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ゲルマニア軍の侵攻

「ワラキア首都ブクルスクの攻略……面倒な仕事ですね」


 西部方面軍は30万の軍勢でワラキア公国の壊滅作戦を開始した。街道から外れ、首都ブクルスクを目指す。その中にはヒルデグント大佐の第89機甲旅団も加わっていた。


「まあ、流石にこれほどの人数で押し寄せれば造作もないことです。気楽に行きましょう」

「はっ!」


 部隊を孤立させると襲撃を受けることから、30万は出来る限り纏まって進軍することになっている。進軍に不都合はあるものの、ブクルスクはそう遠い訳ではない。補給は何とか持つ。


「敵は、我々に反撃してくるでしょうか……」

「降伏してこないということは、戦う意思があるということです。最後の攻撃を仕掛けてくるでしょうね」

「しかし、30万に対して1万に満たない兵力で攻撃してくるとは思えませんが……」

「まあ、騎士としての意地という奴でしょう。軍事的には何の意味もありません」


 60倍の兵力差を覆すのは不可能だ。例えゲルマニアの戦術がどんなに稚拙でヴラド公が千年に一度の天才だったとしてもだ。


「大佐殿、左翼の第195師団より連絡です。敵軍を発見したとのこと」

「やはり来ましたか。敵の数は?」

「およそ5千とのことです」

「全軍で来ましたか。まあ、私達には関係ないでしょう。このまま進みます」

「はっ!」


 ヒルデグント大佐は自分のところに来なかったことにガッカリしながら、進軍を続けた。そろそろ左翼で戦闘が始まっている頃だろうか。


「た、大佐殿、大変です!」

「どうしたんですか?」

「左翼の前線が突破されました! 友軍は大混乱に陥り、数千の損害が出ている模様です!」

「戦車も装甲車もある正面から突破するとは……。どうやら、敵は勝算があって戦っているようですね」

「敵軍、撤退したとのこと! ですが、左翼の損害は大きく、部隊の立て直しには時間が必要です」

「流石に全滅させるのは無理でしょうから、妥当な戦術ですね」


 ヒルデグント大佐はワラキア軍のやり口を概ね察した。騎兵による突撃で防衛線を一気に突破して混乱に陥れ、ある程度の損害を与えた後、態勢を整える前に撤退するのだ。やはりこの戦力差では一撃離脱戦法を採らざるを得ないのだろう。


「ということは、次の目標は中央か右翼。つまり私たちですね」

「そ、それは……。では、守りを固めますか?」

「私達が攻め込んでいるんですよ? 足を止める訳にはいきません」

「た、確かに……」

「まあ、気休め程度ですが、戦闘の準備くらいしておきましょう」


 左翼は置いておき、残ってゲルマニア軍部隊は前進を続ける。いつ敵が襲ってくるかも分からない恐怖からか、空気はどんよりとしている。


 そして、ついにその時が来た。


「大佐殿! 前方に魔導反応を確認しました! 例の敵部隊かと思われます!」

「ついに来ましたか。全軍停止。戦闘用意!」

「はっ!」


 敵、黒い鎧を身に纏う禍々しい騎兵の姿が、ヒルデグント大佐の指揮装甲車からよく見えた。第89機甲旅団は戦車を前面に並べ、その間に兵士達が入り、可能な限りの迎撃態勢を整えた。


「敵軍、動き始めました!! 一斉にです!!」

「そんな危ない橋をよくもまあ……。戦車隊、砲撃を開始してください」

「はっ!」


 迫り来る騎兵に対し榴弾で攻撃する戦車達。しかし予備兵力も残さず全兵力で突撃するワラキア軍を食い止める力はなかった。まあそれ自体は予想の範囲内なのだが、それよりも奇妙なものがあった。


「あれは……何なんでしょうか……」

「盾、ですね。しかしあんな盾を持っていては、攻撃などとても出来ません」


 敵軍の最前列、数十の兵士が馬の胴体まですっぽりと隠すような巨大な盾を持ち、盾を隙間なく並べるように密着しながら馬を走らせている。まるで古代の重装歩兵のようだ。


 彼らの盾の防御力は本物で、まるで銃弾を通さない。しかしその巨大な盾を持ちながら射撃を行うなど到底不可能である。


「どうしましょうか?」

「あれが、我々に近づくことそのものが目的なのは明白です。白兵戦に持ち込もうとしているのか……いや、それにしては盾が大き過ぎる……。何かを守っているのか……」

「た、大佐殿?」

「……あれを最優先で撃破します。全軍の火力を集中させてください」

「はっ!」


 ヒルデグント大佐は、あれが何がとんでもないものを護衛しているのだと判断した。恐らくは近距離で絶大な威力を発揮する魔法を持つ魔女。それが左翼を壊滅させた秘密兵器である公算が高い。故にこれを迅速に消さねばならない。


 機甲旅団は機関銃や小銃の火力のほとんどを盾に集中させるが、一向に壊れる気配もない。


「っ……榴弾も防ぐか……」


 榴弾が盾に直撃し、大きな爆発を起こす。しかしそれすらも、魔法の盾は吸収してしまった。攻撃を捨てただけあって、とんでもない防御力である。


「戦車隊、徹甲弾に切り替え! 確実に貫け!」

「に、人間相手に徹甲弾を?」

「急いでください!」

「は、はっ!」


 すぐさま弾種を徹甲弾に切り替え、騎兵に砲撃を行う。人間に対する砲撃などほとんど当たる筈がないが、奇跡的に一発が命中し、盾とその後ろの兵士を吹き飛ばした。

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