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地下空間の戦闘Ⅱ

 第88機甲旅団は部隊を2つに分けた。片方はシグルズ率いる部隊であり、地下街を進んでいく。そしてもう片方はオーレンドルフ幕僚長率いる部隊であり、シグルズの真上を進む。


「シグルズ様、魔導反応を確認しました!」

「よし。とっとと落とすぞ」


 シグルズはランプを消させて息を潜め、ヴェロニカが発見した魔導反応に近づく。今回は隠し扉ではなく、通路の壁に普通に扉があった。


「さて。オーレンドルフ幕僚長に連絡。ここのすぐ近くに出入口がある筈だ」

「はい!」


 扉の先には魔導兵。恐らくそのすぐ上に地上に通じる階段があるだろう。オーレンドルフ幕僚長にこのことを伝えると、彼女はすぐに地下への入口を発見した。


「地上部隊が地下への入口を発見しました」

「よし。じゃあ行くぞ」


 魔導兵の陣地を地下と地上から挟み撃ちにした。


「3、2、1、突入!!」


 そして両方から同時に兵士が突入した。敵は地下からの攻撃に備えていたようだが、地上から――つまり背後からの奇襲によって、たちまち壊滅した。かくしてあっという間に敵拠点の一室を落とすことに成功した。


「これはいい作戦だ。机上の空論では全然なかったな」


 まだたったの一部屋であるが、オステルマン中将の提案した作戦は大成功である。かくしてゲルマニア軍の進軍は加速するのであった。


 ○


 ACU2315 2/9 ノフペテン宮殿


「殿下、市街地のおよそ20パーセントが落とされました。ゲルマニア軍は我が方の作戦を完全に見抜いているようです」


 自室に引き籠もり読書に耽るオーギュスタンに、その報告が入った。


「ゲルマニア軍の学習能力は、予想以上のもののようだな。流石だ。こうでなくては私の相手は務まらん」

「どうするのですか? この調子では2ヶ月もしないうちにルテティア・ノヴァが奪われてしまいますよ」

「そうだな。時間を稼いで悪いことはない。少しは策を講じるとしよう」

「時間稼ぎ、ですか? 殿下はルテティア・ノヴァを囮にする気なのですか?」

「半分正しく、半分間違っている。安心したまえ。私とて王都を捨てることの意味は分かっている」


 オーギュスタンはヴェステンラント軍にも全然信用されていないのであった。


 ○


「これは……」

「通路が塞がれていますね」


 地下通路がゴツゴツとした岩で埋め尽くされている。明らかに後から埋められたものだ。どうやらヴェステンラント軍は、地下から進攻されることを嫌い、地下通路を分断することを選んだようだ。


「シグルズ様、どうしますか?」

「取り敢えず、破壊を試してみよう。工兵、ありったけの爆弾を取りつけろ!」


 こんな粗雑な封鎖だ。破壊出来る可能性は高い。所有する爆弾をありったけ岩に取りつけ、兵士達はかなり離れて、そして爆破した。地下通路自体が崩れ落ちそうな衝撃が走るが、崩落するようなことはなかった。


「さて……どうなったかな」

「崩れていません! 岩の層は予想以上に厚いようです!」

「クッ……どこからこんな量の岩を集めてきたんだ」


 岩はかなり抉れているが、その奥にまた岩石の壁が姿を現す。本当に地下通路を岩で埋めつくしたのではないかと思えるほどの岩が存在しているのだ。とても爆薬で吹き飛ばせるようではない。炭鉱夫でも呼んでこないとダメそうだ。


「シグルズ様、どうしましょう……」

「敵に進攻経路が制限されることになるね。とは言え、地下街は一直線じゃないし、こんな芸当を毎日のようにやれる訳がない。ならば、時間稼ぎにしかならないよ」


 王宮への最短経路を塞がれただけで、迂回路は無数にある。時間はかかるが、ゲルマニア軍の勝利は揺るがない。シグルズはそう確信している。


 第88機甲旅団は一度後退し、別の経路から王宮に進攻する。


「閣下! 扉があります!」

「扉?」

「魔導反応はありませんが……」

「ふむ……」


 可能性は二つ。扉の向こうに本当に魔女や魔導兵がいないか、或いは魔導反応を隠しているか。後者だった場合、敵が計画的に行動しているということだ。


 オーレンドルフ幕僚長に地上を探させたが、ここには地上への出口はないようだ。


「これまでより敵が態勢を固めている可能性がある。僕が突入するから着いてこい」


 シグルズは自分が先頭に立って突入することに決めた。銃を構え、扉を蹴破る。


「降伏しろ!!」

「ま、待ってください! 殺さないで!」

「っと……」


 大きめの部屋の中には兵士などいなかった。代わりに絶望的な表情をして粗末な服を着た人々が床に座り込んでいた。


「君達は一般市民のようだな」

「は、はい。私達は軍に言われて地下に隠れているのです」

「なるほど。安心してくれ。騎士道精神と国際法に則り、僕達は君達を傷付けるつもりはない。それと、食糧はあるか?」

「一週間分ほどなら……」

「足りないな。我が軍の拠点まで送ろう。そこなら安全だ」


 シグルズは貴重な戦力を割いて、百人程度の民間人を後方に送り届けた。


「よかったのですか? 別に彼らを放っておいても……」

「民間人は保護しなければならない。もっとも、これも敵の嫌がらせの気がするがな」


 民間人を保護させるのもヴェステンラント軍の時間稼ぎだろう。しかしシグルズに、彼らを飢え死にさせることは出来なかった。

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