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ガラティア帝国の紐帯

 ACU2315 6/24 神聖ゲルマニア帝国 グンテルブルク王国 帝都ブルグンテン 総統官邸


「ザイス=インクヴァルト大将、これっぽっちも反乱の兆しすら見えない訳だが、これはどういう訳かね?」


 ヒンケル総統は、帝都を失ったガラティア帝国に不穏な動きの一つも見えないことに不満を募らせていた。正確にはそう豪語したザイス=インクヴァルト大将に対する不満だが。


「ふむ……どうやら、ガラティア帝国臣民は、アリスカンダル陛下によほど心酔しているようです。彼の英雄的資質とでも言いましょうか」

「ガラティア帝国内の諸民族は大抵が独立を望んでいるのではなかったのか?」

「それについては間違いないのですが……」


 リッベントロップ外務大臣は応えた。武力によって併合された諸民族がガラティア帝国政府に対して反感を持っていることは間違いない。


「ではどうなっているのだ」

「恐らくですが、今独立するよりはアリスカンダルの庇護の下にあった方が得だと判断したのでしょう」


 ザイス=インクヴァルト大将が再び答える。


「帝都を落とされ帝国が存続の危機にあってもか?」

「圧倒的な武力で帝国の版図を爆発的に拡大したあのアリスカンダルが負ける筈がない、と信用しているのでしょう。恐らく、ですが」

「……君はまるで他人事のように語るな。もう少し危機感を持ったらどうだ?」

「これはこれは、申し訳ございません。しかし軍人たるもの、いかなる状況であっても冷静さを欠くべきではありませんかと」

「それはそうだがな……」


 確かにどんな状況でも冷静な判断を下せる能力は重要だが、それにしても焦る様子の一つもないのは、やる気がないと思われても仕方がない。


「ともかく、どうやらガラティア帝国の結束が思ったより強固だということが分かったのです。であれば、更なる打撃を与えるまで。ガラティアの更に奥深くに侵攻し、ガラティア君侯国を粉砕すれば今度こそ、帝国は崩壊します」

「ガラティア君侯国とて、決して狭い国ではないんだぞ?」

「存じております。しかし、これより攻め込むビュザンティオン以東は、歴史的に見てガラティア帝国の本土に当たる領域です。これを侵されれば、いくら彼らとで耐えられません」

「本当にそうだといいがな」


 確かに、ビュザンティオン以西、アイモス半島は、ガラティア君侯国が軍事的に征服した地域である。それに対してビュザンティオン以東はガラティア君侯国発祥の地であり、本当の中核と言える領域である。


「我が総統、戦争の終結はもう間もなくです。更なる進軍を提案致します」

「それについては許可しよう。三度目はないからな」

「はっ」

「しかし、ビュザンティオンはどうする気だ? あれは人口200万を超える、世界第2位の大都市だが」

「治安維持でしたら、我が親衛隊にお任せ下さい。何も心配することはありません」


 カルテンブルンナー全国指導者は言った。


「そういう話じゃない。200万人にどうやって食糧を供給するのかという話だ」


 都市化などまるで進んでいないアイモス半島の諸国には自給自足しろと言えば済んだが、平明京に次いで世界第二の都市であるビュザンティオンは外部からの食糧供給に頼りきっている。ゲルマニアはこの人口を生かさねばならない。


「我が国はこれまでガラティア帝国から穀物を大量に輸入してきた訳だが、それが途絶えた今、こんな数の人間を生かすだけの食糧が確保出来るとは思えんが」

「適当に飢え死にさせて数を減らせばよろしいのでは?」

「……馬鹿を言え。彼らに罪はない」


 ヒンケル総統は絶対に、罪のない民間人を犠牲にするような政策は考えられなかった。


「では、各地の強制収容所送りにするというのは?」

「障害者でもない市民にそんな仕打ちが出来る訳がないだろ」

「そうですか……残念です」


 カルテンブルンナー全国指導者は心底残念そうであった。別に演技という訳でもなく、自分の「合理的」な提案が拒否されたのが本当に理解出来ないのだろう。


「ザウケル労働大臣、実際のところどうなんだ? ビュザンティオンに十分な食糧を送ることは可能か?」


 金髪碧眼に白衣の女性、ザウケル労働大臣またはクリスティーナ所長に尋ねる。


「え、あー、そうですね……ビュザンティオンまでは鉄道が通っているので輸送には困らないでしょうが、普通に小麦が足りませんね」

「では、足りるようにする方法はあるか?」

「ダキアやルシタニアから食糧を徴発すれば、まあ足りるかと思います。まあ彼らの反感は買うでしょうが」

「ゲルマニアからは徴発しないのか?」

「え、やっていいんでしたらそうしますけど」

「……いや、いい。では、ルシタニア、ダキアから食糧をかき集めてくれ」

「親衛隊もご協力致しましょう」

「ああ、頼む。我が国の国威を示す為にも、ビュザンティオン市民は一人として死なせるな」


 これは道徳的な問題でもあるが、それ以上に政治的な問題である。枢軸国の優位性を示し、現地人の支持を得ることは、長期戦には必要不可欠なのだ。

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