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地下の決戦Ⅱ

 双方が遮蔽物に身を隠し激しい射撃戦を続けること数十分。体のほとんどを隠している両軍に、死者は全くと言っていいほど出なかった。精々手首から先が消し飛んだくらいのものである。


「シグルズ様……何も進展していない気がするのですが……」


 ヴェロニカは言った。それはここにいる誰もが思っていることだろう。


「そうだね。地上からの攻撃も失敗したし、敵も全く僕達を通す気はなさそうだ」

「で、では……」

「作戦は第二段階に移行する。総員、盾を前進させろ!!」

「前進?」

「そうだ。この盾は、前後左右に動かせるように出来ているからね」


 兵士達を守る壁のような盾。それは左右だけでなく、前後にも自在に移動させることが出来る。まあ自在とは言って数十人で全力で押さなければ動かないが。


「押せ! 奴らとの距離を詰めるんだ!」


 半分の兵士が牽制射撃を続けながら、もう半分の兵士が全力で盾を押す。鉄の壁はゆっくりと、敵の陣地に向かって進み出した。


「よし! このままだ! 進み続けろ!!」


 激しさを増す魔導兵からの射撃などにはビクともせず、機甲旅団は一歩一歩着実に前進する。


「敵兵です! こっちに突っ込んできます!」


 その時、陣地を飛び出して数十人の重歩兵が突撃を仕掛けてきた。この狭い戦場ではそれだけでも十分な突破力があるだろう。


「迎え撃て!!」

「「おう!!」」


 盾を進めるのを一時停め、ゲルマニア兵は全力で迫り来る魔導兵を撃つ。対人徹甲弾の連射により先頭から次々に魔導装甲が貫かれるが、それでも勢いを殺すには至らず。


「つ、突っ込んで来ます!」

「下がれっ!!」


 魔導兵が壁に辿り着く寸前、シグルズは兵士を下がらせた。


「撃ち殺せっ!!」

「「おう!!」」


 魔導兵は壁をよじ登ろうとするが、そう簡単に乗り越えられるものではない。突破しようともがいているところ、第88機甲旅団の斉射を受けてたちまち撃ち殺され、全滅した。


「て、敵、全滅……」

「よし! 進み続けろ!」


 気を取り直して壁を進めるゲルマニア軍。敵も積極的な攻撃は諦めたようだ。射撃の勢いも緩んできている。そしてついに、ゲルマニアの壁とヴェステンラントの壁が肉薄した。相手の表情がよく見えるほどの距離である。


「総員、乗り込めっ!!」

「「「おう!!!」」」


 ゲルマニアの壁はこちら側に段差があり、簡単に乗り越えられるようになっている。ゲルマニア兵は突撃銃を乱射しながら壁を飛び越え、魔導兵を踏みつけながら、ヴェステンラント軍の陣地に突入した。


「数で押し切れ! 勢いを殺すな!!」


 次々と突入するゲルマニア兵。すぐさま魔導兵に斬り殺されるが数十であったが、それとほぼ同数の魔導兵を撃ち殺した。そしてそんなことにはお構いなしに、ゲルマニア兵は次々と突入する。


「手榴弾を投げ込め! 敵の陣形を崩し、突破しろ!!」


 敵の陣形は縦深に富んだものであり、このままではゲルマニア軍の勢いが吸収されてしまうだろう。そこで、シグルズは敵の後方にありったけの手榴弾を投げさせ、魔導兵を殺傷すると共に陣形を大いに乱した。


 銃を撃つこともままならず、敵も剣を振るうことが出来ず、取っ組み合いのような戦闘があちらこちらで起こっている。甚だ原始的な戦闘であるが、それなら数で優るゲルマニア軍が有利だ。


「人海戦術、と言ったところか……。美しくないな」


 全く非文明的な戦いに、シグルズは少々苛立った。だが、これが最適な戦術であることは恐らく間違いないだろう。指揮をする必要すらなくなったと感じたシグルズは、自らも戦いに参加することにした。


「さて、行くか」


 魔導剣を作り出し、白い翼で少しだけ飛んで兵士達の頭上を通り抜け、敵軍の少し後方に飛び降りた。真下にいた数人は瞬く間に叩き切る。


「さあ、君達が欲しい大将首だぞ! 褒美が欲しければかかってこい!」


 シグルズが兵士達を焚き付けると、すぐに襲いかかってきた。ヴェステンラント側ではシグルズの命に相当な値打ちがあるからだ。


 しかし、魔法使いとしては最下層の魔導兵ではレギオー級並の力を持つシグルズに手も足も出ない。両手に長剣を握りしめたシグルズは、竜巻のように兵士達を血祭りにあげたのであった。


「閣下! ご無事ですか!?」

「みんな来たか」


 シグルズとの間にいた魔導兵は壊滅し、兵らはシグルズと合流した。


「ああ、問題ない。さあ、敵はまだまだいるぞ! 進めっ!!」

「「「おう!!!」」」


 ゲルマニア軍の鬨の声が響き渡る。第88機甲旅団は戦場の勢いを完全に掌握したのであった。


 そして勢いを得たものこそ戦いの勝者。ヴェステンラント軍は総崩れに陥り、命からがらといった様子で暗闇の奥へと逃れたのであった。


「ふぅ……終わったな」

「そうですね……」


 シグルズは溜息を吐きながら壁を背に座り込んだ。横を見れば、ゲルマニア兵とヴェステンラント兵の死体が絨毯のように並んでいる。地下通路には血の匂いが充満し、暫くは匂いは取れないだろう。


「これで、損害はどれくらいだ?」

「300は死にましたね……死傷者ならもっと」

「そうか。まあ、覚悟はしていたことだ」


 本来なら帰投すべき損害であるが、シグルズに歩みを止めるという選択肢はなかった。

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