海峡制圧戦
兵士達は木々の間に踏み込んだ。事前の砲撃のお陰で多くの木が折れており、道は極端に悪かった。しかしそれでも、進むしかない。
「シグルズ様! 敵が右から!」
「崖の上からか!」
身を潜めていた魔導兵が数名、小さな崖の上から飛び降りて、数人の兵士を刺し殺した。突然隊列の真ん中に現れた敵に、兵士達はうろたえてしまう。反対に魔導兵達は決死の覚悟を決めており、一切の躊躇いなく兵士達に斬りかかった。
「消え失せろ! ゲルマニア人!!」
「く、来るなっ!!」
至近距離では突撃銃も上手く撃てず、兵士達は次々と斬り殺された。
「銃剣で動きを拘束しろ! そいつらの好きにさせるな!!」
シグルズは大声で命令する。それを受けた兵士達は、突撃銃の先に装着されている銃剣を果敢に魔導兵に突き刺す。まあ実際には刺さらないのだが、魔導兵は無理やり押し倒され、手足を押さえつけられて、突撃銃の一斉射撃で撃ち殺された。
「敵の指揮官だ! 殺せ!」
「おっと」
一方、シグルズも目を付けられてしまったようだ。魔導兵達の目標はシグルズに集中する。
「師団長殿、ここは私が相手をしよう」
「君に任せ切る訳にはいかないな」
オーレンドルフ幕僚長とシグルズは剣を抜き、向かってくる数名の魔導兵に逆に突撃した。
「私達を相手にしたのが災難だったな」
「もうちょっと事前に情報を集めた方がいいよ、君達」
オーレンドルフ幕僚長の巧みな剣技と、シグルズの剣をも叩き切る魔導剣により、襲来した敵兵はあっという間に殲滅された。とは言え、襲撃に来た敵兵よりも損害の方が大きい。敵味方がおよそ同数である以上、看過出来ない被害だ。
「シグルズ様がいなかったら、もっと被害が出ていたでしょうね……」
ヴェロニカは言う。確かに、世界的に見てもかなり強力な部類に入る魔女二人がいてこれだ。他の部隊は更に出血を強いられていることだろう。
「確かに、状況は芳しくないね。せめてオーレンドルフ幕僚長には別行動をしてもらおうかな」
「私は構わないが、それで大勢が覆るとは思えんな」
「多少はマシになるだろう。それと、体勢を立て直そう」
「分かった」
シグルズは流石にこのまま攻め込もうとは思えなかった。しかし、敵軍は襲撃を繰り返し、確実にゲルマニア軍に出血を強いる。魔導剣には銃すら叩き切る威力があり、苦戦は避けられなかった。
○
さて、その戦況はシャルンホルストのネルソン提督にも伝わっていた。
「海岸にいては撃たれ、山の中では我が方が劣勢、という訳か。敵もなかなかやってくれる……」
「このまま傍観するしか、ないのでしょうか……」
「いいや、それは許されない。名誉あるブリタンニア軍人として、死地にある友軍を捨ておくなど論外だ!」
「で、では、何を……」
シャルンホルストの砲撃の精度では、確実に味方ごと巻き込んでしまうだろう。砲撃による援護は不可能だ。強襲揚陸艦からの援護も、固定砲台を攻撃することは出来ても、山中に潜む魔導兵には全く無力。
「地上部隊は、とにかく援軍を必要としている。我々が援軍となるしかない」
「そ、それは……」
「……シャルンホルストはこれより、上陸作戦を敢行する! 全艦全速前進せよ!」
「じょ、上陸ですか!?」
「そうだ! 上陸だ! 砂浜に突っ込め!」
「は、はい!!」
ネルソン提督の命令に気圧され、シャルンホルストは直ちに海岸に向けて進み出した。
「し、しかし、どうやって兵を送り込むのですか?」
シャルンホルストは上陸用艦艇ではない。それは即ち、整備された港がないと兵士や物資を下ろせないということである。
「強襲揚陸艦を自沈させ、簡易的な港とする。以前にゲルマニア軍がやったことだ」
「ですが、ゲルマニアの船を勝手に沈めてよいのですか?」
「船の一隻くらい構うまい。急いで自沈させよ!」
「はっ!」
ブリタンニア島上陸作戦でゲルマニア海軍が行った、強襲揚陸艦を自沈させて人口港とする策。ネルソン提督はゲルマニア海軍の船を勝手に使ってそれを実行することにした。
「強襲揚陸艦、自沈! ちょうどいい感じに沈みました!」
「よろしい。このままシャルンホルストを横付けさせ、シャルンホルストの守備隊を地上に送り込む!」
「はっ!」
砂浜近くに船体を半分ほど沈めた強襲揚陸艦にシャルンホルストは横付けし、強襲揚陸艦経由で地上に兵士を送り込む。が、その時、シャルンホルストに衝撃が走った。
「砲撃か!」
「地上の砲台がまだ生きているようです!」
「しぶといな……反撃しろ!」
山腹の砲台から、魔導対艦砲による砲撃。シャルンホルストは副砲で、効果があるのかは分からない反撃を試みる。砲撃に晒されながら、シャルンホルスト守備隊は地上に次々と送り込まれる。
「急いで上陸部隊と合流せよ!」
「閣下! 砂浜に砲撃が!」
砂浜は敵の大砲の射程内なのであった。友軍に合流しに向かう兵が砲撃をモロに食らってしまう。
「クソッ……怯むな! 駆け抜けよ! ここから命令しても説得力がないが……」
「は、はっ……」
ガラティア軍の砲撃に晒されながらも、兵士達は浜を駆ける。そして死体を散乱させながらも、シグルズ達の許に続々と到達した。