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ヒルデグント大佐の策Ⅱ

「どうやら、レリアの動きに変化はないようですね」

「ああ。作戦を盗み聞きされたのではないようだね」


 レリアの動きに変化はない。通信を盗聴するような頭は残っていないようである。そうして暫くすると、ヒルデグント大佐が予告した通り、宮殿の中から白い煙が高く上がった。


「あそこにレリアを誘導すればいいんだったかな」

「ええ、そう言っていましたね。やりますか」

「ああ。やろう」


 シグルズとクロエは壁の後ろから機関砲を連射しながら、高く昇る煙に向かってゆっくりと移動していく。が、レリアは急に興味をなくしたように、追っては来なかった。眼下の人々を殺して回ることにお熱である。


「シグルズ、銃弾が全然当たっていませんよ。これではレリアの脅威になりません」


 距離を取ってしまったら、機関砲の乱射ではほとんど命中を期待することが出来ない。そしてレリアに脅威と判定されなければ、追いかけては来ないのである。


「分かった。なら、こうしよう」

「シグルズ、危険です!」


 シグルズは対物ライフルを作り出して、クロエの鉄の壁から少しだけ顔を出し、レリアに狙いを定めた。そして引き金を引き、早速レリアの右肩を消し飛ばした。レリアは彼を睨みつけ、興味を持ってくれたようだ。


「シグルズ、顔を出さないのをおすすめしますが」

「あれを引きつけるなら精確な射撃が必要だ。こうするしかない」

「死んでも知りませんからね」

「ああ、そのつもりだ」


 レリアは再びクロエの盾に攻撃を仕掛けてくる。分厚い鉄の壁も溶けて貫通されかけるが、その度に壁を作り替えて対応する。シグルズは対物ライフルを装填する度に十数秒だけ顔を出して狙撃するのを繰り返した。


 そうして徐々にレリアを白い煙の方に誘引していく。


「よし……いい感じだ」

「おっと、あれが仕掛けですか」

「そのようだ」

「こんな演劇みたいなやり口で信じてくれるのでしょうか」


 目的地には塔が一つ。その頂上でヒルデグント大佐がシモンの喉元にナイフを突き付けているという、芝居かと思いたくなる状況が作られていた。これがヒルデグント大佐の作戦なのである。


「レリア! 君のお父さんが殺されかけているぞ!!」

「……?」


 レリアの動きが一瞬止まった。肉親のことを忘れるほど狂ってはいないようで何よりだ。そしてレリアはシモンを発見すると、シグルズやクロエなど忘れてしまったかのように、一直線に彼の許に向かった。そしてシモンの目の前に降り立った。


「お前! お父様を離せ!!」

「まさか、そんなことをする訳がありません。彼は我が国にとって重要な捕虜です。ゲルマニア本国に移送させていただきます」


 冷静に考えればそんなことが出来る筈がないとか分かるだろうが、レリアにそんなことは考え付かなかった。


「そう。なら、殺してやるまでです!!」

「どうぞ、ご自由に」

「っ……」


 体をわなわなと震わせながら魔法の杖を向けるレリア。しかし、彼女には何も出来なかった。


「やはり、そこまで精密に魔法を制御することは出来ないということですか。お父様を殺せはしないですからねえ」

「お、お前……!」


 全てヒルデグント大佐の読み通り。密着しているシモンを巻き添えにする可能性を、レリアは強く恐れているようであった。


「さて。無駄話をしている時間はありません。とっとと終わらせてしまうことにしましょう」

「何を……っ」


 乾いた銃声が鳴り響く。ヒルデグント大佐がシモンの体の影からレリアを撃ったのだ。彼女の大口径の拳銃はレリアの右胸の辺りを丸ごと破壊し、再びイズーナの心臓が零れ落ちた。


「それを取って!」

「任された!」


 レリアの背後に再び姿を現したのはマキナ。彼女のすぐ後ろにピッタリと張り付いて待機していた。背中から落ちる心臓の欠片を、マキナの右腕はついに掴み取った。


「よし。これで――っ!?」


 全速力で離脱しようとした、その時だった。右腕に鉄の鎖が何重にも絡みつき、マキナは身動きが取れなくなってしまった。


「クッ……この……うっ」


 鎖から逃れようとしていたマキナの胴体が後方に弾け飛んだ。それを自覚する時間すらなく一瞬にして、腕が切断されてのである。


「まったく、そんな小細工を弄しても意味は――ん?」


 レリアは心臓の欠片を回収しようとしたが、マキナの切り離された手はそれを離さなかった。


「そこから手を動かせるとでも?」

「驚いたか?」

「ええ、確かに、面白いですよ。でもそれでは、時間稼ぎにしかなりません」


 迷うことなくマキナの腕を細切れにし始めた。もっとも、手を直接に切断するとイズーナの心臓ごと破壊してしまうのか、じわじわと手首から切り落としていく。


「流石に無理があったか……」

「残念ですね。もう無理みたいですよ」

「クッ……」


 マキナの手が開かれようとしたその時だった。


「っ!?」

「んなっ――」


 マキナの手からイズーナの心臓が零れ落ちると同時に、それはいきなり明後日の方向に飛んで行ったのだ。マキナもレリアもその方向に目を奪われる。


「よくやった、マキナ。それにゲルマニア人。余の役に立てて光栄であろう」


 透明化の魔法を解除してイズーナの心臓を握りしめていたのは、ヴェステンラント女王ニナであった。


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