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大聖堂制圧Ⅱ

「撃てっ!!」


 リシュリュー枢機卿の件もある。教皇が黙って従ってくれる可能性など皆無であり、ガリヴァルディは彼を殺害することを決意した。


 教皇を囲いこんだ兵士達は一斉に引き金を引き、教皇に無数の弾丸が飛んだ。だが、その弾丸はやはり、彼には届かなかった。


「やはり、その魔法か……。撃ち方止め!」


 突撃銃による銃撃では全く意味がなさそうであった。ガリヴァルディは銃撃を停止させる。


「その魔法はヴェステンラントにもない異質なものだ。それは一体何なんだ?」


 シグルズは教皇に問う。教皇は敵意を見せることもなく、落ち着いて厳かに応えた。


「魔法とは神の恩寵。ですから我々は、教会の歴史が始まってからずっと、エスペラニウムを管理し、神の恩寵が悪しき者に渡らないようにしてきました。しかし、百年ほど前のこと、神は新たな恩寵を、遥か海の彼方の少女にお与えになりました」

「イズーナのことか」

「ええ。しかし、神の忠実な代理人であった我々を差し置いて、神が新大陸の異邦人に恩寵を与えるなど、ありえない。ですから我々は、姿を現していないだけで、このエウロパにも神の恩寵が下されていると確信し、そしてこの黒いエスペラニウムを作り出したのです」


 教皇は傍らに置いてあった件を抜く。その剣は禍々しく、ほとんど黒に近い紫の光を放っていた。


「神の恩寵、か。結局のところ、自分達が神に見捨てられたから、それを認めたくなくて、必死でイズーナの心臓を再現したってことじゃないか」

「イズーナに恩寵が下されたのは、我々に黒いエスペラニウムの発見を促す為、神が我々にお与えになった試練なのです。何も矛盾はありません。これは全て、神の御業なのです」

「下らない正当化だな。まあ、そんな教信者には説得など通じないだろう。死んでもらう。ガリヴァルディさん、いいですね?」

「あ、ああ、構いません」

「では、喜んで」


 シグルズは対魔女狙撃銃を教皇の胸に向けた。


「知っているか? エスペラニウムっていうのは、身体に触れていないと意味がないんだ。だから、こうやって!」


 引き金を引く。教皇の身体は胸の当たりを中心に4つほどの塊に分解された。


「頭と手が分離されれば、もうその剣は意味がない。って、もう死んでいるかな」

「神の恩寵は、永劫に不滅です。鉛弾では私を殺すことすら出来ません」


 血の池の中から穏やかな声が聞こえた。


「何だと?」


 バラバラになった教皇の身体は寄り集まり、欠けた部分は修復され、再び一つの肉体となった。白い外套は破けて、その下には派手な装飾の施された鎧が纏われていた。一転して歴戦の騎士のような佇まいを見せる教皇。


「そういう魔法は聞いたことがあるが、まさかあんたにも出来るとはな」

「ヴェステンラントの異教徒に出来て、我々に出来ない道理はありません。そして、私にしか出来ないことをお見せしましょう」

「何をする気だ……下がれっ!!」


 嫌な予感がしたシグルズは叫ぶ。別にシグルズは命令系統に入っていないが、兵士達は危機を察知し一斉に距離を取った。しかし、それは間に合わなかった。


 教皇の最も近くにいた4人ほどの兵士の首が、まるで最初から繋がっていなかったかのようにずり落ちたのだ。首は床に落ち、胴体も血溜まりの中に崩れ落ちた。


「何だ。何を、したんだ……」


 魔法についてそれなりの見識のある、シグルズだからこそ、強烈な違和感を持った。


 人の首を切り落とすには相応の道具が必要である。剣でも槍でも鋸でも、とにかく何か道具を作り出し、それで人の首を斬るというのが、この世界の普通の魔法の形である。決して直接人間に手を下すことは出来ない筈だ。


 しかし、教皇はそれをやってのけた。人間の体を直接操り、その首と胴を切り離して殺したのだ。防ぎようのない、余りにもめちゃくちゃな魔法だ。


「――そ、そんなことが本当に可能なのですか?」

「魔法は意思の力です。相手の全てが自分のものであると、人間をものとしか見れないような奴であれば、可能かもしれませんね」

「教皇のような狂信者だからこそ可能な魔法という訳ですか……」


 人間を自分と対等な存在として見ず、そこら辺に転がっている木片や瓦礫と同等の存在であると心の底から思える人間であれば、人を直接殺す魔法を使うことは可能だろう。それがシグルズの結論である。


「つまりは……近づいたら殺されるぞ! 全員ここから離れろ!!」


 ガリヴァルディは直ちに兵士達を玉座の間から出し、彼とシグルズだけが残った。


「少将閣下、何か手はあるのですかな?」

「あの無限に近い再生能力です。留めを刺すにはあの剣を奪う必要があります。しかし教皇はそれ以外にもエスペラニウムを持っているようですので、剣を奪って手持ちのエスペラニウムが尽きるまで殺し続ける必要があります」

「なるほど。それは難儀ですな……」


 とにかくあの剣と教皇を切り離さないといけない。シグルズは取り敢えず、取り回しのいい大口径の拳銃を作り出して教皇に向けた。

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