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宮殿中央への突入

 その頃、カルテンブルンナー全国指導者率いる親衛隊機甲師団はシグルズとは別の方面からノフペテン宮殿に突入し、いくつかの棟を制圧しつつ前線を押し進めていた。


 機甲師団という名に反して戦車は全て城の外に置いて来ているが、それでも最新の装備を優先的に配備されていた彼らはヴェステンラント派遣ゲルマニア軍の中で最も強力な部隊であることは間違いない。突撃銃や機関短銃をはじめとして、様々な試作兵器が彼らには配備されているのだ。


「さて、我々の障害となるものは殲滅した。そろそろ女王陛下とやらのお姿を拝みに行こうではないか」

「はっ」


 敵は文字通り殲滅した。カルテンブルンナー全国指導者は一人も捕虜を取ることなく、全ての魔導兵と魔女を皆殺しにしたのである。そして彼らは今、王宮の中核を成す連結された建物の群れに突入しようとしていた。


 カルテンブルンナー全国指導者は、その名の通り全親衛隊の最高指導者である。親衛隊の中での重要度は、ゲルマニア軍で言えばカイテル参謀総長に匹敵するものだ。だが彼は最前線で銃を取り、兵士達と共に戦っている。


「内部に魔導反応を確認。やはり我々を待ち受けているようです」

「そうだろうな。この城は根本的に防御を考えていない。マトモな人間が設計したのなら、構造物は環状に配置されているだろう」

「確かに、この宮殿、誰が造ったんでしょうか……」


 やはり中途半端だ。宮殿の外周こそそれなりに敵を迎え撃つ気はあるようだったが、それを突破してしまえば脆弱な王宮。最初は全く戦争を考えないで宮殿を造って、その後慌てて防衛装置を付け加えたような、そんな城である。


 つまるところ、もう彼らを阻み得るものはないということだ。


「では行こう。総員、進め」

「はっ!」


 親衛隊は人の胸ほどの高さの長椅子のような盾を押しながら、王宮の一角の扉の前に並んだ。立派な木の扉であるが、要塞としては機能不足も甚だしい。


「では、扉を開けます」

「ああ。やれ」


 カルテンブルンナー全国指導者は一門の野戦砲を持ってこさせ、扉に向けた。そして躊躇なく砲弾を叩き込ませた。扉は穴が開くどころか、砲弾の衝撃に耐えられずに粉砕された。


 その先には相変わらず頑丈な壁に身を隠した多数の魔導兵。そして吹き抜けになった大広間の二階には紫の杖を構え、自分の前に防壁を張った魔女達が見える。戦端が開かれると同時に、魔導兵は魔導弩による射撃を開始した。


「応戦しつつ、進め」

「はっ」


 全国指導者は兵士達と共に盾の後ろに身を潜めながら指示を出す。少し進んだところ、部隊が上階の魔女達の射角に入るギリギリで、彼は兵士の進軍を停止させた。


「さて、魔女を排除する。狙撃兵、射撃用意」


 その号令と同時に、数名の兵士が盾に一際長く重厚な銃の先を載せ、照準器を覗き込んだ。


「対魔女狙撃銃……ライラ所長の新しいおもちゃの威力、試させてもらおうではないか」


 全国指導者は子供のような心底楽しそうな微笑みを浮かべる。


 彼らに配備されている新兵器の一つ、まだ試作品で少数しかこの世に存在しない対魔女狙撃銃。地球では対戦車ライフルに近しい武器だ。あまりにも大きくとても野戦で使えたものではない。だが、機関砲並みの口径の対人徹甲弾を長大な銃身から発射するこの銃の破壊力は、並みの銃とは比べ物にならないものだ。


「射撃用意、完了しました!」

「よし。全員伏せろ!」


 射撃に伴う衝撃はかなりのものだ。兵士達は一瞬だけ射撃を止め、頭を抱えて小さくなる。


「撃て!」


 そう言った途端に耳を塞いだカルテンブルンナー全国指導者。こんな近距離で対魔女狙撃銃の銃声を聞いたら鼓膜が破れるだろう。既に照準を定め引き金を引くだけであった狙撃兵達は、すぐにそれを実行した。


「効いています! 魔女を吹き飛ばしました!!」


 魔女が自身の前に作っていた壁は一撃で粉砕され、魔女の体もまた真っ二つに破壊された。一撃でコホルス級の魔女を葬る威力を、この銃は証明してみせたのだ。


「よろしい。牽制射撃を再開しろ」


 間髪おかずに戦闘を再開する兵士達。まだ魔女は2階に残っている。


「しかし、これだけの武器があれば、重騎兵も敵ではありませんね」

「いいや、そう上手くはいかぬよ。対魔女狙撃銃は取り回しが悪過ぎる。動き回る敵兵相手にはまるで使えん」


 人が歩く程度の速度であっても、この銃で移動する対象を狙い撃つのは困難だ。


「それに、耐久性を確保する為、装填は昔ながらの先込め式。とても主力兵器にはなり得ない」

「そ、そうですね……」


 この銃はとにかく強力な弾丸を高速で射出することに全てを注いでいる。その為には銃身を頑丈にする必要があり、それを実現する為、火縄銃のような弾を銃口から装填する機構を採用している。


 いずれにせよ、特殊な状況下でしか役に立たない武器であるのは間違いないだろう。


「もっとも、今はこの銃が輝く時ではあるがな」

「敵が動かないのなら、そうですね」

「そうだ。狙撃班、次弾装填急げ!」


 カルテンブルンナー全国指導者は上に陣取る魔女をこれで殲滅する気である。

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