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結末

 突然現れていいところをかっさらっていった女王に、誰もが釘付けになった。


「おいおい、余は少し力を貸してやっただけだ。それよりもレリアのことを気にしたらどうだ?」

「……それもそうだ」


 シグルズはイズーナの心臓を失ったレリアの方に目を向ける。レリアはシモンの目の前で銅像のように固まっていた。


「クロエ、どうなってるんだ?」

「私に聞かれても分かりませんよ。ちょっと小突いてみたらどうですか?」

「小突くとは……まあ、そうしようか」


 シグルズはシモンのレリアの間に降り立った。レリアは虚ろな目をしてぼんやりと立ち尽くしている。息はしているようだ。


「おーい。大丈夫か?」

「…………わ、私、は……」


 意味ある言葉を発した途端、レリアは全身かの力を失って、人形のように崩れ落ちた。シグルズは慌てて彼女の体を支える。


「レリア!!」


 シモンが駆け寄ってきた。シグルズはレリアをシモンに渡して、シモンはレリアを抱きしめる。その腕の中でレリアは気を失っていた。


「さて、一件落着のようだな」

「女王陛下……」


 一同を見下ろす黒衣の少女。ヴェステンラント合州国が女王ニナ。レリアより危険な相手である。彼女が何を言い出すのか、誰もが不安になっていた。


「まずは、シグルズよ。安心しろ。余はお前達を取って食ったりはしない。休戦は守る。元より休戦などというものを認めたのは余なのだからな」

「そう、ですか……。では休戦が開ければ我が軍と殺し合うと?」

「それはどうかな。余がそのような気分であれば、そうするであろう」

「楽しみにしています」

「ふははっ。言うではないか。で、次に陽の魔女についてだ。ヴェステンラントの女王としてなすべきことは、レリアを殺して陽の魔女を誰かに引き継がせることであろう」

「へ、陛下!! そのような――!」

「落ち着け、シモン。余はそんなに非情な人間ではない。レリアは謹慎しているがいい。我が国の魔女戦力は既に十分である」

「よ、よかった……」


 外面を捨てて心から安堵するシモン。本来なら心身壮健なるものに陽の魔女を継がせるべきではあるが、ニナはレリアを放置することを決定した。


「命令は以上だ。随分と面白い余興を見せてもらった。感謝するぞ、シグルズ、クロエ、そしてヒルデグントとやら。では、さらば――」

「陛下、お待ちください」


 立ち去ろうとしたニナをシグルズが引き留める。


「何だ?」

「その心臓の欠片は何に使うつもりですか?」

「こんなもの二度と使わん。どこかに封印するつもりだ」

「それならよかったです。では」

「ああ。さらばだ」


 ニナは透明化の魔法でイズーナの心臓を持ったまま消えた。先程までの激闘が嘘のように戦場は静まり返った。ようやく終わったのだと、誰もが実感した。


「さて、殿下、娘さんはどうするんですか?」


 ヒルデグント大佐はシモンに尋ねる。


「あ、ああ。レリアは、残念だが……これからもずっと寝たきりになるだろう。イズーナの心臓など持たせられない」

「でしょうね。賢明な判断です」

「それと君だが、ゲルマニア軍のところに帰ってもいいぞ。借りは残しておきたくないからな」

「おやおや、それはありがとうございます。では、私はありがたく帰らせていただきます」

「も、もう行くのか」

「ええ、もちろん」


 ヒルデグント大佐は振り返ることなく階段を降りていった。


「シグルズ、敵ながら、君には感謝しているよ。この恩はいずれ必ず返す」

「僕はゲルマニア軍の為に最善の手段を選んだだけです」

「そうか……。それと、クロエ、君にも当然感謝している。わざわざ危険を冒してまでレリアを止めてくれた」

「大して働けていませんがね」

「そんなことはない。ともかく、二人とも、本当にありがとう」


 シモンもまた、レリアを抱いて塔を降りていった。今後暫く、陽の魔女は事実上の欠番になるだろう。ゲルマニア軍にとっては僥倖だ。


「さて、クロエ、これで僕達は敵同士になるね」

「ええ、数時間後には。もっとも、私としてはどちらも戦わないことを提案しますが」

「それで済むのならそうしてくれ。公明正大に戦争がしたいのでね」

「面白いことを言いますね。暫くは会うことがないのを願います」

「僕もだ」


 お互いにレギオー級の力は行使しないことを口約束して、シグルズのクロエは分かれた。あと3時間で戦闘が再開されるまで、暫しの平和である。


 ○


 一方その頃。この事態をずっと静観していた男、ノフペテン宮殿の元締め、赤公オーギュスタンは外界のことなど全く気にもかけず、読書に耽っていた。


「殿下、レリア様が倒されました。すぐに終わってしまいましたね」

「あの陽の魔女が丸一日程度で敗北するとはな。確かに予想外の展開ではある。しかし、この戦争はまだ私の筋書きから逸脱してはいないのだよ」

「それはいいですが、レリア様を傷付けたのに見合う戦果は得られたのですか?」

「一日を無為に過ごすことが出来れば十分だ。全ての作戦は何の障害もなく実行される」

「そうですか……。では作戦に変更なしということで、各所に通達します」

「そうしてくれたまえ」


 オーギュスタンの作戦はまだほんの一部しか披露されていない。

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