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アンキューラへの道

 ビュザンティオンの鎮撫が概ね完了したゲルマニア軍は、ガラティア君侯国への進攻を再開した。目指すはガラティア帝国の臨時首都にして旧都、アンキューラである。どうしてもビュザンティオンへの食糧供給で補給が圧迫されてしまい、進軍に参加する兵力は80万程度にまで減っていた。まあそれでも十分な大軍なのだが。


 軍勢は街道の要所にある小規模な拠点を淡々と制圧しながら前進する。ビュザンティオンからアンキューラに至る主要な街道は一本だけであり、ガラティア軍はその進路を完全に把握している筈なのだが、大した反撃はなかった。


「大した抵抗が見られない……。まるで内陸まで引き込もうとしているようだな……」


 進軍する指揮装甲車の中、シグルズは呟いた。


「師団長殿は、これがガラティア軍の罠だと?」


 オーレンドルフ幕僚長は問う。


「罠、かは分からない。単純に後方の拠点に兵を集めて防備を固めているのかもしれないな」

「なるほど。とは言え、敵の首都を落とさなければこの戦争に終わりは見えない。進むしかないだろう」

「ガラティア帝国の殲滅なんて本当に出来るのか……」

「何を弱気になっているのだ、師団長殿。罠ならば内側から破り捨てればよい」

「ははっ、そうだね。そうしよう」


 いずれにせよ、ゲルマニア軍には進む以外の選択肢がない。


「シグルズ様、段々緑が減ってきましたね……」


 ヴェロニカは窓から外の景色を眺めながら言った。段々木々が減って、草の密度も減ってきた。


「そろそろ砂漠になってくるみたいだね」

「師団長殿、まだ砂漠ではないらしいぞ。ステップと言うらしい。砂漠は草の一本も生えないが、この先でも草くらいなら生えている」

「そ、そうなのか」


 ゲルマニア本土のような温暖で緑あふれる気候ではないものの、全く乾燥しきっている訳ではない。背の低い草原は、まだまだ先にも広がっているらしい。


「とは言え、機械の故障が心配だ。砂漠で戦うことは想定して作っていないからね」

「確かに、砂漠ほどではないとは言え、多くの砂塵が舞っていることは想像に難くないな」


 戦車や装甲車を設計するに当たって、多様な環境に適用させることなど考える余力はなかった。故にダキア戦線では冬になると使えなくなり、戦争の長期化に繋がってしまった訳だが、砂漠ではどうなるだろうか。


「不安しかないんだけど……進んでみるしかないか」

「そうだな。行ってみれば分かることだ」


 という訳で、砂漠にも怯まず、第88機甲旅団は進軍を開始した。木というものはやがて全く見えなくなり、視界は非常に開けてきた。見通しがいいのは攻め手であるゲルマニア軍にとって好都合だ。


 と、その時であった。


「おっと……おい、どうした!」


 指揮装甲車が突然停止した。突然の衝撃に兵士も士官も前方に投げ出されそうになる。


「そ、それが……急に操作を受け付けなくなり、危険ですので停止しました」

「故障、か。すぐに点検と修理を。ただの故障ならいいんだけど……」

「指揮装甲車が故障したことなど、これまで一度もないだろう。環境が原因だろうな」

「まあ、そうだよな」

「シグルズ様、他にも故障した車両が……」

「はぁ……」


 この世界において砂漠地帯で戦車が運用されるのは初めてである。砂塵が舞い散る中で車両を運用するとどうなるのかは、今初めて検証されつつあるのだ。


「閣下、砂塵がエンジンなどに溜まっているようです。修理自体はエンジンを洗浄すれば問題ありませんが……」

「放っておくとまた故障する、か。そもそも水も貴重だし、面倒なことになったな」


 どうやら故障は不可避のようである。そして半ば砂漠であるこの地域では、水は貴重だ。このまま無策に進軍するのは無謀だろう。という訳で、シグルズは一度ライラ所長に意見を求めることにした。


『なるほどね。確かに、そうなる可能性は予想してたけど、そんなにすぐ故障しちゃったか』

「はい。すぐに故障しました」

『だったら、まあ吸気口に砂塵を除去するものを付ければいい訳だけど、十分な数はすぐには用意出来ないね』

「予想していたのなら事前に対策して頂けるとよかったのですが……」

『ごめんごめん。現地で対処可能な程度だと思っていたからさ。まあともかく、こうなったからには、補給基地を街道沿いに設けながら進むしかないだろうね』

「そうですか。了解しました」


 根本的な対処を行う余力はなし。一定距離を進む毎に点検と整備を行いながら着実に進むしかない。その上で、補給物資を備蓄しておく補給基地も必要だ。


「――さて、というのを、今度はザイス=インクヴァルト大将に伝えて、許可をもらうとするか」

「今すぐ通信をかけますか?」

「ああ、頼む」


 ザイス=インクヴァルト大将にこれまでの経緯を説明すると、大将はすぐに理解を示してくれた。


「現地調達はロクに出来ないが、この開けた草原ならば襲撃を受けることもあるまい。条件は悪くないと思うぞ」


 オーレンドルフ幕僚長は言った。少なくとも補給基地がゲリラ的な襲撃を受けることはないだろう。ゲルマニア軍にとって都合はいい。

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