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欠席だらけの七公会議

 ACU2315 2/27 ヴェステンラント合州国 陽の国 ノフペテン宮殿


 レリアの暴走が食い止められた翌日。約束通りゲルマニア軍は宮殿への侵攻を再開し、ヴェステンラント軍との熾烈な戦闘を演じている。そんな中、ヴェステンラント最高の意思決定機関である七公会議が開かれた。


 参加することが出来たのは、摂政エメ、陽公シモン、赤公オーギュスタン、白公クロエのみである。青公オリヴィアは本土に帰還しているが、別の仕事で忙しく、参加は見送られた。


「はい。皆さん、お集まりのようですね」


 女王ニナの実母であるエメが、いつも通り司会を務める。


「さて、シモン、今回七公会議を招集した理由をお話ください」


 七公会議の開催を要請したのは陽公シモンであった。レリアの件はあくまで個人的な問題。公使を混同することなく、シモンは冷静に陽公として行動する。


「ああ。改めてだが、この戦争の引き際というものを議論したいと思って、会議を招集させてもらった。無論、七公も半分しかおらず、女王陛下もおられないここで結論を出そうとは思わんが」

「それは私に対しての文句かね、シモン?」


 オーギュスタンは揶揄うように問う。いつもこんな調子だから真面目に発言しているのかは誰にも分からない。


「そうだな。この戦争を現在主導しているのはお前だ、オーギュスタン。だからお前が主題になることは避けられないだろう」

「いい答えだ。それで、もう少し詳しく話してもらおうか。ゲルマニア人に助けてもらって情が湧いたなどとは言うなよ?」

「……そんなことはない。ただ、この戦争に意味がないと思っただけだ。一体何の為に戦争をしているのかとな」


 元はと言えばレリアを生かす為にイズーナの心臓の欠片を回収することが、シモンが戦争に賛成した理由であった。レリアに欠片を持たせることが出来なくなった以上、シモンに戦争を遂行する理由は最早ないのである。


「お前の主張は考慮に値するぞ、シモン」

「どういうことだ?」

「戦争は全て目的を達成する為の手段に過ぎない。目的を明確にしなければ、戦争指導もままならぬ」

「ではお前には明確な戦争目的があるといのか?」

「無論だとも。当面の目的はゲルマニア軍を全て、我らの母なる土地から追い落とすことだ。簡単なことではないか」

「それが暴論だと言っているんだ! お前は政治を学んだことがないのか? 敵を全部追い払わないと戦争が終わらないなど、まるで子供の発想だ」

「どうしたんだね、シモン? 急に声を荒らげて」

「……真面目に答えてくれ。私とてゲルマニアに領土を割譲してやるつもりなどない。だが、その条件下であっても戦争を幕引きさせる手段など、いくらでもあるではないか」


 戦争とは政治の一手段であり、陣取りゲームのような単純なものではない。ゲルマニア軍を全て武力で撃退しようとしているのなら、オーギュスタンは政治に関する見識が絶無であると言わざるを得ない。


「では逆に問おう。シモン、お前はどのように戦争に幕引きを図るつもりなのだ?」

「宮殿にはまだ戦力が残っている。この王都でゲルマニア軍が息切れするまで戦い、そこでゲルマニアと和平交渉を始めるのだ」

「首都が攻められている最中など、降伏するも同然ではないか」

「……ならばルテティア・ノヴァからは撃退した時でもいい。ともかく、可能な限り早く、この戦争に幕引きを図るべきだ」

「お前がそうも主張するのであれば、よかろう。どの道、王都から奴らを蹴落とすことに変わりはないのだから」


 議論しても結論はここに収まると判断したオーギュスタンは、早々にシモンの提案を受け入れることにした。戦争に引き際を窺っているのはゲルマニアだけではないのである。


「ありがとう。クロエも、それでいいかな? 君はゲルマニアを解体することを目的としていた訳だが」

「あれは昔のことです。今や全く現実的ではありませんし、私の思想も変化しています。今は和平を結び態勢を立て直すのが肝心です。ゲルマニアを滅ぼすのはまた次の戦争のお楽しみに残しておきましょう」


 かつては科学技術を憎みゲルマニアを滅ぼそうとしていたクロエ。だがこの戦争を通して、魔法と科学は必ずしも相反する存在ではないことを学んだ。結局のところヴェステンラント軍も科学の力を取り入れて戦争を遂行しているのだから。


「そうだな。宰相殿下もそれでいいか?」

「私は決定権を持たない存在です。個人的には戦争の早期終結は望ましいところですが。ともかく、陽公、赤公、白公の総意が戦争を可能な限り早く終わらせることであるのは、間違いありませんね?」


 三名とも静かに頷いた。


「とは言え、ゲルマニアが応じてくれるかは分からぬがな」


 オーギュスタンは嘲笑うような声で言った。


「お前は……。事実ではあるが、言い方というものがあるだろうに」

「ゲルマニアは面倒な民主主義の国だ。私の作戦で大損害を喰らえば、国民の怒りが和平を許さないかも知れないぞ?」

「何だと? ルテティア・ノヴァから撃退するだけでそんなに犠牲が出ると?」

「端的に言えば、そうなるな。……おっと、今の話は聞かなかったことにしてくれ」


 オーギュスタンは不敵な笑みを浮かべた。彼の真意は今のところ、誰も知らない。

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