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ヒルデグント大佐の策

 そこら中が焼け焦げ崩れ落ちたノフペテン宮殿を所在なげに歩くヒルデグント大佐。そうしていると、魔導兵が一人、ヒルデグント大佐を気にする余裕もない様子で走っていた。


「ふむ。ちょっと話を聞かせてもらいましょうか」

「え――」


 ヒルデグント大佐は魔導兵の目の前に飛び出して、彼を床に叩きつけた。魔導兵は自分が何をされたのかすら理解出来ず、ヒルデグント大佐に馬乗りにされた。


「お、お前、何だ……」

「この軍服を見れば分かるでしょう。私はゲルマニア軍のヒルデグント・カルテンブルンナー大佐です」

「そ、それが、何なんだ」

「あなたに聞きたいことがあります」

「ひっ!?」


 ヒルデグント大佐は魔導兵の兜の隙間、兵士の目の目の前に銃口を突き付けた。これでは魔導装甲も意味をなさない。


「この状況は、一体何がどうなっているんですか? 我が軍の攻撃ではないようですが」

「レリア様が気が触れて暴れ回っているらしい。詳しいことは知らん!」

「気が触れた? まあ確かに、そう言われれば納得出来る状況ではありますが」

「こ、これ以上は知らないからな、本当に!」

「本当ですか? ではさっきからめっきり銃声が聞こえなくなったのはどうしてですか?」

「そ、それは、ゲルマニア軍と我が軍が休戦しているからだ。レリア様を止めるまでの間だけらしいが」

「それほどに敵は脅威なのですか……」


 ゲルマニア軍とヴェステンラント軍が一時的にせよ協力せざるを得ない事態。どうも前代未聞のことが起こっているのは間違いなさそうだ。


「その銃口を早く離してくれ!」

「ああ、すみません。でも私、殺させたくないので、剣をどこかに捨ててくれませんか?」

「……分かった」


 魔導兵が剣を投げ捨てると、ヒルデグント大佐は彼を解放した。魔導兵は元より向かっていた方に走り去っていった。


「捕虜が脱走しているのにほぼ無視とは……相当余裕がないようですね」


 ヴェステンラント軍が切羽詰まっているという事実に更なる証拠が得られた訳だ。


「さて、身の振り方を考えなければ」


 彼女はどうするべきか。このままゲルマニア軍に帰還することも可能だろうが、もう少し面白いことも出来そうだ。


「陽公シモンさんに、会いに行くとしましょうか」


 ヒルデグント大佐はこの宮殿の構造を概ね把握している。彼女はシモンがいるであろう宮殿の一角に足を進めた。ヴェステンラントの勢力圏にわざわざ戻っていったのである。


 上空ではレリア、シグルズ、クロエが激しい戦闘を繰り広げている中、大佐は静かにシモンのいるであろう宮殿の一角に向かった。警備は全くと言っていいほど機能しておらず、彼の許に簡単に近付くことが出来た。


「こんにちは、皆さん」

「何者だっ!!」


 姿を見せた途端に弩の先を向けてくる魔導兵達。しかし陽公シモンはそれを制止し、逆にヒルデグント大佐を近くに来させた。


「どうして戻って来たんだ? 君がゲルマニアを裏切るとはとても思えないが」

「ええ、もちろんです。そういう話ではなく、あなたの娘を正気に戻すのにご協力しに来たんですよ」

「……何? どうして君が私に協力するんだ?」

「これはあくまでゲルマニア軍の為です。あのような魔女を放っておいたらおちおち寝ることも出来ません」

「何か考えがあるのかね? 言っておくが、彼女はクロエとシグルズが相手でも全く勝ち目がないような魔女だぞ?」

「ええ、分かっています。しかし彼女は紛れもなく、あなたの娘です。そうですよね?」

「ああ、その通りだ。だが……彼女は悪霊にでも憑りつかれているようなんだ」

「分かっています。ですが、あなたに危険が及べば、彼女も少しは正気を取り戻してくれるかもしれません」

「どういうことだ?」


 ヒルデグント大佐はニヤリと微笑む。レリアを討ち取るには一芝居打つ必要がある。


 ○


「通信? 何だこんな時に」

「私のところにも来ています」


 クロエとシグルズが腰にぶら下げている魔導通信機が同時に反応を示した。


「これは……周辺の無差別に魔導通信を飛ばしているようですね。こんな時に一体誰が……」


 魔導通信機は通常、事前に周波数を合わせたもの同士でしか通信出来ないようになっている。これで混線を回避するのだ。だが例外的に、あらゆる周波数で電波を全方向に飛ばせば、周囲に存在する全ての魔導通信機に呼び掛けることが出来る。もっとも、そんなことをするのは白旗を上げる時くらいだが。


「とにかく、取ってみよう」

「そうですね」


 この通信は絶対に受けるべきだとシグルズとクロエは判断した。通信機を耳に当てて暫く立つと、凛々しい女性の声が聞こえて来た。


『えー、こちらはゲルマニア陸軍、ヒルデグント大佐です。誰でもいいので聞こえたら、ハーケンブルク少将か白公クロエ様にお伝えください。これより宮殿の奥で白煙を焚きます。その場所にレリアを連れ込んでください。そして――』


 何とこの場の全兵士に向けてヒルデグント大佐が作戦を説明しているのである。それも驚くべき作戦を。


「まあ、レリアは通信なんて聞いていないだろうし、これでいいのかな」

「さあ。彼女は光の魔女です。聞こうと思えば聞けるかもしれませんよ」

「……確かに。あの状況でその発想がないことを祈るしかないね」


 まずはヒルデグント大佐が動くまで、シグルズとクロエはレリアの様子を観察することにした。もちろん、機関砲の銃火は絶やさずに。

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