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ヴェステンラントの妨害Ⅱ

 それから暫く。敵の特火点を破壊しながら進んでいた筈のシグルズに悪い報告が届いた。


「シグルズ様! 後方の第42師団が敵の襲撃を受けています!」

「何? 僕達の後ろに着いてきている筈の部隊だろう?」

「は、はい、その筈なのですが……」


 第88機甲旅団が道を切り開き、その後ろに歩兵師団が続く。一見して理想的な作戦に見えたが、早くも失敗の兆しが見え始めた。


「師団長殿、我々が撃滅したのは我々に攻撃を仕掛けてきた敵だけだ。敵が我々を無視して息を潜めていたのならば、後続の部隊が失われていたのも不思議ではない」


 現状、積極的に敵を発見するのはほぼ不可能と言ってもいい。敵が攻撃してきて初めて反撃が出来るのだ。だから敵が何もしなければ、第88機甲旅団は簡単に見逃してしまうだろう。


「クソッ。もう作戦が見破られたっていうのか」


 第88機甲旅団は自他共に認める強力な打撃力だ。ヴェステンラント軍が目標に選ぶ理由はない。


「作戦は失敗、か」

「完全に失敗した訳ではないが、当初の予定通りの撤退は不可能に近いだろう」

「……そうだな。ヴェロニカ、オステルマン中将に今のことを伝えてくれ」


 いつでも後手に回ってしまう。ここがヴェステンラントの土地なのだと痛感させられる、第88機甲旅団の面々であった。


 ○


「閣下、市内各所で敵の襲撃を受けています。撤退作業は遅滞し、計画の完遂は最早不可能であるかと」


 ヴェッセル幕僚長はオステルマン中将にそう報告した。シグルズが切り開いた道にも息を潜めていた敵が残っており、後続の部隊が次々と攻撃を受けていた。そして第88機甲旅団のような精鋭部隊でもない限り、それへの対処は困難であった。


「まったく、どうなってるんだ。ルテティア・ノヴァの地下街は制圧したんじゃなかったのか?」

「地下街とは別に独立した小規模な拠点があったようです。拠点と呼んでいいのか分からないほど小さなものですが」

「チッ。どうしようもないじゃないか」

「ですから作戦の完遂は絶望的だと申し上げたのです」

「……そうだな。こうなったら、作戦を変更するしかない。奴らを迎え撃ち、時間を稼ぎながら部隊を撤退させる。これしかない」

「はい、その通りかと。既にルテティア・ノヴァ外縁部にいる部隊で防衛線を構築し、撤退する部隊を受け入れることとしましょう」

「ああ。それで頼む」


 敵に囲まれる前に逃げ切るという当初の作戦は失敗に終わった。こうなったら包囲に耐え抜いて徐々に部隊を撤退させるしかないのだ。大きな犠牲が出ることは覚悟の上である。


「それと、私達には出来ることがある」

「? 何でしょうか?」

「第18機甲旅団は司令部直属として温存していたが、そろそろ動かす時が来た。近づいてくるヴェステンラント軍に突撃し、少しでも時間を稼ぐ」


 オステルマン中将直属の第18機甲旅団。中将はこれで三方から迫る敵軍の一角に突撃を仕掛け、包囲を完成させまいとしていた。


「それは、2万の敵軍に6千の私達が突っ込むということですか? ヴェステンラント軍相手に劣勢な兵力で戦いを挑むなど正気の沙汰ではありません!」

「局所的な突破力ならば、機甲部隊は既にヴェステンラント軍を圧倒している。敵の進軍を遅らせられれば十分だ。それに、私はいざとなったら脱出するさ。将兵にこんなことは言えんがな」

「それは……。確かに閣下の魔法があれば何とかなるとは思いますが……」

「何の為に戦力を温存していたと思っているんだ。こういう非常事態の為だろう? ならば選択肢は一つだ」

「……そこまでは、分かりました。しかし、全軍の指揮は誰が取るのですか?」

「指揮装甲車があれば移動しながらでも指揮は執れるだろう」


 オステルマン中将は第18機甲旅団を指揮しながら、30万のゲルマニア軍をも同時に指揮するつもりでいた。


「ええ、まあ、不可能ではないでしょう。分かりました。最大限の備えは行います」

「頼む」


 かくして長らく最前線から遠ざかっていた第18機甲旅団はついに戦場に足を運ぶ。2万の敵軍に決死の突撃を仕掛けるのである。数百の車列は歩兵や騎兵などとは比べ物にならない圧倒的な速度で進軍を開始した。


 ○


 目標と会敵するまでには1時間とかからないだろう。機甲旅団は全速力でルテティア・ノヴァの外側を走行していた。と、その時であった。


「閣下。親衛隊から通信が入っています」

「こんな時に何の用だ」


 と言いつつ、素早く通信機を取るオステルマン中将。


「こちらオステルマン中将。何の用だ?」

『親衛隊全国指導者のカルテンブルンナーです。閣下はどうも敵軍に対し決死の突撃を行おうとしているようですが、相違ありませんか?』

「ああ、そうだ。それがどうした?」

『僭越ながら、親衛隊がお手伝い致しましょう。我が機甲師団と閣下の機甲旅団で敵に十字砲火を浴びせることが出来ます』

「なるほど。悪くない」


 親衛隊は市内にあり、機甲旅団は市外から敵に向かっている。二つの部隊が協力すれば敵を二方面から叩くことが出来る。


「親衛隊はいいのか? 危険な仕事であることに変わりはないが」

『この程度、大したことはありません』


 かくして親衛隊機甲師団と第18機甲旅団の共同作戦が展開されることとなる。

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