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最後のレギオー級

「レリア! お前……」


 雑務をこなして大急ぎでレリアの許に戻ってきた陽公シモン。彼女の部屋に入ると、レリアに病弱な雰囲気は全くなく、優しい微笑みを浮かべていた。


「私は戦います。全てのゲルマニア軍を殺し尽くします」

「そんなことは――いや、確かにそれが、合州国を守護する魔女の役目、だな」


 シモンは何とも言い返すことが出来なかった。レリアの言うことは全て正しい。五大二天の魔女として、彼女は戦うべきなのだ。


「お父様、私は戦います。そこをどいてください」


 レリアは淡々と歩き出した。


「…………そう、か。ならば、勝利してくれ。勝利して、生き残るんだ」

「はい。私は勝ちます。私は陽の魔女です」

「私にはもう、何も出来ないよ」

「行ってきます」


 レリアは前線に向かった。シモンは精々、彼女の護衛に手勢をありったけ派遣することしか出来なかった。もっとも、彼女自身に危険が及ぶような自体になれば、普通の魔女など役には立たないだろうが。


 ○


 建物を渡り歩き次々と制圧し、一人の捕虜も取らずに兵士を殺し尽くしている親衛隊。そんな彼らが渡り廊下を進んでいると、彼女は現れた。


「お、女の子?」

「馬鹿! 魔女に決まってるだろ!」


 親衛隊の兵士達が一瞬気を許すほど、レリアは穏やかな空気を醸し出しながら、彼らに向かってゆっくり歩く。


「止まれ! 止まらないと撃ち殺す!」

「ふふふ、降伏した方が身の為ですよ? 皆さん、降伏してください。そうすれば命はお助けします」

「ば、馬鹿を言え! 降伏するべきはそちらな方だ!!」


 20人ほどの兵士が一斉に銃口を向けた。だがレリアは全く怯むことはない。微笑みを浮かべながら一歩ずつ距離を詰めてくる。


「クソッ。う――」

「し、少佐?」


 命令を下そうとした親衛隊少佐はしかし、それを果たせなかった。彼は電源を切られたかのように、全く身体の力を失って倒れ伏せたのだ。


 兵士達は呆然とその様子を眺めていた。理解が追いつかない。何をされたのか全く分からないどころか、その体に外傷の一つもないのに、彼は死んだのだ。


「う、撃て!!」


 すっかり恐慌状態に陥った兵士達は突撃銃の引き金を引いた。数百の対人徹甲弾がたちまちレリアの体を貫き、その白い服装を赤黒く染めていく。彼女の体はもう真っ赤に染まった。


「う、撃ち方止め! 止めろ!」


 レリアが無反応になったところで、ようやく射撃を止めた。しかし、これで終わる筈もない。


「はは、ははは……」


 レリアは血塗れになりながら、静かに笑った。その狂気的な様子に、兵士達は背筋が凍る。


「こんなもので私を殺せはしませんよ」

「お、お前は、何なんだ……」

「これは失礼。自己紹介をすっかり忘れていました。私は陽の魔女、レリア・ファン・ルミエールと申します」

「ま、まさか、レギオー級の、魔女……」

「はい、その通りです」


 レリアは笑顔で答えた。そして兵士達は、自分達では彼女に手も足も出ないと悟った。それでも、震える手で彼女に銃口を向けるしかなかった。


「あらまあ、残念です。皆さん死にたいんですね。それでは、さようなら」


 果たして、彼らは一瞬にして全滅した。


 ○


「閣下! 右翼の部隊が、突破されました!!」


 カルテンブルンナー全国指導者にその報告はすぐに届いた。


「何? 突破された? 突破したの言い間違えではないのかね?」

「い、いえ。第15小隊は壊滅しました。報告によると、敵はレギオー級の魔女とのこと!」

「レギオー級、か。なるほど。ここで繰り出してくるか。であれば、ハーケンブルク少将に頼むしかあるまい」


 レギオー級が出てきたとなれば、シグルズが対処する。それはゲルマニア軍にも親衛隊にも常識だ。レギオー級の力を使えば相手のレギオー級が出てくるのである。


「それでは、ハーケンブルク少将閣下に連絡を入れます」

「そうしろ」


 シグルズに増援要請をするべく、兵士は通信をかけた。しかし返ってきたのは予想外の返答であった。


「し、少将閣下は、レギオー級の魔女と交戦中とのこと!」

「どういうことだ? ……いいや、難しいことはないか。我々が敵をレギオー級の魔女と誤認したか、敵にレギオー級の魔女が二人いるかだ」

「ふ、二人……」


 そうなるとかなり厳しい。シグルズなしでレギオー級の魔女に対抗出来る人材はいないのだ。


「敵の正体を確かめろ。本当にレギオー級ならば、対策を考えねば」

「はっ!」


 そうしてカルテンブルンナー全国指導者は情報収集に務め、最終的に敵がレギオー級の魔女であると判断した。しかもゲルマニアも大八洲も戦ったことのない新手の魔女であると。


「ヴェステンラントの五大二天の魔女。そのうちの六人までは、名前と魔法の特徴くらいなら知れている。今回は最後の一人が出てきたのだろう」

「最後の一人……。残るは陽の魔女、でしたか」

「ああ。陽の魔女、レリアだ」


 敵が何なのか、突き止めるのにそう時間はかからなかった。


「とは言え、能力の分からないレギオー級などやっていられん」

「レリアが使うのは光の魔法とヴェステンラントは公表していますが、光の魔法とは……」

「ああ。全く分からん」


 光の魔法なんぞ見たことがない。しかし親衛隊はレリアと戦わなくてはならない。

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