地下空間の戦闘
「この壁の先に魔導反応がありますね……」
「そうか……。隠し扉、的な奴かな。だったら爆破するまでだ」
何もない煉瓦の壁のすぐ先に魔導反応があるらしい。シグルズはとっとと真相を確かめることにした。
「工兵、爆弾を設置してくれ!」
爆弾を少々壁に貼り付け、兵士達は離れ、そして爆破した。壁は簡単に崩れて、軽く人間が入られそうな穴が出来た。
「本当に隠し扉だったとはな。っと」
その時、穴の奥から矢が飛んできて、反対側の壁に突き刺さった。
「向こうには敵がいるぞ! 制圧しろ!」
「「おう!!」」
兵士達は穴の左右に陣取り、体を僅かと銃口だけを出して、向こう側の敵に向かって銃弾をぶち込んだ。次々と穴の中から矢が飛び出してきて、数人の兵士の体を貫く。
「クッソ……。閣下! 敵はこれに備えていたようです! 遮蔽物の後ろから撃ってきます!」
「これは面倒だな」
シグルズも突撃銃で射撃しながら様子を窺う。穴の奥はそこそこ広い部屋になっており、人がしゃがめば隠れられるほどの厚い遮蔽物の後ろに魔導兵達が隠れ、魔導弩を連射している。ここで突入したらたちまち矢に串刺しにされること間違いなしだろう。
「どうされますか!?」
「僕がやりに行ってもいいが、僕達だけが勝てても意味がない」
シグルズが本気を出せばまあ勝てるだろうが、第88機甲旅団だけが進軍しても仕方がない。敵の戦術を見極め、ゲルマニア兵なら誰でも勝てる戦術を見出すのもシグルズの仕事である。
「し、しかし、そうなると物量で押し切るしかないのでは……」
「そういうことだな、仕方ない。出来るだけ犠牲が出ないように突撃するしかなさそうだ。手榴弾を用意しろ!」
兵士達は手榴弾を握りしめた。
「投げろっ!!」
部屋の中に10個ほどの手榴弾を投げ込む。そのうちの幾らかは遮蔽物の後ろに届いたようだ。そして地面に当たった瞬間、爆弾は一斉に爆発した。煙に遮られて与えた損害はよく分からない。
「……よし。突入!!」
「「おう!!」」
兵士達は煙の中に突入した。敵兵に正面衝突する勢いで我武者羅に突撃して、敵の存在を認めるとその魔導装甲に銃口を押し付けて撃ち抜いた。すぐに敵はいなくなった。
「誰かやられたか!?」
「4人ほどやられました!」
「……分かった。ヒルデグント大佐がいたら、楽だったんだがな」
無事に敵の一拠点を制圧することが出来た。どうやら地上への出口のすぐ下にある部屋だったようだ。出撃する兵士の控室みたいなものだろう。
「この調子では、王宮まで辿り着ける気がしないな……」
「手榴弾も、こんなに派手に使っていたらすぐに使い切ってしまいます」
「クッソ。厳しいな」
色々と悪条件が過ぎる。シグルズは地下に防衛線を構築させると、今しがた手に入れた階段から一旦地上に出た。
「死体が全くない……。一般市民も地下に隠れているのか? だったらとんでもないぞ……」
あまり気にしていなかったが、ルテティア・ノヴァの大量の瓦礫の割には死体が全く見当たらない。まるで無人の展示模型を破壊したみたいである。
もし、その住民が地下に逃れているのだとしたら、地下街の規模はゲルマニア軍ではどうしようもないほどに巨大だ。
「ヴェロニカ、オステルマン中将に通信を」
「はい!」
シグルズはオステルマン中将に通信をかけ、ここまでの戦闘の一部始終を報告した。
『――お疲れ、シグルズ。そしてその通り、作戦を考え直す必要がありそうだな』
「どうしましょうね」
考えるだけが気が遠くなりそうだ。
『そうだな。まあ考えられるとしたら、地上からの侵攻と地下からの侵攻を組み合わせるのがいいかもな。机上の空論に終わるかもしれんが』
地下と地上から同時に攻める。敵の地下街は地上のあらゆるところに出撃出来るように建設されているが、それは逆に地下のどこにでも直接侵入出来るということ。つまり地下にいる敵をいつでも挟撃出来る可能性があるということだ。
「なるほど。いけそうな気がします」
『それと、手榴弾が足りないんだったな』
「はい。たった一つの部屋の為に一日分の手榴弾を使ってしまいました」
『そうか。残念だが、お前達だけが戦っている訳じゃない以上、手榴弾をこれ以上供給するのは無理だな。本土に増産を要求しても、成果が出るのは何ヶ月後になることか』
「そうですよね。無理を言うつもりはありません」
戦線を縮小したとしても敵が集まってくるだけで意味はない。ここに来て補給の問題、と言うか生産能力の限界が見えてきてしまった。
『基本的に突破はお前達に任せる。他の部隊は基本的に囮だ。そして、王都への道を開いてくれ』
「はっ。承知しました」
第88機甲旅団を槍先にした進軍。戦車は使わないが、いつもとやることは同じである。
「シグルズ様、私達はまた地下で戦うんですか……?」
「まあね。正直気乗りはしないけど、やるしかない。それか、ヴェロニカは地上を担当してもいいけど?」
「い、いえ、私はシグルズ様といます」
「ありがとう。まあ、中将閣下の作戦が机上の空論じゃなければ、多分楽になる筈だから、気楽に行こう」
「は、はぁ」
シグルズとヴェロニカは地下に戻った。