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ゲルマニアの進撃

 シグルズは地下に築かれた要塞の一角を突破した。つまり他の防衛線を背後から突けるということであり、ゲルマニア軍の勝利はほとんど決定したようなものだ。シグルズ率いる地下部隊とオーレンドルフ幕僚長率いる地上部隊が連携した攻勢を開始した時点で、ヴェステンラント軍は敗北を悟り、撤退を開始した。残されたのは静かで暗い地下街だけである。


「さて……これでヴェステンラント軍の一大拠点を潰した筈だ。あるとしたら、王宮の手前に最終防衛線でもあるかもな」


 地下の要塞の存在を事前に察知することは出来ない。もしかしたらもっと奥に強固な要塞があるかもしれないが、そこまでするというのは考えにくい。


「閣下、特に作戦に変更はありませんか?」

「ああ、作戦はこのままだ。王宮まで一直線に進軍する」


 第88機甲旅団はこのまま前進する。暫くは手前の敵と同じく小部屋の敵を制圧しながら軍を進めたが、またしても太い廊下を封鎖する防衛線にぶち当たってしまった。


「クソッ。思ったより備えがいいようだな」

「まあ、王都ですからね……。敵も本気なんだと思います」


 ヴェロニカは言った。まあ確かに、王都なのだからヴェステンラント軍が全力で防衛しているというのは、極自然な話だ。だが、シグルズは何とも言えない違和感を覚えている。


「……まあ、そういうことにしておこう」

「シグルズ様……?」

「確かにさっきの要塞とかこことかは、全力で迎撃しているように見える。とは言え、その2ヶ所だけだ。他は攻めるでもなく守るでもなく、やられるままに放置しているようにしか見えなかった」

「は、はあ……」


 実のところオーギュスタンの思惑に半分気付いているシグルズであったが、作戦を変更するほどの決定的な証拠は何もなかった。


「そ、それで、どうするのですか? また前回と同じく、強行突破をするのでしょうか……?」


 大きな犠牲が出る強行突破だ。シグルズとしてもあまりやりたくはない。とは言え、それ以外に有効な戦術も思いつかない。


「仕方ないが、それしかないだろう。総員、準備を」


 と、その時であった。


「あれ、シグルズ様、通信がシグルズ様宛に来ています」

「僕に? 誰からだ?」

「ええと……これは、親衛隊から、みたいです」

「親衛隊? 何でそんなのがいるんだ?」


 魔導通信は世界の反対側とも繋ぐことが出来るが、それはあくまで事前の準備があってのことである。戦場の最前線にいるヴェロニカの通信機に繋いできたということは、近くに親衛隊がいるということだ。社会革命党の私兵として基本的に国内からは出てこない筈の親衛隊が。


「さ、さあ……」

「まあいい。繋いでくれ」

「はい!」


 全く意味が分からないが、シグルズは通信を受けた。


「こちら第88機甲旅団、ハーケンブルク少将。そちらは?」

『親衛隊全国指導者、カルテンブルンナーです。少将閣下、ご機嫌よう』

「カルテンブルンナー? そ、そうか」


 よりにもよって親衛隊の最高指導者がやって来ているらしい。益々意味が分からない、と思ったが、よくよく考えてみると一つ思い当たることがある。


「まさか、娘を助けに来たとでも?」

『まさしく、その通りです。本当ならば我が娘を危険に晒した海軍を粛清したいところですが……それは置いておいて、帝国本土の最精鋭部隊を引き連れ、参陣致しました』

「帝都防衛を放棄してでもやることなのか?」

『帝都に危害を及ぼせる勢力は、この世界に存在しません。問題はないでしょう』

「……それで、何の為に通信なんてかけてきたんだ?」

『ああ、申し訳ありません。閣下にはもう犠牲を払って頂く必要はありませんと、お伝えする為です』

「何だと?」

『我が機甲師団は、陸軍が敵軍を引き付けているところ、横から殴りかかります。我々が王宮への道を切り開きますので、ご安心を』


 機甲師団と言うと、ざっと機甲旅団の3倍の兵力を擁している筈だ。まったく大層なことである。


「……手柄を横取りしようとしているんじゃないか?」

『いえいえ、我々はそんなことには全く興味ありません。忠誠こそ我が名誉。我が総統への忠誠以外、我々は知りません』

「……分かった。好きにしてくれ」

『無論です』


 通信は終了した。


「し、シグルズ様、どうでしたか?」

「よく分からんが、援軍が来たらしい。僕達はここで敵軍を引き寄せておき、援軍に任せる。まあロクな実戦経験もない連中に期待出来るかは分からないけど」

「は、はあ」


 シグルズは防楯を繰り出して魔導兵と銃撃を交わし、可能な限り敵を牽制する。そして一先ず、カルテンブルンナー全国指導者に任せてみることにした。


 ○


 その頃、王都ルテティア・ノヴァ西部にて。


「我が忠義の軍団、素晴らしいな」


 カルテンブルンナーは指揮装甲車の中で紅茶を楽しみつつ、視界を埋め尽くす戦車と装甲車を眺めていた。


 機甲師団というのは名前だけではなく、本当に機甲旅団の3倍の戦力を擁している。およそ1,000両の戦車と500両程度の装甲車で構成された完全な機械化部隊である。

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