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暫定策

「へえ、レギオー級の魔女に裏切られるなんて、残念なことだね」

「今の話を聞いて裏切りだと思うんですか? それだったらとっくにゲルマニア軍に合流している筈でしょう」

「……そうだね。でもどうなってるんだ? 魔法を使うと頭がおかしくなるなんて話は聞いたことがないけど」


 ゲルマニア軍もヴェステンラント軍も何が起こっているのかは、精確には把握出来ていなかった。ただレリアが無差別虐殺を起こしているという事実があるのみ。


「あなただって派手に魔法を使えば疲れるでしょう? それは脳に負担をかけているという証拠です」

「まあ、確かに。だが、それなら先に気でも失うだろう?」

「レリアの場合は色々と特別なんですよ。詳細についてはお話しかねますが」

「それはいい。で、君はそんなことを僕に話して何がしたいんだ? レギオー級の魔女が君達の間で暴れ回っているなら、寧ろ大歓迎なんだが?」

「こうは言いたくありませんが、話の通じない不死身の化け物が暴れ回っているのですよ? これを放置していたら、両軍共に大きな損害を負うとは思いませんか?」

「つまり君は、僕達と協力してレリアを殺そうとしていると?」

「ええ、端的に言えばそうなります。お互いにとって悪くない話だと思いますがね」


 クロエはゲルマニア軍に協力を要請したのだ。長年に渡り戦争を続けてきた相手に。それはヴェステンラント軍が内密に処理出来ないほどにレリアが強力な魔女だということを自白しているようなものだ。それは同時に、ゲルマニア軍が処理出来るか怪しいということでもある。


「提案は理解した。だが僕達が協力する理由はないね。ここはヴェステンラントで、僕達はゲルマニア人だ。化け物を置いて本土に帰ればいい」

「それではあなた方の、王都を占領するという目的が果たせないではありませんか。まあ逃げ帰って下さるのなら、それはそれで大歓迎ですが」

「……確かに、それはダメだ。僕達は退く訳にはいかない」

「であれば、お互いの為に、一時的に手を組むのはアリだと思いますが?」

「レリアっていうのは、そんなに強い魔女なのか?」

「はい。女王陛下と彼女は、始原の魔女イズーナの直系です。私よりも数段上の力を持っていると考えてもらっていいです。まあ戦いになれていないのがせめてもの救いですが。それに、先程言った通り彼女はイズーナの心臓を持っています。いつまでも戦い続けますよ」

「なるほど……。それはとんでもない化け物を解き放ってしまったようだ」


 ヴェステンラントの五大二天の魔女。その二天に該当するのが女王――陰の魔女ニナと陽の魔女レリアなのである。その潜在的な戦闘能力は他の魔女の中でも別格。五大魔女が使える魔法を全て使えるのに加えて、固有の魔法を使うことが出来る。


「それで、どうなんですか?」

「僕は所詮は一部隊の指揮官に過ぎないんだ。そう簡単に決められる訳がないだろう?」

「それもそうでしたね。ではあなたとしては、受ける気はあるのですか?」

「それを決めるのは僕じゃない。オステルマン中将閣下だ」

「話を聞いてくれる気はあるのですね。よかったです」

「結果がどうなっても文句は言わないでくれよ」


 シグルズは一先ず、この場における休戦には同意したことになる。そういう訳でシグルズは何とも締まらない思いで陣地に戻り、ヴェロニカにオステルマン中将へ通信をかけさせた。


『――なるほどな。随分面白いことになってるじゃないか』

「ええ、本当に。向こう側は既に、こちらが休戦に応じるのならすぐに休戦する用意があるとのことです。全ては中将閣下の判断にかかっています」

『そうだな。シグルズ、お前はどう思うんだ?』

「この地上で最強と言ってもいい魔女が無差別に暴れ回っている状況です。これを排除しなければ、マトモに戦争を遂行することは出来ません。ヴェステンラント軍と一時的に手を結ぶ方が、相争って互いに消耗するよりは理性的な判断かと」

『まあ、合理的に考えたらその通りだ。我が軍にとっての利益が大きいだろうな』


 考えれば考えるほど、この提案はゲルマニア軍にとっての利益の方が大きい。


 ゲルマニア軍とヴェステンラント軍が手を組まずに殺し合いつつレリアが暴れ回った場合、どちらが勝とうと両軍の被害は甚大なものとなるだろう。だが、これで損をするのはゲルマニア軍だ。ヴェステンラント軍はここでいくら兵を失っても補充が効くのに対し、ゲルマニア軍は遥か遠くのエウロパから援軍を送らなければならないからでる。


 お互いの消耗を抑えようという提案は、一見すると両軍共通の利益になるように見えて、実際はゲルマニア軍にとっての利益の方が遥かに大きいのだ。


「ヴェステンラント軍が何を考えてこのような提案をしたのかは分かりませんが、気が変わらない内に受けておいが方がよいかと思われます」

『分かった。そうしよう。但し共闘すると言うのは無理だ。休戦が精一杯だろう』

「はい、分かっています」


 かくして両軍は休戦することを決定した。

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