軍部の陰謀
「どうしてあなたがわざわざ、こんなところに来られたのですか?」
「僕は神聖ゲルマニア帝国陸軍西武方面軍総司令官、ザイス=インクヴァルト大将閣下の特命を受け、ここに来ます。僕が選ばれたのは単純に、誰にもバレずにここまで忍び込めるからです」
シグルズは魔法を活かしてゲルマニア側にもガラティア側にもバレずに、ザイス=インクヴァルト大将直々の命令を遂行しに来たのである。
「……その特命とは何でしょうか? この状況で考えられるのは、我々を粛清することぐらいですが」
ガリヴァルディはシグルズが自身らを消しに来たのだと考えた。独立運動は今やゲルマニアにもガラティアにも邪魔でしかないからである。
「そんなことはありません。そうしたいのならばもっと相応しい人間を送り込んでいましたよ」
「……では何をしに?」
「あなた方の復権を手助けする為にやって来ました。ザイス=インクヴァルト大将閣下は、再び蜂起を起こし、教会を打倒することを考えています」
「それはゲルマニアの国益に適わないのでは?」
「現状こそ、ゲルマニアが得るものが何もなく、国益に適わないのです。故に我々は、あなた方に再び手を貸すことにしたのです」
「……それは西部方面軍が独断で動いているということですか?」
「はい。そうなります」
ヒンケル総統の決定に反し、ザイス=インクヴァルト大将はレモラ王国で再び内乱を起こそうとしていた。そんな危ない橋にシグルズは付き合わされているのである。
「しかし、支援とは? 確かに少将閣下はお一人で一個師団に相当するような戦力ではありますが」
「以前と変わらず、武器と弾薬を支援します。また僕自身も、あまり目立たないようにあなた方を援護します。あくまであなた方が独自に蜂起を起こしたことにしないと困るので」
「それは、いざとなったらまた我々を見捨てる為なのでは?」
「そう疑われるのはまったくです。しかし、どうか我々を信じて頂きたい。我々は教会などという不快なものを滅ぼしたいのです」
「……まあ、いいでしょう。では、ゲルマニアから武器が届けられれば、信用するとします」
「それならば、もう届いていますよ」
シグルズは不敵な笑みを浮かべてガリヴァルディを近くの駅に案内し、車庫に停まっている一編成の列車の許に連れていく。
「普通の貨物列車のようですが……」
「何が入っているのかは、言うまでもありませんよね?」
貨物列車の中に入る。そこには無数の銃器と迫撃砲や大砲が収められていた。
「なるほど。どうやら、少しは信用してもいいようですな」
「ありがとうございます。この武器を用いて再び蜂起を起こし、まずは教会を制圧しましょう。教皇を殺してしまえば、反撃の狼煙としてはこれ以上ないものになるかと」
「教皇を殺すかは、我々の判断に任させてくれますか?」
「はい、構いません。捕虜にするだけでも、効果は絶大でしょう」
2度目のレモラ蜂起。今度の目標は政権の転覆である。
○
「突入! 教皇を捕らえよ!」
「「おう!!」」
レモラ大聖堂の正門を打ち破り突入する兵士達。格好こそ不揃いなものであるが、実に不思議なことに、彼らはゲルマニア製の最新兵器である突撃銃を装備していた。
「な、何だ貴様らっ!?」
当然ながら何の備えも出来ず、何が起こったのかも理解出来ていない聖職者達。
「両手を挙げて跪け! さもないと撃ち殺す!」
「ひ、ひっ!?」
頭に銃口を突きつけられれば、嫌でも状況を理解する。武器も持たない彼らはあっという間に制圧され、聖堂の片隅に集められた。
「目標は教皇だ。聖堂の奥深くにいる筈。迅速に抑えよ!」
聖堂に突入し、次々と扉を蹴破る反乱軍。しかし、ある扉を開けた途端、その兵士の胸を一本の矢が貫通した。
「魔導兵だっ!! 隠れろ!!」
すぐさま飛来する数本の矢。大聖堂の僧兵であろう。
「応戦だ! 撃ち返せ!!」
扉の傍から銃口だけを出し、室内に激しい銃撃を浴びせる兵士達。しかし命中率も低く、敵の魔導装甲を突破することは出来なかった。
「このままじゃ埒が明かない! どうするんだ、ベニート!?」
「ここは……」
「そんな時の為に僕がいるんです」
すかさず現れるシグルズ。何かあったら手助け出来るようにガリヴァルディの近くで待機していたのである。
「どうするおつもりですか?」
「これを使います」
シグルズは背負っていた、彼の身長よりも長い黒い筒を見せる。
「対魔女狙撃銃です。魔導兵など一撃で貫けます」
「分かりました。頼みますぞ」
「はい」
シグルズは対魔女狙撃銃を抱えて扉から離れた。対魔女狙撃銃の射程は聖堂の端から端よりも長いのだ。扉の真正面、遠く離れた床に狙撃銃を設置し、シグルズも伏せる。そして扉の先の敵に狙いを定めた。
「柱の陰から撃ってきているのか。それなりに訓練は積んでいるみたいだな……」
姿の見え隠れする白い服を着た僧兵は、ただの警備兵という訳でもなさそうだ。
「まあ、どこに隠れようと無駄だけど」
シグルズは引き金を引いた。魔導兵の隠れていた柱ごと、その体を粉砕したのであった。