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大八州の空母Ⅱ

「航空母艦とは、何だね?」


 ヒンケル総統はライラ所長に深刻そうな顔で問う。が、ライラ所長はいつも通りふざけた調子で答える。


「まあ写真を見れば分かると思うけど、海の上から航空機を発進させることの出来る船だよ。着陸も出来るかもしれないけど、それはあまり重要ではないかな」

「……聞きたいことは山ほどあるが、まず、それがどうして大八洲の手にあるんだ?」

「戦艦の設計図を供与した時に、以前に検討された構想の一つとして伝えたからね。それを元に独自開発したんじゃないかな?」

「木造帆船しか造れなかった連中が、いきなり航空母艦なんてものを造れるのか?」

「それは未知数だけど、大八洲の工作技術はとても高いし、船大工と刀鍛冶でまあ何とかなるんじゃないかな」

「おかしいだろう……」


 船大工と鍛冶屋を集めれば空母が出来る国。それが大八洲皇國なのである。


「で、その航空母艦とやらは、どうして我が国では建造していないんだ? 戦艦が優先されたような口ぶりだが」

「空母は私達の技術じゃあまだ造れないんだよね。爆撃機を発進させられないんだ」

「何? いや、確かに、あのような短い滑走路から爆撃機が離陸しているのは、理解し難いが……」


 爆撃機が離陸するには長大な滑走路が必要である。精々戦艦の全長程度しかない鳳翔から爆撃機が飛び立てるとは思えないのである。


「ライラ所長、つまりそれは、我々の技術が大八洲に負けたということか?」

「いいや、まさか。大八洲は魔法で無理やり爆撃機を飛ばしているだけで、技術的な問題を解決した訳じゃない。まあ、実際に航空母艦として機能しちゃってはいるんだけど」

「それが技術だろうと魔法だろうと、航空母艦は完成しているのだな?」

「そういうことになるね」

「大八洲が我々を超える技術を手にしたのと同義ではないか」


 その内実がどんな無茶であろうと、空母として機能している以上、大八洲は空母を保有していると言えるのである。これはゲルマニアの技術の敗北と言ってもいい。


「まあねえ。とは言え、大八洲は造船の段階で、職人技に頼りきっている。私を何十人かかき集めないと造れないということだね。つまり、量産性は見込めないし、鳳翔の建造に技術者を総動員しているようだから、他の物を同時に造ることは出来ない。例えゲルマニアより高度な兵器を保有していても、ゲルマニアの物量に勝つことは出来ないよ」

「……そ、そうか。分かった。この件は一先ず置いておこう」


 職人技に頼り切りの技術など、余りにも脆い。産業の基盤を整え戦艦を量産出来るゲルマニアが大八洲に負けることはあり得ないのだ。


「我が総統、大八洲がこのような兵器を手に入れたのは我々にとっても幸運です。ヴェステンラント艦隊を東に引き付けてくれるのですから」


 ザイス=インクヴァルト大将は言った。


「まあ、そうだな。我々も海を支配するのには苦労している。敵の海軍を引き付けてくれるのならば、喜ぶべきか」


 ゲルマニア海軍の活動領域は広大なアトランティス洋から地中海にまで広がっている。とても二隻の戦艦で支えられる領域ではない。大八洲が暴れてくれるのならば喜ばしいことだ。


「さて、鳳翔の話についてはこれで一旦終わりだ。アイモス戦線の話に戻ろう」


 ゲルマニアの戦争はまだ始まったばかりだ。


 ○


 ゲルマニア軍が南下する5本の大街道。そのうち2本が通るのが、ガラティア君侯国に遥か昔に組み込まれた小国、ワラキア公国である。


 公国の君主であるワラキア公は代々ガラティア皇帝に臣従の儀を行い、国際的にはガラティア帝国を構成する一国家としてすら見なされていない。


 だが、当のワラキア人達は何十年経とうがワラキア公国の独立を目指し続け、ガラティアに同化されるつもりなど毛頭なかった。そして彼らにとって、ゲルマニアの侵攻は千載一遇の好機であった。


「殿下、ゲルマニア軍の勢い甚だしく、我が国の領土に間もなく入ります。今こそガラティアに反旗を翻し、独立を勝ち取る時です!」


 当代のワラキア公ヴラドに、家臣達は独立戦争の開始を訴える。ヴラドは戦場で自ら剣を振るい指揮を執る、君主というよりも武将と言った方がいいような剛毅な男である。


「否! 左様なことはあり得ぬ」


 ヴラドは冷たい声で家臣達を一喝した。


「な、何故にございますか? 我らの長年の念願が叶う日が来るかもしれないのです!」

「他国の力を借りて得た独立など、独立ではない。我らは独力でガラティアに戦を挑み、独立しなければならぬ」

「し、しかし……」

「このような時にガラティアを離反するは、薄汚い賊も同じである。公国の名折れである。断じて受け入れられぬ」

「で、では、どうすると……」

「決まっていることを問うな。ゲルマニアを我が神聖なる領土より駆逐するまで」


 ヴラドは火事場泥棒のような行為を許さず、ゲルマニアと徹底的に戦うことを決めた。が、ゲルマニアはヴラド公がそんな理想主義者とは露知らず、寝返りを促す使者を送り付けてきた。

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