ワラキア公国再攻略
ACU2315 6/6 ワラキア公国北部
地中海では枢軸国艦隊が制海権を確保し、ビタリ半島全域を解放、帝都ビュザンティオンへの直接攻撃をすぐそこに控えている。そんな中、地上でも動きがあった。
アイモス半島で唯一抵抗を続け、ゲルマニア軍の補給線を派手に妨害しているワラキア公国。これを討伐することを、ザイス=インクヴァルト大将は決定したのである。その討伐部隊を指揮するのはヒルデグント大佐である。
「完全なる装甲化師団、美しいですね」
「まさにヴラド公を打ち倒す為の軍団、といった感じです」
ヒルデグント大佐が指揮するのは、兵士が全員戦車か装甲車に乗り込んだ機甲師団である。周辺の師団から装甲車両をかき集めて編成したものであり、歩兵の姿が外からは一切見えない鉄の軍隊だ。
「さて、それでは早速進軍しましょう。ヴラド公もきっと、私達の挑戦を受けてくれる筈です」
「そ、そうでしょうか? いくらあのヴラド公でも、これを相手には……」
どうしてこんなものをわざわざ用意したのかと言えば、ヴラド公の魔法への対策である。ヴラド公の串刺しの魔法は、威力自体は非常に低く、装甲車の底面装甲すら貫くことは出来ない。故に、全ての兵士を車両の中に収容すれば無力化することが出来るのだ。
「まあ、それで降伏してくれたら嬉しいんですが、とてもそんな男とは思えませんね」
「は、はあ」
ヴラド公は串刺しの魔法を抜きにしても危険な男だ。きっと降伏などせず突撃してくる。ヒルデグント大佐はそう踏んでいた。
○
一方のヴラド公。ヒルデグント大佐が予想した通り、機甲師団を待ち構えていた。その兵力はおよそ3千。兵力にして師団の5分の1である。
「申し上げます! 敵勢、歩兵の姿がまるで見えませぬ! 敵兵は尽く、戦車の中におる様子!」
「なるほど。確かに戦車の中ならば、私の魔法は全く効かぬな」
「で、殿下……そのような敵と、戦えるのですか?」
「何も問題はない。母なる大地を穢そうとする者は、全て粉砕する。ただそれだけだ」
「し、しかし、殿下の魔法がなければ――」
「何も変わらない。私は奴らを滅ぼしに行く。臆病者と謗られたいのならば、ここに残るがいい。行くぞ!」
ヴラド公は自身の魔法などもののついでとしか考えていなかった。だから魔法が封じられようと、彼の戦いが変わることはない。ヴラド公は自ら馬を走らせ、黒の兵士達は戦場に向かった。
「あ、あれが、機甲師団……。鉄の化け物があれほど……」
「何を言う。我々の持つ剣も鎧も鉄ではないか。戦車も所詮は武器に過ぎぬ」
「し、しかし――」
「今更怖気付いたか? ならば、とっとと消え失せるがよい」
「い、いえ、そんなことはありません!」
「よろしい。何も恐れることはない。盾を持て! 突撃!」
「「おう!!」」
黒の騎士達は突撃を開始した。
○
「敵軍、突撃してきます!」
「敵軍、大盾を多数保有している模様!」
ワラキア軍の陣容は相変わらず。大きな盾を持った兵士が一列に並び、榴弾や銃弾を尽く防ぎながら突撃する。
「想定通りですね。全車、徹甲弾撃て!」
500両ばかりの2列に並んだ戦車隊。徹甲弾を斉射し、更に撃ちまくる。ワラキア兵の盾に榴弾は通じないが、徹甲弾なら破壊することが出来る。多数の砲弾を浴び、盾の壁はたちまち穴だらけになった。
「後ろから、盾を持った兵士が繰り出してきます!」
「なるほど……」
徹甲弾が開けた穴に、後続の兵士が盾を持って入る。どうやらワラキア兵は攻撃を放棄し、全員が盾を持って突進しているようであった。
「徹甲弾を撃ち続けるしかありません。しかし徹甲弾では、敵軍の殲滅は難しい……。接近を許すことになりそうです」
徹甲弾など本来は人に向かって撃つものではない。範囲を制圧する能力には乏しく、迫り来るワラキア兵を殲滅するのは到底不可能であった。
「て、敵軍、我が軍と接触します!」
「戦車隊は、諦めるしかなさそうですね」
ワラキア兵はついに機甲師団に乱入した。至近距離まで接近されてしまえば、死角しかない戦車は無力。たちまち魔導剣に刺し貫かれ、爆破される。最前線は大混乱に陥ってしまった。
「こうなるのも予想の範囲内です。戦車隊には申し訳ないですが次に移行しましょう。装甲車隊、全力で斉射!」
戦車の後方に控えるは装甲車隊。敵味方入り乱れる前線に、備え付けの機関銃や機関砲、兵士達の小銃や突撃銃で射撃を行う。戦車を破壊して回っていた兵士達は無数の弾丸に幾らか討ち取られたが、すぐに先程の盾を地面に突き立て、その後ろから短弓で反撃する。
戦車が邪魔で大規模な突撃を行うことも出来ず、両軍は激しく射撃を交わし膠着状態に陥った。
「敵の盾は堅牢です。とても機関銃では破壊出来ません!」
「魔法がなくても大丈夫な強度をしているんでしょうね。破壊は無理でしょう」
「で、では……」
「大丈夫です。まだまだ私達には予備戦力があります」
ワラキア軍と正面からやり合っているのは全体の半分未満である。ヒルデグント大佐は次の一手を打つ。