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攻城戦

 500両ほどの戦車が数列に並び、アンキューラの城門に絶え間なく砲弾を浴びせる。徹甲弾は建造物を破壊し、榴弾は爆発の衝撃で魔導兵を直接殺傷する。しかし、破壊した部分は魔法によって即座に修復され、兵士達も厚い防壁の後ろに隠れて爆風はほとんど届いていなかった。


「ぜ、全然効果がなさそうなのですが……」


 ヴェロニカは言う。城門と城壁は砲撃が始まる前と何も変わっていないように見えた。


「……そうだね。エスペラニウムを使い果たさせるのも不可能だし、砲撃は明らかに資源の無駄だ」

「しかし師団長殿、先程から射撃の勢いは鈍っている。奴らも身を隠さねば危険だからだろう」


 オーレンドルフ幕僚長は言った。彼らも流石に身を晒してはいられないようで、壁の陰からちまちまと射撃を行っていた。とは言え、雨のように矢が飛んでくることには変わりない。


「確かにそうだが、君はこの中で工兵に作業をさせろと言うのか?」

「それしかないのではないか? 最初から城門の守備兵を完封出来るとは思っていないだろう」

「そうだが……いいや、無理だ。敵の反撃は想定より激しい。工兵など出せない」

「では、歩兵で突撃するか」

「それしかなさそうだ」


 アンキューラからの反撃は想定以上に激しく、工兵に架橋させるという案は潰れた。となれば、やはり大量の犠牲を覚悟の上で肉弾攻撃を行うしかない。


「だが、その前に少しでも敵の勢いを削いでおきたい。砲兵、噴進砲に城壁を攻撃させてくれ」


 塹壕戦などにおいて入念な事前砲撃を行うことはこれから攻撃する意図があるとさらけ出しているようなものだが、遮るものは何もないこの戦場においては、それを気にする必要はない。シグルズは徹底的な砲撃を行わせることにした。


「砲兵隊、準備整いました!」

「よし。城壁に照準を合わせよ。撃ちまくれ!」


 陣形の後方から千門ほどの野戦砲による砲撃が開始される。各々が数発を放ち、城壁の上に精確に狙いを定めたところで、砲撃は一時停止。これでいつでも号令と同時に城壁に斉射を食らわすことが出来る。


 また噴進砲は絶え間なく、城壁の前後に爆弾を降らせ続け、敵兵の士気と集中力を削ぎ落とす。


「準備は整ったようだな、師団長殿」

「ああ、そうだな。正直言って犠牲が前提の作戦なんてやりたくないんだが」

「仕方があるまい。これが城攻めの本来の姿だ。これまでの敵は、奇をてらって逆に隙が出来ていたから、犠牲は比較的少なく済んだに過ぎない」

「中将ともなれば、それくらいは覚悟しないとダメだな。よし……全軍、これより総攻撃を開始する! 戦車隊、砲兵隊は城壁への砲撃を全力で行い、歩兵達は全速力で城壁まで駆け抜けろ!!」


 かくして、何の捻りもない作戦が開始された。


 戦車隊は引き続き城壁に対して砲撃を行い、砲兵隊は先程狙いを定めた場所に砲撃を再開する。アンキューラの城壁を砲弾の嵐が襲う中、5万ほどの歩兵が一斉に攻撃を仕掛ける。これ以上の数で攻め込めば、兵士が多過ぎて逆効果だろう。


「敵軍の射撃です! この砲撃の中でも撃ってきます!」

「クッソ……何て奴らだ」


 爆炎が常に覆い尽くす城壁から、ガラティア兵は弓矢で攻撃してきた。敵の数は正面に1万ほどだろうか。生身で戦場を駆け抜ける兵士達は次々と矢に貫かれていく。


「歩兵隊、空堀に到達します!」

「空堀に降りた後、梯子をかけて駆け登るんだ!」


 空堀は深く、またその表面は鏡のように磨き上げられており、指一本を引っかける凹凸すらない。そこで空堀の中に入ったゲルマニア兵は、持ち込んだ大量の梯子を矢が降り注ぐ中で必死に伸ばして、空堀を脱出しようとする。


「敵の反撃激しく、空堀を越えられません!」

「怯むな! 数で押し切れ!」


 敵兵は空堀を越えようとした兵士を優先的に狙撃し、梯子から次々落下して、その下の兵士達も巻き込まれる。空堀の中でも矢の雨は変わらず降り注ぎ、既に死屍累々の有様となっていた。


「師団長殿、これではとても、突破など不可能だ。何も手を打たなければ、全滅するだけだぞ」

「……そうだな。だが、どうすればいいって言うんだ」


 大軍を始めて指揮するのがこんな堅城の相手とは、シグルズも不憫である。


「更なる部隊を投入して数で押し切るか、或いは一度退いて作戦を立て直すか、どちらかだな」

「……なら、後者だ。全軍撤退! 一度態勢を立て直す! また撤退の援護に毒ガス弾を使え!」


 シグルズはアンキューラの防備が想像以上に堅固なことを思い知らさらされ、作戦を中止した。戦車隊が毒ガス弾を城壁に向けて放つと、流石の連合軍も射撃どころではなくなったようで、射撃は止んで兵士達は素早く撤退することに成功した。


「毒ガス弾なんてあるなら、どうしてさっき使わなかったのですか?」


 ヴェロニカは尋ねた。


「毒ガスは、備えがない相手には効果的だけど、備えようと思えば簡単に備えられるからね。最初に使っていたら、いざという時に使えなくなる」

「なるほど……」


 毒ガスへの対策はヴェステンラントやガラティアでも難しいことではない。どうしても敵の動きを封じたい時にだけ使うべきである。そして、この城門に毒ガスは通じなくなった。

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