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新たな戦争の建議Ⅱ

 ガラティア帝国は列強の中では最も歴史の浅い国である。以前から存在したガラティア君侯国の時点で地球で言うところのバルカン半島とトルコに領土を持つ大国ではあったが、ここ50年ほどで周辺国を一気に併呑し、旧大陸の端から端に至る国家となった。この時点からのガラティアを、周辺国はガラティア帝国と呼ぶ。


 しかし急速に拡大した帝国は決して安定したものではなかった。急速な拡大を支える為に吸収された諸国には広範な自治権が認められ、君主をアリスカンダルに据えた人的同君連合の体裁を採っている。


 構成国は論理的にはたまたま君主が同じだけの国々の寄せ集めであり、帝国が崩壊する危険性を孕んでいる。ここに付け入る隙があるのだ。


「アリスカンダル皇帝陛下の権威さえ失われれば、ガラティア帝国はすぐさま瓦解することでしょう。そして権威を失墜させる最もよい方法は、帝都を奪うことです」


 ザイス=インクヴァルト大将は言う。


「首都への直撃か。君はその手が好きだな」

「戦略の本質は敵の重心を潰すことにあります。そして首都とは、国家にとって最大の重心に他なりません」

「別にそれを否定している訳ではない。続けてくれ」

「はっ。幸いにして帝都ビュザンティオンはエウロパの中にあり、我が国のすぐ近くにあります。従って、我が軍はエウロパでの作戦だけでガラティア帝国を崩壊させることが出来るのです。決してあの広大な領土を駆け抜ける必要などありません」


 ガラティア帝国の帝都ビュザンティオンは、エウロパの南東の端、アイモス半島(地球で言うところのバルカン半島)の端にある。作戦を展開すべき範囲がそれだけであるのなら、戦争遂行は現実的だと言えるだろう。


「首都を落とせば戦争が終わるのならば、その通りだな」

「ガラティア帝国とはつまるところ、アリスカンダルの武威によって纏め上げられた国なのです。それさえ失われれば、帝国の崩壊は間違いありません」

「しかし、ガラティアは大八洲相手に何度も負けている。それについてはどう思うのだ?」

「攻め込んで撃退されたのと本土を侵されるのでは、敗北の意味合いが全く違います。本国が滅びれば属国の離反は当然でしょう」

「そう上手くいくといいがな」

「軍部はそのことを確信しております」

「……取り敢えずは、そうとして話を進めよう」

「はい。またガラティアと開戦した場合、我々はアイモス半島以外にも多数の戦線を抱えることになりますが、これらでは最小限の兵力で防御に徹し、可能な限り多くの戦力をアイモス戦線に投入し、一気呵成にビュザンティオンを陥落させることを計画しております」


 戦略目標は一点に絞り、そこに最大の戦力を一挙に投入するのだ。兵力の分散は愚策である。


「その言いぶりは、戦争をする気満々じゃないか」

「戦争の是非を議論するには、その展開を詳細に予想するべきでしょう」

「それも道理か」


 勝算のない戦争自ら仕掛けるのは論外である。そして軍部はガラティア帝国相手に短期決戦で勝利を掴むことが可能だと主張していた。


「勝機が十分にあることは分かった。だが、我々がまず考えるべきは、外交的な手段によってガラティアに講和を強いることだ。軍部も異論はあるまいな?」

「ガラティアを枢軸国に加盟させられるのであれば、異論はありません」


 戦争に至る前にあらゆる選択肢を試すべきである。ヒンケル総統の提案は至極真っ当なものであった。


「それで、我が総統は一体いかなる策をお持ちなのでしょうか?」

「それについては、リッベントロップ外務大臣から説明してもらう」

「はっ。説明させて頂きます」

「ほう」


 これはヒンケル総統が外務省と個別に話し合って固めた計画である。


「ガラティア帝国の不安定さを利用するという根本については軍部の提案と違いありません。しかし、戦争という直接的な手段よりも賢くガラティアを足止めする方法を、我々は提案しようかと思います。即ち、ビタリ半島の独立運動を利用するのです」


 地球ではイタリア半島に該当するビタリ半島であるが、ここは比較的近年にガラティア帝国に併合され、人種や文化の違いから帝国の支配に対する反発が最も激しい地域である。実際、何度か大規模な反乱運動が発生している。


「独立運動などという非力なものが、どうやってアリスカンダルを脅かせましょう」


 ザイス=インクヴァルト大将は半ば馬鹿にするように言う。が、リッベントロップ外務大臣は顔色一つ変えない。


「確かにこれまでの武装蜂起はことごとく、たったの一日で壊滅させられてきました。しかしそれは彼らの武器が貧弱だったからこそ。我々が武器を援助すれば、ガラティア帝国軍と戦うことも出来ましょう」

「分離独立運動の支援、ですか。なるほど。確かに成功すれば、我が国は犠牲を出さずに済みますな」


 ザイス=インクヴァルト大将は少しばかりの興味を示した。成功すれば、であるが、ゲルマニアはほぼ何も失わずに済む。


「しかし、反乱軍を支援するなど宣戦布告にも等しい。結局はガラティアとの全面戦争になること避けられないのでは?」


 それもまた当然の疑問。ガラティア帝国に対する明確な敵対行為であることは、間違いないのだ。

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