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晴政とシャルロットⅡ

「それで? そんなおもちゃで私をどう殺そうと言うのかしら」

「言うに及ばず。食らってみるがいい!」


 晴政は両手に持った機関銃の引き金を引いた。機関銃を片手で持つなど普通は正気の沙汰ではないが、鬼道で腕力を著しく上昇させている晴政には、その反動を受け止めることは不可能ではない。


 二丁の機関銃に至近距離から撃たれ、シャルロットの手足はたちまちもげ、胴体も蜂の巣になり簡単に崩れてしまいそうだった。


「ははっ。そんなので私が死ぬとでも?」


 自らの血の池の中で、シャルロットは瞬時に欠損した部位を再生させ、立ち上がった。


「ああ、死なんだろう。お前を殺す唯一の方法は、お前の中にあるイズーナの心臓を抉り出すことだけだ」

「分かってるじゃない。そして、その銃ではそれは無理よ!」


 シャルロットは両手に短剣のような長く禍々しい爪を生やし、晴政に斬りかかる。普段なら自身の刀で受け止めるところだが、晴政は後ろに飛び退いて機関銃の連射を続ける。シャルロットの体はあっという間にバラバラになるが、その度に間髪開けず完全な形に再生され、晴政に飛びかかった。


 晴政とシャルロットはみるみるうちに最初にぶつかった場所から離れていく。と、その時であった。


「ふははっ、見つけたぞ。貴様の心臓を」


 晴政は冷たい声で言った。


「何?」

「機関銃でお前を殺すことは出来んが、肌と肉を粉々にして心臓の場所をさらけ出させることは出来る。まさか脇腹に心臓があるとはな」

「こいつ…………」


 晴政の目的は、シャルロットの力の源であるイズーナの心臓の所在を探し当てることであった。機関銃の射撃で肉体を破壊し、どこに埋まっているのか掘り当てたのだ。


「さて、それさえ分かればお前など、どうということもない」

「弱点だらけのひ弱な人間と、イズーナの心臓しか弱点のない私とでは、どちらが勝つかは明白ではないかしら?」


 シャルロットは余裕を見せつける。しかし、その表情は歪んでいた。


「ほう? ではお相手願おう。シャルロット!」

「っ!?」


 晴政は機関銃を投げ捨て、刀を抜きながらシャルロット目掛けて突進した。その切っ先はイズーナの心臓が埋まる脇腹に向けられていた。


「このっ!」


 シャルロットは間一髪のところでその一撃を払い除け、後方に飛び退いた。


「少しはやるではないか。不死身に頼り切りではないようだな」

「当たり前よ。私は強いの」

「面白い。なれば俺を殺してみよ!」

「ええ、喜んで!!」


 嬉々とした表情で、シャルロットは晴政の首を切断しに斬りかかる。晴政は刀を縦にして斬撃を受け止め、次の瞬間にはシャルロットを斬りつけていた。シャルロットの右肩が斬り落とされるが、ほとんど意味はない。


 シャルロットは残る左手で晴政の胴体に斬りかかり、晴政は返す刀で受け止め、一旦距離を取った。その間にシャルロットの右腕と右手の長い爪は再生された。


「やるではないか。しかし、俺にもあまり時間はない。そろそろ終わらせようぞ」

「へえ? やれるものならやってみなさいよ」

「ああ!」


 晴政は体を屈め、シャルロットの左の脇腹に刀を突き刺すべく、一心不乱に突撃した。


「また同じことを!」


 シャルロットはその一撃を逸らすべく、右手の爪を振りおろそうとした。しかし――


「え?」


 乾いた銃声が響き、シャルロットの右の肘から先が吹き飛ばされた。そして晴政の刀はシャルロットの体の中にあるイズーナの心臓を突き刺し、体内から突き出した。シャルロットの背中から、紫に輝く欠片が零れ落ちた。


 晴政は右手で刀を握り、左手には拳銃が握られていた。隠し持っていた拳銃でシャルロットの腕を撃ち抜いたのだ。


「さ、侍らしくもない、じゃない……」


 震える声を絞り出す。シャルロットは予備のエスペラニウムなどは所持していなかったようだ。彼女の体は再生されなかった。


「武士の本分は、目的を果たすこと。何も間違ってはおらぬ」

「あっそう……。でも、詰めが甘いわよ……!」

「おっと」


 シャルロットは左手に残った鋭い爪を振り下ろさんとした。魔法で作ったものは魔法が切れたらすぐに消える訳ではない。それはまだ人を簡単に斬り裂く刃だ。


「っ!?」

「本当に、詰めが甘いわね」


 刹那、残っていた腕も吹き飛んだ。吹き飛ばしたのは戦いをずっと眺めていた桐であった。


「助かったぞ、桐」

「どうも」

「お前、が…………」


 晴政は刀身を引き抜き、シャルロットは倒れ込む。両腕を失い腹を貫かれ、魔法を失ったシャルロットは、最早助からないだろう。


「我らを散々邪魔したお前も、最期は呆気ないものだな」

「そう、ね……。でも……あなた達との殺し合いは、とても、楽しかったわ……」

「そうか。だが、この戦争ももうすぐ終わる。残念だったな」

「どう、かしら……。私が、死ねば、誰かが、再び、魔女になる……。楽しみに、しておく、こと、ね…………」

「そうか。さらばだ、我が好敵手よ」


 シャルロットは最期に笑みを浮かべ、そのまま静止した。晴政は丁寧にその目を閉じた。


 だが、彼女の言う通り、レギオー級の魔女が死ねばその血縁の誰かがレギオー級の魔女として覚醒する。ヴェステンラント王族を根絶やしにでもしない限り、レギオー級の魔女そのものは不滅なのだ。

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