機動戦
「敵軍の勢い、止まりません!!」
「そうだろうと思ってたよ。怯むな! 撃ちまくれ!!」
数百の榴弾を浴びたヴェステンラント軍は数千の兵士を吹き飛ばした。隊列を大いに乱されながらもしかし、突撃を諦める気は全くないようであった。
「機関銃、撃ち方始め! 弾を使い切る勢いで撃ちまくれ!!」
「はっ!」
戦車の同軸機銃が一斉に火を噴く。榴弾砲の雨の中を駆け抜けて来た重騎兵を対人徹甲弾の嵐が襲い、先頭から次々とその鎧を貫かれる。しかし、敵は損害を一切顧みていない様子で足を止めず、たちまち両軍の距離は詰まる。
「どうやら、敵は我々に出血を強要することを目的としているようです。ここが敵地である以上、作戦としては間違っていませんね」
ヴェッセル幕僚長は冷静に状況を判断する。ここまで狂信的な攻撃は勝利を目的としたものではない。何が何でも第18機甲旅団に損害を与えようとする作戦だ。故に、敵の士気を挫いて撃退するということは不可能である。
「クソッ。本当に面倒な奴に目を付けられたじゃないか」
「ええ。こうなれば――ん、あれは?」
その時、重騎兵の隊列の後方で次々と爆発が起こり、数百の兵士が馬上から叩き落された。と同時にオステルマン中将充てに通信が飛んで来た。相手は親衛隊であった。
『――中将閣下。我々が側面から敵を突きます。ご注意を』
「そうか、ありがとう。頑張ってくれたまえ」
『はっ』
親衛隊がヴェステンラント軍に追いついて砲撃を開始したのである。これで二方面からヴェステンラント軍を攻撃するという当初の作戦に戻れはした。が、既に敵は第18機甲旅団に接近し過ぎており、残念ながら親衛隊機甲師団の攻撃は有効打にはなり得なかった。
「敵軍、第一防衛線を突破! 我が軍の陣形の中に入られます!!」
「やっぱりダメだったか。これでは援護も意味がない」
兵力が一瞬で4分の1ほど消し飛んだものの、重騎兵は第18機甲旅団に突入することに成功した。そうなってしまうと、戦況は一気に悪化せざるを得ない。
「前衛部隊が激しい攻撃を受けています! 損害は非常に大きい!」
「だろうな」
重騎兵の弩は戦車を正面から貫通出来るかは運次第だが、側面や背面からならほぼ確実に貫くことが出来る。戦車隊の間を縫うように駆け抜けるヴェステンラント兵は戦車の側面を次々に貫き、戦車隊にたちまち壊滅的な損害を与えた。
「歩兵隊は全部出撃だ! 敵を食い止めろ!」
戦況は混線、白兵戦に移行した。突撃銃を持った兵士達は戦車や装甲車の陰に隠れ、迫りくる敵兵を一人ずつ確実に処理していく。が、最初から二倍の兵力を誇るヴェステンラント軍相手にそう長くは持たなかった。
「第2中隊、突破されつつあります!!」
「奴らの目的は、ここか」
敵軍の目的はオステルマン中将及び第18機甲旅団の司令部を殲滅することのようだ。であればこの狂信的な突撃にも説得力が増す。
「閣下、指揮装甲車の防御力は高くはありません。ここに留まることは余りにも危険です」
ヴェッセル幕僚長は言った。この指揮装甲車が攻撃を受ければ第18機甲旅団は完全に統制を失って瓦解してしまうだろう。
「私は何とかなるが……お前達を失う訳にはいかんな。分かった。指揮装甲車は後退だ。敵は前からしか来ないんだから後ろに下がっても問題ないだろう」
「はっ!」
情けないが指揮装甲車は第18機甲旅団の最後部まで後退した。その最中にも重騎兵は進軍し、機甲旅団は食い荒らされていく。先程まで司令部があった場所も戦場になっている。
「前線は混沌とした状態です。とても組織的な戦闘とは言えない状況ですね……」
「クソッ! もう陣形なんぞ維持しても無駄だ。全軍、左右から連中を叩き潰せ!」
「はっ!」
敵はオステルマン中将目指して一直線に斬り込んできており、両翼の部隊は暇を持て余している。陣形を破棄して全軍を最前線に投入することをオステルマン中将は命令した。
「これで前しか見えていない馬鹿どもを挟み撃ちに出来る。何とかなるか」
「そうなると思いたいですね」
「……そういうことを言うなよ」
先細ったヴェステンラント軍を挟み込むゲルマニア軍。左右から対人徹甲弾の暴雨に襲われ、すさまじい速度で兵士をすり減らしていった。だが、それでも敵は止まらない。
「閣下! 敵が、敵がもうここまで来ます!!」
「クッソ……。今私が逃げる訳にはいかんだろ。迎え撃つぞ! 銃を持て!!」
「「はっ!!」」
司令部の人間もまた兵士である。指揮装甲車の機関銃を構え、その他の者は突撃銃を持って装甲車の陰に隠れた。中将自身も車から出た。もちろん指揮装甲車一両だけではなく護衛部隊もいるが、数両の装甲車だけであった。
「敵兵、すぐそこまで来ました!!」
「よーし。覚悟を決めろよ」
「閣下、閣下は魔法を使ったりはしないでくださいね。万が一の際は逃げることに魔法を使ってください」
「善処する。さて……撃てっ!!」
ここで負けたら第18機甲旅団は終わりだ。彼らの射撃の腕に部隊の命運がかかっている。