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魔法の杖には機関銃を!~魔法全盛の異世界に、現代知識と無双の魔法で覇を唱える~  作者: Takahiro
第六十三章 帝都ビュザンティオン攻略戦Ⅱ
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ワラキア公国再攻略Ⅲ

「おおっ……!」


 自らの手元にある剣を破壊されたヴラド公。しかし、彼の表情は歓喜に満ちていた。そして、彼の魔導装甲は依然として銃弾をものともしない。


「この剣を破壊するとは、流石だ」


 ヴラド公はこの混沌とした戦場でただ一人、一抹の乱れもなく彼を捉える女性を見据えた。彼女こそが剣を撃ち抜いたに違いない。


「しかし、それではダメなのだ。私はまだ生きねばならぬ」


 ヴラド公は手の中に残った剣の柄を投げ捨て、代わりに右手を前に突き出した。鎧に包まれたその手を。


「残念だが、これで終わりだ」


 串刺しの魔法が発動した。攻め寄せたゲルマニア兵は尽く槍の餌食となった。剣を撃ち抜いた女性もまた、その右肩を貫かれている。戦場はたちまち静まり返った。


 そしてヴラド公は兵士らの制止も聞かず、静まり返った戦場で女の許に歩く。


「少女よ、名はなんと言う?」

「少女って歳じゃ、ないんですけどね……」

「――失敬。ならば、貴女の名は?」

「……ヒルデグント・カルテンブルンナー、大佐、です」

「その名は覚えておこう。いい戦い方だった。だが、惜しかったな」

「その籠手が、魔法の、本体ですか……」

「いかにも。剣は囮に過ぎぬ。この右手の籠手こそが、聖遺物だ」


 ヴラド公がわざとらしく剣を振り回していたのは演技。本当はその剣を握る腕こそが、魔法の源だったのだ。


「それで、事実を知った私を、殺すんですか……?」

「私は抵抗も出来ぬ者を殺したりはせぬ。そこで味方の助けを待っているがよい」

「クッ……」


 ヴラド公は立ち去る。ワラキア兵達も、串刺しにされたゲルマニア兵は捨て置いて、戦場を去っていった。


 指揮官たるヒルデグント大佐が行動不能になり、多数の戦車と装甲車の足回りを破壊され、数千の兵士が重傷を負った機甲師団。たても戦闘を維持する能力は残っておらず、周辺の師団の救護を受けざるを得ない始末であった。かくして、ワラキア軍は二度もゲルマニアの侵攻を食い止めたのであった。


 ○


 とは言え、彼らも余裕で勝利を得たわけではなかった。首都ブクルスクに帰還したヴラド公の軍勢は、またしても目に見えてその数を減らしている。


「またも、半分は死んだな。ゲルマニア軍も、甘く見たものではない」

「殿下、恐れながら、これ以上の兵力を集めることは困難です」


 ワラキア軍の兵士は高い練度を誇る職業軍人である。故に、人材が払底するのは早かった。


「ならばよい。ここにいる兵士達だけで、私には十分だ」

「し、しかし、たったの2千では、いくら何でも……」

「私は負けぬ。何があろうと、決して」

「は、はあ……」


 国家の軍事力のほとんどをすり潰してもなお、ヴラド公には降伏をする気も和平を結ぶ気も毛頭なかった。


 ○


「また、負けたのか……」


 総統官邸に即日届いた報告に、ヒンケル総統は絶句した。一度奇策に負けただけならよくあることだが、それへの対策を練ったにも拘わらず負けたというのは、ゲルマニア軍にとって大きな汚点である。しかし、何よりも怒りを顕にしているのは、カルテンブルンナー親衛隊全国指導者であった。


「我が総統、これは明らかに、ザイス=インクヴァルト大将閣下の失策です。大将閣下は降格、或いは権限の縮小こそ相応しいかと提案致します」


 カルテンブルンナー全国指導者は婉曲表現というものを使う気もなく、真っ向からザイス=インクヴァルト大将を非難した。


「君は娘が右腕を失って冷静さを欠いている。落ち着きたまえ」

「恐れながら、私は冷静です。そして、圧倒的な戦力を動かせるにも拘わらず一向にワラキアを落とせない大将閣下に対し、何らかの懲罰が下されるべきであるのは、自明の理に違いありません」

「我が総統、全国指導者の言い分には理があるかと」


 カイテル参謀総長は言った。その存在は幾分権威だけのものとなっているが、依然として軍部の最高権力者であることに変わりはない。彼の発言の持つ意味は極めて重いのである。


「……そうだな。ザイス=インクヴァルト大将には、然るべき処分が必要だ」

「はい。いかなる処分も覚悟しております」


 ザイス=インクヴァルト大将はこれまでも一切処分に反抗したことがない。今回も自己弁護をする気はないようであった。


「うむ。処分の内容は後で伝えよう。それよりも、今はワラキア公国への対処を考えるべきだ」

「それならば、我が親衛隊にお任せ下さい。手段を問わないのであれば、すぐさま親衛隊機甲師団がワラキアを殲滅致します」


 カルテンブルンナー全国指導者はそれが当然のことであるかのように言った。


「親衛隊はあくまで本土の防衛が主任務な筈だ。ヴェステンラントと戦争をしている時ならまだしも、すぐ隣に敵国がある状況で、その任務を放棄する気か?」

「現在の戦況で帝国本土が危険に晒されるとはとても考えられません。貴重な兵力を遊ばせておくのは愚策ではありませんか?」

「恐れながら、私も親衛隊の出撃には賛成します」

「それはそれは、ありがたきお言葉」


 ザイス=インクヴァルト大将も親衛隊の出撃には賛意を示した。

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