるのか?」

「そうとも言えるな」

「そうか。ありがとう。なら、もう少し頑張るとするよ」

「で、ですがシグルズ様、何か作戦はあるのでしょうか……?」


 ヴェロニカは問う。少し前の軍議で既に、肉弾攻撃以外に手段はないと結論されている。


「それを今から考えるんだ。優秀な第88機甲旅団の幕僚諸君は、何か思い付くことはないか? どんな突飛なことでも構わない」

「ふむ。そもそも、手が尽きたという訳ではあるまい。最初に師団長殿が却下した作戦があるだろう?」

「……アンキューラへの無差別攻撃か」

「ああ。市街を焼き払われれば、彼らも耐えられまい」


 オーレンドルフ幕僚長は改めてそれを提案した。城壁の向こうに砲撃を行い、市街地を破壊するのだ。


「市街地が焼き払われれば、確かに兵糧が尽きて降伏せざるを得なくなるかもしれない。だが、アンキューラも30万人ほどの人口を抱える大都市だ。一体何人犠牲になると思ってるんだ?」

「我が軍の犠牲を最小限に抑える為ならば、致し方ないのではないか? それに、人々を皆殺しにする訳でもあるまい」

「そうだがな……」

「それに、ダキアでは何度もやったことだ。それとも、自らの手を汚すのは嫌なのか?」

「痛いところを突くじゃないか。だが……それはやはり最後の選択肢だ。積極的に民間人を殺すことなど出来ない」


 却下はしないが、出来る限り避けたい。シグルズの気持ちはそんなところであった。


「あの堀さえ何とか出来れば、勝機は見えるのでしょうが……」

「堀を何とかする、か。それが出来れば苦労はしないんだがなあ」

「堀を埋めることは、出来ないのでしょうか?」

「それをついさっきやろうとして失敗したんだ。……いや、工兵隊でなければ堀を埋められないという決まりはない、か」


 シグルズに少し、閃きがあった。


「師団長殿、何か思い付いたのか?」

「堀の中に装甲車を突っ込ませれば、堀を埋めることが出来るんじゃないかと思ったんだ」

「装甲車で堀を埋めるか。まあ、不可能ではなさそうだな」

「装甲車なら多少失っても問題はない。いけるかもしれないな」


 装甲車で堀を埋め立てるという奇策である。全く非現実的な作戦という訳でもない。


「シグルズ様、本当にそんなことが出来るんですか?」

「逆に出来ない理由がないね。そうと決まれば、作戦を始めよう」


 シグルズはこの作戦を実行すると即座に決定した。仮に上手くいかなくても数十の装甲車を失うだけで済む。試さない理由がないのだ。


 装甲車からは上部の対空機関砲などを外させて、天井を出来るだけ平らにした。


「戦車隊、砲兵隊、砲撃を開始せよ。装甲車隊は、堀の直前まで前進せよ」


 再び戦車と砲兵で牽制を行い、その中を装甲車が前進する。


「装甲車が撃破されています!」

「それは分かっていたことだ。出来る限り前進しろ!」


 装甲車はいくらか破壊されたものの、大半が堀の目の前に辿り着いた。そしてそこからはシグルズの出番である。


「運転手は速やかに脱出! 後は僕がやる」


 装甲車は元より運転手一人しか乗っていない。彼らを脱出させると、シグルズは最前線に足を運ぶ。そして魔法を以て装甲車達をずりずりと押し出した。装甲車をそのままの方向に押し出し、堀の中に落とす。地面と平行になるように向きを整えると、更にその上に装甲車を重ねた。


 ガラティア軍はシグルズを撃ったが、シグルズは鉄の防壁を張って攻撃を防いだ。


「このくらいなら、クロエも出てこない筈だ……」


 シグルズが神より与えられた力を全力で行使すれば、城内のレギオー級の魔女達が襲いかかって来るだろう。だが装甲車を押すくらいなら、普通の魔法の範疇に収まる筈だ。


「ふう、いい感じになったな」


 特に問題はなく、二段重ねの装甲車はかなり綺麗に堀を埋めつくした。この上に板などを少々置けば、歩兵らも簡単に通れるようになるだろう。


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