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陽の魔女レリアⅢ

「殿下! レリア様が、その……お味方を、大勢殺したとのこと……」

「な、何を言っているんだ……?」


 あまりにも不可解な状況に、シモンにそれを伝えに来た伝令も、言葉を選びかねている様子であった。しかし何とか、何があったのかを理解させることは出来た。そしてシモンがどう反応するかなど、目に見えていることだ。


「そ、そんな馬鹿なことがあるか! レリアがそんなことをする筈がない! お前達の方が造反したんじゃないのか!?」

「お、恐れながら、我々に二心などは微塵もございません! ただ事実を申し上げたまでのこと!」

「…………」


 シモンは返す言葉が思い付かなかった。伝令が嘘を吐いているようにも思えないが、その言葉を信じることはとても出来なかった。


「と、とにかく、状況の把握に全力を尽くし、何かあったらすぐに報告するように」

「はっ!」


 しかし入ってくる報告はどれも、レリアが狂ってしまったとしか思えない内容であった。


「……これはどうなっているのか、説明はあるんだろうな、メンゲレ君?」


 シモンはレリアの主治医、メンゲレ医師を呼び出した。内心では娘の凶行を認めざるを得なくなっていたからだ。


「はっ。私から申し上げられることは一つだけです。レリア様は元より、魂を二つ持ったお方。そして魔法とは意志の力である以上、イズーナの心臓によって無理やり引き出された魔法がレリア様の心に何か異常をもたらしたのだと考えられます」

「確かに、あの子は二人の人間をかけあわせる君の手術で生き永らえた。それと魔法が関係あるのか?」

「大変申し訳ございません。殿下に隠していたことが、それです。魔法とはどんな者であろうと2つしか使えないものですが、レリア様はそれが4つ使えたのです。一人の人間の基準を決めている存在からすれば、レリア様は一つの脳しかない二人の人間なのです」

「…………それを隠していたのは、そんなことを知られたらレリアが戦争に使われるからか?」

「はい。全ては患者の為に、というものです」

「そうか。どうすれば娘を救える?」

「イズーナの心臓を抉り出せばよろしいでしょう。あれこそが全ての原因です。もっとも、そうなるとレリア様はまた病室で寝たきりになってしまいますが……」


 よく考えたらおかしな話だ。魔法は2つしか同時に使えないのに、魔法で体機能を代替しつつ戦っている。確実に3つ以上の魔法を同時に使っていることだろう。それはレリアが魔法を司る法則に二人の人間と判定されている証拠だ。


 そして常に頭に負担がかかる魔法を同時に使い過ぎてしまったばかりにレリアは精神に異常をきたした。それがメンゲレ医師の見解である。


 ○


 一方その頃。戦力が完全に拮抗して膠着状態になっているシグルズとクロエ。両軍が睨み合う廊下でのこと。シグルズは4丁の機関砲を盾の上に固定して延々と撃ちまくっていたが、クロエの戦艦の装甲並みに頑丈な防壁を打ち破ることは出来なかった。


「いい加減、こんな無意味なことは止めようじゃないか! お互いに壁から出て、決着をつけよう!」


 シグルズはクロエを挑発してみた。まあ守備側である彼女がわざわざ危険を冒す必要はないから、ほんの憂さ晴らしに過ぎないのだが。が、クロエの反応は予想とは違った。


「その決戦、受けてもいいですよ! 決闘で、この場の勝敗を決しましょう!」

「――何を企んでるんだ?」


 思わずそう尋ねてしまった。自分で言っておいて滑稽は話である。


「そっちから持ち掛けて来たんでしょう? 何を言ってるんですか?」

「い、いや、まあ、そうなんだけど。分かった。是非とも戦わせてもらおう」

「し、シグルズ様、本当に、行くんですか……?」


 ヴェロニカは心配そうに尋ねた。


「ああ、大丈夫だ。それに、僕達の利益の方が大きいからね」

「そ、そういう問題ではなく……」

「クロエの気が変わる前にいかないといけない。オーレンドルフ幕僚長、万が一の時は頼んだ」

「無論だ。師団長殿の勝利を祈っている」


 シグルズは自分で作った鉄壁の要塞から単身、戦場に繰り出した。クロエもまた壁の中ら姿を現わした。どちらも部下が心配していることには変わりがないようであった。


「それで、どういう風の吹き回しなんだ? 君には決闘に応じる理由がない筈だ」


 両軍の陣地の中点。誰もその声を聞き取れない場所で、シグルズは目の前の真っ白な少女に問いかける。


「理由なら、あります。あなたには想像出来ない理由かと思いますが」


 クロエの赤い目は鋭くシグルズを見つめている。シグルズをからかっているようではないようだ。


「それを話してくれはしないのか?」

「教えてあげますよ。別にもったいぶることではありませんから」

「何があった?」


 ただならぬ様子のクロエに、シグルズは本能は危険信号を発していた。彼女の話を遮る気など毛頭ない。


「あなたが先程言っていた、ゲルマニア軍が交戦しているもう一人の魔女、つまり陽の魔女レリアについてです」

「彼女が僕達にどう関わってくると?」

「そうですね。まずは事実をお伝えします」


 クロエはレリアが狂って近くの人間を無差別に殺していることを、シグルズに伝えた。

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