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包囲を包囲

 さて、オステルマン中将とカルテンブルンナー全国指導者に運悪く狙われてしまったのは、青公オリヴィアが率いる部隊であった。オリヴィアはオーギュスタンから海王星作戦の裏方を任されていたものの、実際のところは大公の名前を使いたかったからであって、いざ実戦となれば大した役割はなかった。


「殿下! 前と左から敵軍が急速に接近しています!!」


 オリヴィアの許に血相を変えて飛び込んできた伝令の兵士。


「敵が反撃を……?」

「そのようです」

「兵力はどれほどですか?」

「前からは2万、左からは1万程度かと。但し、どちらも機甲部隊かと思われます」

「機甲部隊、ですか…………」


 オリヴィアはまだ実際に戦ったことはないが、ゲルマニア軍の機甲部隊については色々と聞き及んでいる。ヴェステンラントの魔導兵もほぼ互角に戦える部隊であり、状況によっては多数の魔導兵を屠る力さえある恐るべき部隊であると。


 それが自軍より多い兵力で、しかも挟撃するように襲いかかってきた。これではオリヴィアの方が危機的な状況になってしまう。


「ど、どうされますか? 敵はゲルマニアの精鋭部隊です。我らが重騎兵を以てしても、互角に持ち込むのがやっとであるかと」

「敵は重騎兵の弩にもある程度は対応しているのでしたね。大変なことになってしまいました……」


 オリヴィアは溜息を吐く。頭のおかしい大八洲人から開放されたと思ったのに、今度の敵はよく分からない鉄の塊に乗って突っ込んで来たのだ。彼女に楽な戦いは回ってこないらしい。


「そ、それで……」

「少々不甲斐ないですが、オーギュスタンに指示を仰ぎましょう。私にはこの状況を切り抜けられる自信がありません」


 実戦経験もないオリヴィアにこんな危機的な状況を凌げるとは思えない。素直にオーギュスタンに助けを求めることにした。


『――状況は理解した。君達を攻撃しようとしている部隊の強さは本物だ。仮に戦いを優位に進めたとしても、大きな犠牲が出ることは避けられない。包囲網の一角となることは最早不可能だ』

「そ、そうですか……」


 いきなり戦力外通告を受けて流石にへこむオリヴィア。


『だが、包囲に使えぬのならば他の使い道もある。せっかく敵の最精鋭部隊がしゃしゃり出て来たのだ。寧ろこれに大損害を与えることが出来れば、長期的に我が軍の優位となる』

「つまり、私達は玉砕して敵に損害を強要せよと?」

『そうは言っていない。敵に一撃加えた後は逃げても構わん。あわゆくば、敵の大将の一人や二人を討ち取ってくれればありがたいがな』

「分かりました。そうしましょう。目標は少ない方でいいですか?」

『それでいい』


 ぶつかるのなら可能な限り有利な方に。オリヴィアの判断はオーギュスタンに認められた。かくしてオリヴィア率いる2万の重騎兵は第18機甲旅団に逆に突撃を仕掛けることになった。


 ○


「閣下! 敵がこっちに突っ込んで来ました!!」

「何!? 奴ら何考えてるんだ!?」


 オステルマン中将に、彼女の部隊に敵軍が一斉に突撃してきたとの報告が入った。


「閣下、厄介なことになるかもしれません。混戦に陥れば、戦車の優位は失われてしまいます。他の部隊からの援護も得られません」


 ヴェッセル幕僚長は言う。両軍入り乱れる乱戦に持ち込まれた場合、有利なのはヴェステンラントの方だ。敵の狙いはそこにあると予想される。


「敵は皆、黒い鎧を纏っているようです! 重騎兵である可能性が高いかと!」

「2万の重騎兵、か……。流石に厳しいかもな」

「閣下、甚だ不本意ではありますが、我が方の機動力を活かして逃げるべきではありませんか?」


 ヴェッセル幕僚長は不愉快そうな表情を顕にして言った。確かに騎兵の最高速度は所詮馬の走る速度であり、ゲルマニアの自動車と比べればかなり遅いと言える。オステルマン中将は暫し考え込んだ。


「…………確かに私達の方が速い。が、今更陣形を転換して、或いはこのまま反転すると言うのは、恐らく無理だ。陣形が崩壊したところをヴェステンラント軍に殴られるという最悪の結果に終わるだろう」


 全車に無線機が配備されているとは言え、そのような急速な機動変更には時間がかかるだろう。そしてもたもたしている内に重騎兵は攻撃してくる。


「そう、ですね……」


 そこで反論することはしない。その議論の時間はないからだ。ヴェッセル幕僚長はオステルマン中将の判断を信じる。


「であるからして、我々の選べる道はただ一つ! 全力で奴らを迎え撃つ! 全車止まれ! 戦闘態勢を整えよ!!」

「「はっ!!」」


 戦車は止まり、陣形を整えてその砲口を迫り来る騎兵の方角に向けて。動きながら砲撃することも不可能ではないが、やはり停止しながら撃つのが圧倒的に精確な砲撃を行うことが出来る。


「敵軍を視認! 報告通り、およそ2万の騎兵です!」


 黒の重騎兵は大波のように土煙を立てて、雷のような轟音を立てて迫り来る。


「全軍、撃ちまくれ! 奴らを近づけるな!」


 全ての戦車が砲撃を開始し、榴弾の炸裂によって騎兵の姿は覆い隠される。



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