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魔法の杖には機関銃を!~魔法全盛の異世界に、現代知識と無双の魔法で覇を唱える~  作者: Takahiro
第六十三章 帝都ビュザンティオン攻略戦Ⅱ
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ビュザンティオンの落日

「そ、そんな馬鹿なことがあるのか? シャルンホルストがマルマロス海に侵入したと?」


 流石のアリスカンダルも、クラウディアがもたらした報告には驚きを隠せなかった。いや、アリスカンダルだけではないだろう。赤公オーギュスタンなどヴェステンラントの面々も、驚きを隠せなかった。


「陛下、これはいかに対処するおつもりで?」


 オーギュスタンは問う。


「……マルマロス海に侵入された以上、ビュザンティオンは全てシャルンホルストの射程の中だ。それに、シャルンホルストを沈められる有力なる戦力は、我が軍には存在しない」

「諦められるのですか?」

「そうだな。ビュザンティオンは捨てるしかあるまい」


 難攻不落の大要塞の唯一の弱点を、アリスカンダルは熟知している。だからこそ、こうなったからにはもう勝ち目がないと分かっている。


「コホルス級の魔女隊で襲撃するというのはいかがですか?」


 クロエは提案する。ガラティアの懐に敵が入り込んで来たのならば、ありったけの魔女で囲いこんで乗っ取ることが出来るかもしれない。が、それはクラウディアによって否定される。


「シャルンホルストの対空機関砲、高角砲は、アトミラール・ヒッパー級の3倍以上。空から攻めれば、あっという間に皆殺しにされる」


 ヴェステンラントとの戦訓をふんだんに盛り込んだシャルンホルストだ。対空兵装の数は偏執的なまでに多い。


「ならば、私が先導しますが」

「クロエ殿、そのような危険な作戦をさせる訳にはいかないのだよ」

「……そうですか。なら仕方ありませんね」


 アリスカンダルにも反対されて、クロエの案は却下された。


「申し上げます! シャルンホルスト、金角湾に向かっている様子!」

「ついに来たか」


 暫く動きを見せなかったシャルンホルストだが、ここに来て動き出した。その目的は、ビュザンティオン市街地に切り込むように存在する天然の入江にして良港、金角湾のようだ。


「どうする? ソレイユ・ロワイヤルを動かすことは出来るけど」


 クラウディアは言った。魔導戦闘艦ソレイユ・ロワイヤル――連合国の最大戦力は現在、ビュザンティオンの更に奥、黒海で待機している。


「無駄だろう。ソレイユ・ロワイヤルをここで沈める訳にはいかない」

「分かった」

「陛下、金角湾にシャルンホルストが侵入すれば、容易に上陸されてしまいますぞ」


 スレイマン将軍は言った。


「その心配はない。いや、上陸を許すかもしれんが、シャルンホルストの戦力程度では、この広い帝都を制圧することなど不可能だ」

「それはそうですが、帝都の中心に敵艦の侵入を許し、僅かでも敵軍が足を踏み入れれば、兵らの士気は落ちてしまいます」

「ではどうやって食い止めろというのだ。鎖でも渡すのかね?」

「それはもうしていますが……確かに、食い止める手段はないようです」


 一同は意気消沈。連合国軍の戦力ではどうしようもない化け物が帝都で好き勝手に暴れているというのは、笑うしかなかった。結局彼らは何の対策も立てることが出来なかったのである。


「シャルンホルスト、金角湾に侵入!」

「ほら、防鎖など無意味ではないか」


 港湾の手前に太い鎖を張って敵の侵入を阻止するというのは、前時代的な木造帆船には有効であった。しかし、鋼鉄の蒸気船シャルンホルストの前には、ふやけた紙のように断ち切られて終わってしまった。


 シャルンホルストは帝都の象徴の一つと言える港に侵入し、その威容を市民も軍人も目の当たりにする。


「さて、それからどうする気かな?」


 アリスカンダルは会議室を出て、その目でシャルンホルストを観察している。もちろん、ヴェステンラント人達も同様だ。


「敵の副砲が動いております!」

「副砲か。帝都を焼け野原にする気か?」


 アリスカンダルが興味深そうに見つめていることは知らず、シャルンホルストは副砲を旋回させる。その照準は明らかにビュザンティオン市街地に定められていた。そして、数門が同時に火を噴く。


「陛下!! 宮殿が!!」

「おや、私の宮殿が木っ端微塵ではないか」


 アリスカンダルが平時に御所としている宮殿が吹き飛ばされた。


「どうやら、ゲルマニア軍には和平の心づもりなど微塵もないようです」


 赤公オーギュスタンは言う。皇帝を直接殺そうとするなど、戦争の早期終結を拒絶しているに等しい。


「ああ。面白くなってきたじゃないか」

「主砲も、動いています!!」

「今度は防衛線を狙うつもりかな」


 アリスカンダルの予想は的中した。シャルンホルストの主砲はビュザンティオンの城壁の向こう、分厚い塹壕を狙っていた。陸上の野戦砲より遥かに強力な艦砲に狙い撃たれ、さしもの特火点も耐えられなかった。更にはビュザンティオンの主城壁も砲撃に晒され、表層の煉瓦が崩れ落ちた。


 守るべき帝都にそのような化け物の侵入を許してしまったのである。


「申し上げます! 前線の兵らが急速に混乱し、持ち場を放棄しております!」

「どこに逃げようと言うのか……。好きにさせておけ」


 兵士達はもう何の為に戦っているのか分からなくなってしまった。塹壕線はその実際的な被害以上に大混乱に陥っている。

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