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最初の拠点

「手榴弾でも投げ込まれたのか? ……いいや、違うな」


 一瞬だけ自分の世界に籠って状況を分析するシグルズ。それがヴェステンラントの魔法による攻撃であると、瞬時に判断する。


「となれば、どこから撃ってきたんだ……」


 潜望鏡を色々と動かし、どこかにいる筈の魔女の姿を探すシグルズ。それを斜め上に向けた時、敵を発見した。


「2階というか中2階というか……か」


 外見から想像される通り綺麗な柱形になったこの塔。1階には円形の広間が広がっているか、それを上から取り囲むように、人が数人は通れるほどの廊下が設けられていた。体育館みたいな構造である。敵はそこから、ゲルマニア軍の斜め上方から魔法を飛ばしてきたのだ。


「よーし、全部分かった。が、どうしたものか……」

「し、シグルズ様?」

「ああ、ごめん。ちょっと考えごとをしていた」


 シグルズはヴェロニカだけでなく声の届く限りの兵士達に、自信が把握した敵の状況を伝えた。そしてそれへの対処が困難であることも。


 敵が自軍と水平にいるのならば、敵の姿を確認せずとも真正面に向けて銃弾をぶっ放せばいい。それで大体は正しい方向に飛んでいく。だが高さが違う相手を見ずに狙い撃つなどまず不可能だ。2階から撃ってくるという誰でも思い付く作戦を、シグルズは打ち破れなかった。


 そうこうするうちに、更に数発の魔法の火球が盾の後ろに飛んできて、兵士達を吹き飛ばし、彼らの体に火をつけた。服が燃えた兵士はシグルズが水をかけて直ちに助けるも、このままでは埒が明かない。


「シグルズ様、外から砲撃すればいいのではありませんか?」

「そんなことをしたらこの塔が崩壊するだろうね。まあここについてだけ言うのならば、建物ごと粉々にしても問題はないが、他の場所でやられたらそうもいかない」


 万一にも王族を殺してしまうような戦術は絶対に回避すべしと、ザイス=インクヴァルト大将から命令が下っている。王族がいないと確信出来なければ、建物ごと敵を吹っ飛ばすなんてことは出来ないのだ。


 つまり、この場を切り抜けること自体は可能であるが、そうすると今後敵が同様の戦術を採った場合にどうしようもなくなってしまう。この敵を撃滅する戦術を見出すのはシグルズの仕事である。


「とは言え、こんな単純な作戦なのに、単純故に強固。どうする……」


 シグルズは戦場を見渡す。取り敢えず上の階に登る階段を探してみると、敵の陣地の真後ろである。これではどうしようもない。


「……いや、そうか。別に馬鹿正直に建物の構造に従う必要もないじゃないか」

「師団長殿、何か思いついたのか?」

「ああ、思いついた。この状況を打開する戦術を。全軍、入口まで下がれっ! そのまで下がれば魔法は飛んで来ない筈だ!」


 部隊は塔の入口ギリギリまで後退し、銃撃を続ける。角度的に2階からの攻撃はここには届かない。一先ず安心である。


「それで? ここまで後退してどうするのだ?」

「敵の階段をわざわざ使ってやる必要はない。外から2階に直接突入すればいい話だ」


 城攻めの要領で梯子を掛け、面倒な魔女が陣取る2階に直接攻め込む。それがシグルズの作戦である。


「なるほど。しかし、魔女が居座る階に壁を打ち破って侵入するのは困難なのではないか?」


 確かに侵入しようとした瞬間に斬り殺されそうなものだ。


「敵の数はそう多くはない。囮を何ヶ所かに設けて敵を分散させればいける筈だ」

「そうか。ならば師団長殿のやりたいようにするといいだろう」

「そうさせてもらうよ。城攻用の装備をありったけ持ってきてくれ」


 一般的に攻城戦で使われる装備といったら梯子だ。ゲルマニア軍も常備している。頑丈さと安定性を兼ね備えた高級なものである。


「よし。ではまず、外壁に爆弾を取り付けるんだ。間隔は出来るだけ短く、たくさんの場所に。ただ塔が倒壊しないようには注意しろよ」

「はっ!」


 主力部隊がヴェステンラント軍と激しい銃撃戦を繰り広げる中、何本かの梯子が塔の外壁にたてあけられる。そして爆薬が壁に貼りつけられた。


「実際に突入するのは2カ所に絞ろう。他は囮だ。突入に備えよ!」


 爆薬は壁を破壊して内部に侵入する穴を開ける為のものだ。ただし、実際に兵士が侵入するのは2ヶ所だけ。他の全部は囮である。兵士達は梯子に並び、いつでも突入する準備を整える。


「準備、整いました」

「よし。爆弾を爆破せよ!」


 小さな爆発が10ヶ所ほど同時に起こった。外壁に穴が開き、地上から見上げるシグルズのすぐ近くに瓦礫が降り注ぐ。爆薬の量はちょうどよかったようだ。


「第一部隊、突入!! 急げっ!!」

「「おう!!」」


 まず一つの穴から兵士達が突入する。突撃銃を背負って大急ぎで階段を上り、塔の2階に突入した。幸いにして魔女達は突如として起こった爆発に右往左往しており、全く迎え撃つ態勢は整っていなかった。


「撃て撃て! もたもたしていると殺されるぞ!!」


 兵士達は無防備だ。塔に侵入すると同時匍匐し、視界に先にいる魔女に照準を合わせ、迷いなく引き金を引いた。後方に配置されていたころで魔導装甲を纏っていなかった魔女は、その本来の力を発揮することも出来ず撃ち殺された。

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