親衛隊機甲師団
「全軍、前進しろ。目標は王宮である」
カルテンブルンナー全国指導者が静かに命じると、機甲師団は轟音を立て、焼けた都市を進み始めた。戦車隊が強力な矛となり、装甲車がそれに続く。
と、早速、前衛の戦車数両が突然大破炎上した。間違いなく陸軍からの報告にあった、ヴェステンラント軍の攻撃であろう。
「敵の所在は分かるな?」
「はい。概ねは」
「それでいい。全軍、敵の存在する区画を焼き払え」
「はっ!」
敵の位置は味方の被害状況と魔導反応などからおおよそ分かる。カルテンブルンナー全国指導者は、その「おおよそ」に含まれる範囲全てを焼き払うように命じたのである。
その命令と同時に戦車隊は一斉に榴弾を放ち、装甲車隊は迫撃砲を全力で撃ちまくる。目標の区画では立て続けに爆発が起こり、建物の破片が激しく燃え上がった。
「魔導反応消失。敵は沈黙しました」
「よし、このまま進め」
民間人の被害など微塵も考えない戦術である。いくら民間人の大半が地下に避難していることを事前に知っていても、そう簡単に実行に移せる作戦ではない。流石、総統に仇なす者を根絶やしにすると公言している組織なだけある。
機甲師団は街の残骸を踏みつけながら、猛烈な勢いで進軍する。それを阻める者はどこにもいないようかに思われた。が、敵も黙ってやられてやる気はないらしい。
「……閣下! 前方に二千程度の魔導反応を確認しました!」
「ほう。我が軍と正面から戦おうと言うのか。よろしい。全軍止まれ。その挑戦状、受けて立とう」
一見すると瓦礫の山しかないが、そのあちこちに地下街に通じる入り口がある。ヴェステンラント軍は機甲師団の前に戦力を集中させ、その至る所から兵士を出撃させていた。そして魔導兵は一斉に射撃を開始した。
無数の矢が飛来するが、多数の矢が戦車の正面装甲に弾き返されたり突き刺さったりし、正面から撃破された戦車は極僅かである。
「ふむ……。敵軍の攻撃力はまた上がっているようだ。正面装甲でも場合によっては貫かれるとは」
カルテンブルンナー全国指導者は余裕げに紅茶を一杯。
「どうされますか? 距離を詰めると、撃破される可能性が上がってしまいますが」
「砲撃しろ。人の造ったものが残らないほど、全てを焼き尽くせ」
「はっ!」
戦車は反撃を開始した。容赦のない砲撃の目標は射程に入る限りの全てである。榴弾が次々と炸裂し、辛うじて家屋の形を保っていた残骸をただの木片へと加工していく。多くの地下への入り口が爆発で埋めたてられ、魔導兵は爆発に巻き込まれるか生き埋めになって死んだ。
「魔導反応、あまり減っていません」
「この業火を浴びても耐えるとはな。では、毒ガス弾を使用する」
「よ、よろしいのですか? 地下街などに放ったら、多くの民間人が死ぬと思われますが……」
「ヴェステンラント人は全て、我が国の敵だ。情けは無用。今すぐに実行しろ」
「はっ!」
毒ガスを直接放出する方式では至近距離でしか使えないということで、ライラ所長がこっそり研究していたのが毒ガス弾である。名前の通り、毒ガスが充填された砲弾だ。これを打ち込めば空気よりも重い毒ガスは地下に流れ込み、兵士も民間人も問わずに殺し尽くすだろう。
カルテンブルンナー全国指導者は民間人の保護などには全く配慮することなく、毒ガス弾を撃ち込ませた。毒ガス弾なので撃った直後は何も起こらないが、暫くしてその効果が見えてきた。
「魔導反応、減ってきました!」
「やはりヴェステンラントの工業力程度では、全ての兵士に防毒装備を行き渡らせることは出来なかったようだな」
「そのようです」
「追い打ちだ。毒ガス弾をもう一度撃ち込め」
「……はっ!」
ダメ押しに毒ガス弾を再度斉射。みるみるうちに減っていく魔導反応を見ているのは、いくら親衛隊員でも気分のいいものではなかった。
「これより沢山の人間が、地下で死んでいるのでしょうか」
「そうだろう。民間人の方が兵士より大いに決まっている」
民間人を犠牲にすることを厭わない戦術で、気づけば敵の兵力は半分未満に減っていた。
「敵の陣形は崩壊した。全軍、突撃せよ。我が総統に弓引く愚か者を蹂躙しろ」
毒ガスに苦しむ兵士達に、機甲師団は突撃した。魔導兵はロクな抵抗も出来ず、榴弾で爆殺され、装甲車から繰り出した兵士達に射殺された。かくしてヴェステンラント軍の一大陣地を破壊した機甲師団は、止まることなく前進し続ける。
「敵軍が出て来なくなりましたね……」
それからというもの、敵が全く攻撃してこなくなった。機甲師団はすっかり我が物顔で王都を進撃していた。
「我が軍に恐れをなしたか。ふん、つまらない連中め」
「敵の罠という可能性は……」
「それならば、正面から粉砕するのみ。我らの進軍は、何者も止められぬ」
機甲師団は敵の策略など恐れずに進み続けた。そして僅か2日で王宮の目前にまで到達居たのであった。陸軍が敵の戦力の大半を引き付けてくれているにしても、圧倒的な進軍速度であった。