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最初の拠点Ⅱ

 20人ばかりの兵士達が迅速に侵入し、床に這いつくばりながら銃を撃つ。最初は状況を掴むことも出来ずにいた魔女を討ち取ることが出来たが、一度状況を理解すると彼女らは鉄や石や木の壁を作り出し、対人徹甲弾も全く通じなくなった。


「クソッ! 弾が通じません!」

「撃ちまくれっ!! 奴らの魔法を使い切らせるんだ!!」


 対人徹甲弾の威力であれば、魔法の消耗も激しい筈。エスペラニウムを使い切らさせるのはずっと昔から魔法を持たざる者の基本戦術である。


 しかし、敵も流石はコホルス級の魔女達。その魔法が尽きる気配はない。それどころか、兵士達を仕留めるべく、ゆっくりと前進し始めた。


「食い止めろ!!」

「む、無理で――うっ……」

「おい、大丈夫か!?」


 どこからか飛んできた木の枝が匍匐する兵士の胴体を貫き、床に括り付けた。急所は外れて死にはしないものの、その場から動くことが出来なくなってしまう。一人だけにとどまらず、次々と降り注ぐ攻撃に、ゲルマニア兵は一人ずつやられていった。


「クソッ! 少将閣下! こちらはもう限界です!」


 シグルズに通信を掛ける。限界まで耐えて敵を誘引せよというのは、シグルズから直々の命令であった。


『そうか。よく耐えてくれた。あと少しだけ耐えてくれ』

「……はっ!」


 そしてシグルズは、すぐに次の手を打つ。


『第二部隊、突入開始! 魔女共をことごとく撃ち殺せ!!』


 向かい側の穴から兵士達が突入した。そして第一部隊を包囲した魔女達を横から狙撃し、たちまち壊滅させた。魔女は正面にだけ防壁を貼り、側面と背後はがら空きだったのである。詰めの甘いことだ。


 戦闘には慣れていない魔女達は、連携を取って両方向からの銃撃を凌ぐということも出来ず、あっという間に数を減らしていく。


「閣下、2階の戦況は我が方が大きく優位です!」

『よくやった! このまま敵を押さえているんだ!』


 厄介な魔女を壊滅させることに成功した第88機甲旅団。これで状況は一気に改善された。そしてシグルズは決着をつけることを決断した。


「総員、進めっ!! 敵を押し潰す!!」

「「「おう!!!」」」


 主力部隊は壁のような盾を押し出し、慣れた動きでヴェステンラント軍との距離を詰める。2階ではゲルマニア側が魔女を追い詰めている。


「乗り込むぞ! 手榴弾を投げつけろ!!」


 かき集めた手榴弾をヴェステンラントの盾の向こうに投げつけ、統制を乱す。そして兵士達は一気に壁を乗り越え、対人徹甲弾を打ち込みながら向こう側に突入した。


 魔導兵の手元を撃って剣を叩き落とし、体に銃口を押し付けて撃ち殺す。銃の最大の利点を放棄した戦術に、第88機甲旅団の兵士達は適応し始めてしまったようだ。敵はまもなく戦意を喪失し、武器を捨て投降した。


「さて、終わったか。大分慣れたものだな、僕達も」

「うむ。だが、これはこの広大な宮殿のほんの端っこに過ぎない。この調子ではとてもやってられないぞ」


 オーレンドルフ幕僚長は言った。確かにその通り、こんな外れの塔を一つ制圧したくらいでは、何もしていないも同然である。


「まあな。しかしこんな状況、ちょっと前に見たことがあるな」

「地下街、ですか?」


 ヴェロニカはシグルズと同じことを思っていた。地下街で戦闘を開始した時も同じことを思ったものだ。しかし最終的に、ゲルマニア軍は勝利した。


「ああ、そうだ。そして僕達は、勝った」

「ですが……ここは最初から地上ですよ? 地下と地上で挟み撃ちみたいなことは出来ませんが……」

「それは確かに出来ないね。だが、だったら1階と2階で同じことをやればいい」

「なるほど。ただでさえ広い建物が連結されていることを利用すれば、案外大したことはないかもしれんな」


 どこかで2階を制圧してしまえば、そのまま2階を進んでいくことが出来る。今回のような戦術を封じると同時に、立体的に敵を挟撃することが可能だ。


「まあもっとも、宮殿が全部綺麗に2階建てだとは思えない。面倒なことには変わりないだろうけどね」

「そのくらいは仕方があるまい。全力で攻め込むとしよう」


 一先ず、シグルズはここまでの戦果をオステルマン中将に報告した。


『――よく分かった。相変わらずお前は期待以上の成果をもたらしてくれるな』

「そんなことは。僕は義務を果たしただけです」

『さて、宮殿の制圧は無理な話ではなさそうだ。10万、親衛隊を合わせれば11万で、落とせると思うか?』

「無論です。それだけの兵力があれば、大したことはありません。攻め口は多いですから兵士を遊ばせることはありませんし」

『分かった。お前の判断を信じる。ノフペテン宮殿を制圧し、可能な限り多くの捕虜を得るんだ』

「はっ! お任せください」


 オステルマン中将は、手榴弾や機関短銃などの閉所での戦闘に適した装備を集中して配備した10万の部隊を4方向から突入させた。たった一つの城を巡る戦いにしては破格の規模である。


「見たところ、ここから宮殿の大半の建物に渡ることが出来そうだ」

「魔導反応確認しました。やはり守りを固めていますね……。私達の考えは読まれているのでしょうか」

「気にするまでもないよ」


 シグルズは再び宮殿に突入する。

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