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個人的な復讐

 数分考えて、クロエは決断した。


「シグルズ、了解しました。あなたに手を貸しましょう。ただし、ルーズベルト外務卿の居場所まで案内するだけです」

『ありがとう。賢明な判断をしてくれて助かるよ』


 かくしてクロエとシグルズは王都ルテティア・ノヴァ。ノフペテン宮殿に向かうことになった。二人はお互いの部下達に指揮官同士で交渉を行うと嘘を吐いて、宮殿に向けて飛んで行ったのだ。


 機甲旅団と戦いたくないクロエにとって、交渉しているという体で時間を稼げるのは僥倖であった。


「それで、個人的な恨みとは何なのですか?」


 空を並んで飛びながら、クロエは尋ねる。


「君に言っても分からないことだよ」


 ルーズベルト外務卿の正体はシグルズを転生させたルシフェルとかいう者と同様の大天使。そしてかつて世界を地獄に叩き落したルーズベルト大統領その人であるらしい。このような存在は一刻も早くこの世界から抹殺されなければならない。


「そうですか」

「ちょっと遠い話だけど、クロエ、君はゲルマニアとの和平に応じてくれるつもりはあるのかな?」

「交渉に応じないことはありませんよ。条件次第で今すぐ講和条約を結ぶことも、私は構いません。ですが、私は合州国の主導権を握ってはいません。私個人の意思では戦争を終わらせることは出来ませんよ」

「それもそうか。是非とも君にはヴェステンラントでの権力掌握に勤しんでもらいたいところだね」

「可能な限り頑張りますよ。私だってそれなりに、富と権力は欲しいですから」


 クロエなどの理性的な一派がヴェステンラントの最大派閥になってくれれば、この戦争に終止符を打てる可能性が大いに上がる。だが今のところは、主戦派の赤公オーギュスタンが政権で最も力を持っているという状態だ。


「しかし、オーギュスタンは何で戦争を続けたがってるんだ?」

「彼は負けず嫌いなだけですよ。特に深い不理由はありません」

「え、そんな奴が戦争指導をしてるの?」

「はい」

「割と最悪じゃないか」


 政治的な目的を持って戦争の完遂を掲げているのなら、何らかの妥協を見出すことは可能だろう。だが負けず嫌いなどという感情論でしかない理由で和平の応じないのであれば、ヴェステンラントが完全に勝利するまで戦争は終わらない。ゲルマニアとしては受け入れがたい展開だ。


「やっぱりオーギュスタンには失脚してもらった方がいいね」

「そうですね。とは言え、七公が失脚するなんて我が国の歴史上例がないんですけどね」

「たった百年くらいの歴史じゃないか。是非とも先例を作ってくれ」

「まあ努力はしますよ」


 などと他愛ない会話をしているうちに、焼け野原となったルテティア・ノヴァの上空を通り過ぎ、ノフペテン宮殿の目の前にまであっという間に到着した。


「さて、ここからは秘密の地下道を使っていきましょう。王族しか知らない隠し通路です」

「そんなものを僕に教えていいのか?」

「誰にもバレずにノフペテン宮殿を歩き回るなんて不可能ですし、後で改築しておきますのでご心配なく」

「なら、遠慮なく使わせてもらおう」


 王宮を囲む水堀。その水面スレスレのところに、泥の中に隠された扉があった。魔法で飛びながらでもないと入れないところにある隠し扉とは、ヴェステンラントらしい。魔法で汚れを払いのけて扉を開け、シグルズとクロエは暗い地下通路に入った。


 歩くこと20分ほど。入り組んだ通路を経由し、目的地に辿り着く。


「この真上が外務卿の執務室です。あなた方風に言えば外務省という奴になりますか」

「よく知っているね。道案内に感謝する。ここからは僕一人で行くよ」

「ええ。後は勝手にしてください」


 シグルズは地上部分に出る。戦火の及んでいない綺麗な建物の3階が、目的地のルーズベルト外務卿の執務室であった。シグルズは突撃銃を構えながら扉を蹴破った。


「どうもこんにちは。ルーズベルト外務卿はいらっしゃいますか?」


 いかにも金がかかってそうな装飾の部屋の奥に、大きな机と男が一人。


「お前か……」


 シグルズはその顔を見てすぐに、それがルーズベルト外務卿だと分かった。何せ、その顔は歴史の教科書には必ず載っている悪人面だったからだ。が、彼は突然のゲルマニア兵の訪問にも驚くことはなく、微笑みすら浮かべていた。


「これはこれは、ゲルマニアの方がどうされたのですか? 我が国に降伏でも申し入れに来たのですか?」

「ふざけている余裕があるかな?」


 シグルズはルーズベルト外務卿の目の前まで近付き、彼の頭に銃口を突き付けた。


「おやおや、怖い怖い。話し合いをする前に銃を向けるとは、何と野蛮なことでしょう」

「……一応確認しておこう。お前はかつてアメリカ合衆国の大統領だった。そうだな?」

「転生者であることをそう簡単に明かすのは感心しませんよ、シグルズ君」

「はっ、隠すつもりはないということか」


 この男だ。この男こそが人類史上最悪の指導者、ルーズベルト大統領なのだ。


「日本人がお前の前に姿を現わしたんだ。どうされるかは、考えるまでもないな?」

「私を殺すと? やれるものならやってみればいいでしょう」

「ああ、遠慮なく」


 シグルズは微笑んで、引き金を引いた。


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