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共闘Ⅲ

「逃げた!?」

「ええ、逃げられましたね」


 鳥のような勢いで飛んで行ったレリアを、シグルズとクロエは暫く呆然と眺めていた。あまりにも早い変わり身に驚きしかない。


「いえ……そういう訳でもないようです」

「あれは……宮殿を燃やしているのか」


 レリアが飛んで行った先の建物が次々と燃え上がり始めた。明らかに彼女の仕業だろう。


「ええ。光の魔法は普通の威力だと木材を貫いてしまった炎上はしませんが、適切に威力を下げれば上手く燃やすことが出来ます」

「そういうことか。止めに行く、でいいかな?」

「無論です。宮殿を燃やされるのは困るので」

「あんなのが僕達に向かってきたらと思うとゾッとするね」


 考えるまでもない。シグルズとクロエは共に飛び立ち、レリアを追う。恐らくマキナも着いてきているだろう。宮殿に魔法の杖を向けて燃やすことに夢中のレリアに背後から近づき、先程の陣形を取ってレリアに銃を向けた。今度は機関砲ではなく、20丁ほどの突撃銃である。


「今後こそ正体を暴いてやる!」

「っ」


 レリアを背後から、一瞬にして数百の弾丸が貫いた。マトモな人間ならば全ての臓器を破壊されて一瞬で死んだことだろう。だがシグルズの狙いはそこではない。


「聞こえた!」


 人間を撃っている時には絶対聞こえることのない、鉄と鉄を打ち付けた甲高い音。そして彼女の体からポロリと紫色の塊が零れ落ちた。間違いない。イズーナの心臓の欠片だ。


「あれを取る!!」

「あ、ちょっ!」


 シグルズはそれを確認した途端、クロエの壁から飛び出して、落下する欠片に向かって弾丸のような勢いで飛び込んだ。それを手に入れてしまえばレリアにはもう無限の魔法は使えないからだ。


「取れるっ!」


 シグルズは手を伸ばした。しかし、それは突如として自由落下を止め、シグルズは慣性によって遥か下へと飛んでしまった。イズーナの心臓は時間を巻き戻すようにしてレリアの体に戻っていったのである。


「クソッ。先手を取られた!」

「はははっ、そんなことで心臓を奪われる私ではありませんよ」

「面倒な……」


 蜂の巣にした筈のレリアの肉体は直ちに修復され、心臓も元の場所に収まったようだ。シグルズはレリアを睨みつけるしかなかった。が、その時であった。


「っ!?」


 レリアの右胸から紫色の血に染まった塊が飛び出した。彼女のすぐ後ろにはマキナが姿を現し、レリアの右胸にナイフを突き刺していた。マキナは光の魔法に次々貫かれているが、突き刺したナイフを抜くつもりはない。


「シグルズ! 心臓を取れ!!」


 マキナが聞いたこともない必死の声で叫ぶ。シグルズに迷いはなかった。


「もちろんだ!」


 一気に飛び上がり、体から飛び出したイズーナの心臓に手を伸ばす。が、彼の手はすんでのところで届かなかった。


「何だっ……腕が……」


 右腕が力を失って落ちる。その腕はそこら中が黒焦げになっていた。レリアの魔法に貫かれたのだ。


「クソッ……」

「何をやっているシグルズ!」

「ははっ、ダメですよ、その程度じゃ」

「マキナ、すまない! 一旦退く!!」


 意図を察したマキナは瞬時にナイフを抜いて虚空に消えた。シグルズもまた、クロエがすぐに展開した壁の後ろに隠れたのであった。


「どうなってるんだ。イズーナの心臓が触れていないのにどうして魔法が使えるんだ?」

「簡単なことですよ。彼女がイズーナの心臓とは別に普通のエスペラニウムを持っているだけです」

「ああ、そうか……」


 余りにも妥当なやり口で逆に言葉が出なかった。確かにイズーナの心臓を失っただけで魔法を喪失するのは危険が大き過ぎる。予備のエスペラニウムを持っているのは当然のことだ。


「本当に、どうしたらいいんだ?」

「ええ、困りましたね」


 イズーナの心臓だけでは半永久的に魔法を行使することしか出来ないが、それとエスペラニウムを組み合わせば永久に魔法を使うことが出来る訳で、やってられない。


「まあ予備のエスペラニウムを使い切るまで切り刻めば何とかなるとは思いますが、あまりにも時間がかかります」

「現実的ではないね。取り敢えずは、時間稼ぎをするとしようか」

「ええ、そうするしかないでしょう」


 最早無意味であると分かった訳だが、レリアを野放しにしている訳にもいかず、戦闘を継続することにした。可能な限り再生に時間をかけさせるように機関砲を撃ちまくる。


 決めてはない。戦車を小銃で延々と撃ち続けているようだ。だがそれでも、レリアは脅威と認識してくれる。


「クロエ、何か切り札はないのか?」

「あったらとっくに出していますよ。切り札があるとすれば……彼女の不安定な精神にあるかもしれませんがね」

「精神攻撃って? そんな便利な魔法はないだろう?」

「ええ、ありません。残念でした」


 シグルズもクロエも有効な手を思い付きすら出来なかった。


 ○


 一方その頃。


「ふう……まったく、こんなところで焼死するところでした」


 ノフペテン宮殿の混乱に乗じて、ヒルデグント大佐は自由の身になっていた。


「さて……これは一体、何がどうなってるんでしょうか」


 大佐にはレリアの暴走など考え付かず、何が起こっているのは理解出来なかった。

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