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王宮突入

「親衛隊機甲師団、全ての敵防衛線を突破し、王宮に到達した、とのことです」


 ヴェロニカは信じられないと言わんばかりの声音で告げた。実際、親衛隊が陸軍の数十倍の速度で進撃しているという事実はにわかには信じ難いものだろう。


「……どうやら、カルテンブルンナー全国指導者には軍事の才能があったようだね」

「そ、そうですね……」

「まあ、向こうは機甲師団なんてものを持っているんだ。少なくとも陸軍より速く進軍してくれなければ困る。これは僕にとっても嬉しいことだよ」


 シグルズとゲルマニアの上層部が最高戦力として重んじている機甲部隊。親衛隊機甲師団が成果を示せたのなら、シグルズの力がなくとも機甲部隊こそが戦局を打開する部隊なのだと、未だ懐疑的な連中にも分からせることが出来る。そして機甲部隊への投資が今後益々増えれば、ゲルマニア軍はより強くなれるのだ。


 もっとも、シグルズは親衛隊が民間人を巻き込んだ毒ガス攻撃で活路を開いたことを知らないのだが。


「は、はあ」

「とにかく、カルテンブルンナー全国指導者が敵をかなり引き受けてくれているようだ。昨日から防衛線の兵力が減っている」


 地下通路で睨み合う両軍。だがここ24時間くらいで、敵は兵力を幾分か引き抜いているようだ。いきなり現れて嵐のごとく戦場を荒らし回る親衛隊機甲師団に対応しなければならなくなったからだろう。


「これなら、突破は可能だ。僕達も王宮に急ぐとしよう」

「ま、またあれをやるんですか……?」

「ああ、そうだ。総員、盾を前進させろ!」


 第88機甲旅団は再び白兵突撃を試みる。防楯を兵士達が押し出し、ヴェステンラントの陣地に力づくで距離を詰める。そして両軍が肉薄したところで、ゲルマニア兵は魔導兵の待つ陣地に突入した。


 良いか悪いかは分からないが、第88機甲旅団も白兵戦に慣れてきたようだ。敵に銃口を押し付けて撃ち殺すことに手慣れてきている。まるで第89機甲旅団のようだ。


 敵の兵力は戦闘が開始された時点の半分未満にまで減っており、ゲルマニア軍がそれを壊滅させるのは時間の問題であった。シグルズが自ら剣を持つまでもなく、ヴェステンラント軍は逃げ去ったのであった。


「我が方の勝利です!」

「ああ、よくやった。このまま進むぞ」


 疲労も前回と比べれば少ない。シグルズは地下と地上で並行して、王宮への進軍を再開した。しかし、すぐにそれは停止する。


「行き止まり?」

「そのようです。これは後から塞いだというより、最初から先がないですね」


 工兵が袋小路の壁を叩きながら言う。どう見ても王宮に向かって一直線に伸びていた地下街は、しかし途中で途切れていた。


「ふむ……王宮には地上から行けということなのか、それとも迂回路があるのか、どちらかだな」

「周辺を捜索しますか?」

「そうしてくれ」


 かくして第88機甲旅団は周辺に兵士を遣ったが、どの道も行き止まりになっているようだった。


「どうやら敵は地下から王宮に入ることを許さないらしい。地上から攻めよう」


 地下通路は防衛上の弱点になると判断したのだろう。王宮まで地下から接近することは不可能であった。そしてシグルズ達はようやく、地上で活動することが出来る。


「師団長殿、地下はどうだった?」


 指揮装甲車に戻ると、オーレンドルフ幕僚長がそう尋ねてきた。


「どこから敵が襲いかかってくるか気が気でなかったよ。暗いしジメジメしているから環境は最悪だった」

「地下街などそんなものだろう」

「まあ、な」


 地球にあった地下施設と無意識に比較していたが、この世界の地下街など自然の洞窟と大して変わらない。環境が絶望的に悪いのは当然だろう。シグルズは地球で過ごしやすい地下空間を設計していた技術者達に尊敬の念を覚えた。


「さて、我々はようやく全軍が集結した訳だが」

「ああ。ノフペテン宮殿を目指す。もっとも、もうすぐそこだがな」


 高い城壁に囲まれた巨大で広大な王宮。その姿はもうはっきりと見える。もう少しだ。


「では行こう。第88機甲旅団、ノフペテン宮殿に向けて前進せよ!」

「はっ!」


 機甲旅団は荒れ果てた市街地を進軍する。ヴェステンラント軍からの襲撃は数度あったが、普通に地上を歩いて移動しているようで、簡単に撃滅することが出来た。そうして第88機甲旅団は、王宮への二番乗りを果たした。


 王宮は高さ10パッスス以上の城壁が囲み、それを囲むように水堀が掘られている。しかし水堀には頑丈そうな橋がかかっており、正直言ってその防御機能は見掛け倒しだろう。


「師団長殿、敵は反撃してくる気はなさそうだが」


 城壁はあるものの、兵士が詰められるような構造にはなっておらず、本当にただの壁である。これでは宮殿への侵入を拒むことは出来ない。


「王宮に引き込んでいるらしいな。だったら受けて立とうじゃないか」

「戦車は突入出来なさそうだから、歩兵だけで戦うことになるぞ」

「慣れたことさ」


 橋も城門も戦車はとても通れそうになかった。歩兵だけのゲルマニア軍は、ついにノフペテン宮殿に足を踏み入れたのであった。

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